最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

模造まつげケース事件

東京地裁平成22.5.14平成20(ワ)36851意匠権侵害差止等請求事件PDF

東京地方裁判所民事第40部
裁判長裁判官 岡本 岳
裁判官      坂本康博
裁判官      中村 恭

*裁判所サイト公表 2010.5.26
*キーワード:容器、包装、商品等表示、商品・営業主体混同惹起行為

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■事案

模造まつげケースの意匠の類否や不正競争行為性が争点となった事案

原告:化粧用雑貨品等製造販売会社
被告:化粧品装飾品製造販売会社

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■結論

請求棄却

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■争点

条文 不正競争防止法2条1項1号、意匠法23条

1 本件登録意匠と被告商品の意匠との類否
2 不正競争防止法2条1項1号該当性

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■事案の概要

本件は,原告が,被告に対し,(1)被告の製造・販売する商品が原告の有する後記2(2)の意匠権を侵害する,(2)被告が上記商品を販売することは不正競争防止法(以下「不競法」という。)2条1項1号の不正競争に該当するとして,意匠法37条1項,2項又は不競法3条1項,2項に基づき,上記商品の製造,販売,販売のための展示の差止め及び廃棄を求めるとともに,民法709条,意匠法39条2項又は不競法4条,5条2項に基づき,損害賠償金638万4000円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成20年12月27日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。』(2頁)

<経緯>

H17.7 原告が原告商品1を製造、販売
H20.5 被告が被告商品を製造、販売、展示
H21.1 原告が原告商品2を製造、販売

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■判決内容

<争点>

1 本件登録意匠と被告商品の意匠との類否

模造まつげケースに関する本件登録意匠(1262161号)と被告商品の意匠との類否について、意匠の構成、要部を検討した上で、類否を判断。
結論として、類似性を否定し、意匠権侵害を認めていません(33頁以下)。

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2 不正競争防止法2条1項1号該当性

原告は、原告商品1又は2について、不正競争防止法2条1項1号(商品・営業主体混同惹起行為)の

・模造まつげケース、上部カバー:「商品の容器」
・外部パッケージ:「商品の包装」
・台紙:「その他の商品又は営業を表示するもの」

にそれぞれ該当し、商品等表示に当たるとして被告の販売行為の不正競争行為性を問題としました(44頁以下)。

裁判所は、台紙が外部パッケージととともに容器を包むものであるとして、「商品の包装」に該当すると判断した上で、原告商品の容器・包装としての商品等表示性を検討しています。
この点について、『商品の容器や包装等が不競法2条1項1号の「商品等表示」に該当するためには,長期間にわたり使用,広告,宣伝等がされたり,短期間でも強力に宣伝広告されたりすること等の事情により,特定人の商品の出所を示す表示として需要者の間に広く認識され,自他識別機能ないし出所表示機能を獲得するに至っていることが必要というべきである。』(44頁)とした上で、原告商品の容器・包装には独自の特徴があると認められたものの、『その販売・広告期間が平成17年7月からの数年と比較的短期間であり,原告商品の販売数量,小売販売総額,宣伝広告費用の額,カタログの流通状況等が不明であること,原告商品の写真が掲載された雑誌も年間数冊発行された程度』(48頁)にすぎないと判断。
結論としては、自他識別機能ないし出所表示機能を獲得するに至っていたとまで認めることは困難であるとして、原告商品の容器・包装の商品等表示性を否定しています。

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■コメント

模造まつげや接着剤チューブといった小物を収納するためのケースの意匠の類否が問題となった事案です。
弁理士廣田先生の後掲ブログ記事に詳細な画像が掲載され、また意匠の論点について詳しく検討がされていますので、そちらをご覧いただけたらと思います。

本来、容器や包装は商品の出所を表示するものではありませんが、各事業者が販促目的で形状や模様などに工夫を凝らしており、それが長期間継続的に使用されたり、短期間でも強力に宣伝されると需要者に知れ渡り、容器や包装を見ただけで商品の出所が認識されるようになることがあります(小松一雄編「不正競業訴訟の実務」(2005)174頁以下参照)。

本件では、短期間での強力な宣伝力による特別顕著性付与が認められませんでした。

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■参考文献

小野昌延編著『新・注解不正競争防止法 新版 上巻』(2007)114頁以下

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■参考サイト

名古屋の商標亭(弁理士廣田先生執筆)
(2010年6月1日記事)
模造まつげ、すなわちアイラッシュ
(2010年6月2日記事)
まつげバシバシ