最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

脳機能画像解析学術論文事件(控訴審)

知財高裁平成22.5.27平成22(ネ)10004著作権侵害確認等請求控訴事件PDF

知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官 飯村敏明
裁判官      中平健
裁判官      上田洋幸

*裁判所サイト公表 2010.5.28
*キーワード:著作物性、アイデア、複製権、翻案権

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■事案

未公表の学術論文の共同著作物性や複製権、同一性保持権、公表権などの侵害性が争点となった事案

原告(控訴人兼附帯被控訴人):研究者
被告(被控訴人兼附帯控訴人):研究者

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■結論

控訴棄却、被控訴人兼附帯控訴人敗訴部分取り消し

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■争点

条文 著作権法2条1項1号、21条、27条、18条、20条

1 複製権及び翻案権侵害の有無
2 公表権及び同一性保持権侵害の有無

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■事案の概要

原告は,(1)第1論文が原告と被告との共同著作物であること,(2)第2論文を作成,発表した被告の行為等は,第1論文に係る著作権者(共有者)である原告の合意(著作権法64条1項,65条2項)に基づかずにした複製,翻案,改変及び公表に当たること,(3)したがって,被告の上記行為は,原告が第1論文について有する(共有する)著作権(複製権,翻案権)及び著作者人格権(同一性保持権,公表権)を侵害すると主張して,原告が,被告に対し,著作権法117条,112条1項,2項に基づく侵害の停止のための措置又は同法115条に基づく名誉又は声望の回復のための措置として,LWW社に第2論文の撤回の通知行為をするように求めるとともに,上記著作権侵害及び著作者人格権侵害の不法行為に基づく損害賠償を求めた事案(3頁)

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■判決内容

<争点>

1 複製権及び翻案権侵害の有無

原審では、第1論文(英文論文「音読と書き取りに共通する神経的相関についての機能的磁気共鳴画像研究」)の共同著作物性(著作権法2条1項12号)を肯定した上で、第2論文(英文論文「音素から書記素への変換に関する神経的相関」)が第1論文に依拠して無断複製や翻案されたものかどうかが争点とされました。
原審では複製権侵害が肯定されましたが、控訴審では、共同著作物と仮定した上で複製権侵害の部分についても否定する結果となっています(6頁以下)。

控訴審では、著作物(著作権法2条1項1号)の意義に言及した上で、

両論文を対比するに当たり,各部位の名称,従来の学術研究の紹介,実験手法や研究方法の説明など,内容の説明に係る部分は,事実やアイデアに係るものであるから,それらの内容において共通する部分があるからといって,その内容そのものの対比により,著作権法上の保護の是非を判断すべきことにはならない』(8頁)と説示。

原告が表現の共通する部分又は似通っていると主張した部分について、第1論文該当箇所の表現は、もっぱら対象となる現象を正確かつ客観的に記述、伝達する観点からごく普通に選択され、また、叙述方法や配列の点で格別の特徴があるとは認められないとして、ごく普通の構文を用いた英文で表記したものであって全体として個性的な表現ではなく創作性がない。また、表現の本質的な特徴部分も認められないとして、第2論文該当箇所は第1論文該当箇所を複製(21条)・翻案(27条)したものということはできないと判断しています。

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2 公表権及び同一性保持権侵害の有無

争点1の通り、複製や翻案にあたらないとして、公表権、同一性保持権侵害(18条、20条)があったとは認められていません(19頁)。

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■コメント

一審では、複製権、著作者人格権(同一性保持権、公表権)侵害を一部認めて慰謝料として30万円、弁護士費用10万円の合計40万円が損害額として認定されていましたが、控訴審では全て認められませんでした。

第1論文と第2論文とでは、研究の目的、仮題設定、結論を導く手法等において相違する論文でしたが、機能的磁気共鳴画像法(f−MRI)を用いていること、「音素−書記素変換」に活用される神経的基礎を明らかにする点などで共通するものでした。
しかし、似通ったとされる英文記述部分については、語句の選択、順序、配列(19頁)を含め、格別に著述者の個性が現れた表現とは認められない結果となりました。

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■過去のブログ記事

2009年12月28日記事(原審)
脳機能画像解析学術論文事件

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■参考判例

原審PDF
東京地裁平成21.11.27平成18年(ワ)第2591号