最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

ラーメン「我聞」専属契約事件

対飲食店コンサル会社
東京地裁平成22.4.28平成21(ワ)12902損害賠償請求事件PDF
対不動産管理会社
東京地裁平成22.4.28平成21(ワ)25633損害賠償請求事件PDF

東京地方裁判所民事第40部
裁判長裁判官 岡本岳
裁判官      鈴木和典
裁判官      坂本康博

*裁判所サイト公表 2010.5.7
*キーワード:パブリシティ権、専属実演家契約、不法行為

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■事案

タレントのショップ経営業務がタレント専属契約上の拘束を受けるかどうかが争点となった事案

原告:芸能プロダクション会社
被告:飲食店経営コンサルティング会社ら

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■結論

請求棄却

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■争点

条文 民法709条

1 被告らによるAに係るパブリシティ権侵害の成否

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■判決内容

<経緯>

H5.8.28  アップ・デイト社とタレントAが専属実演家契約締結
H15.3.1  アップ・デイト社がエターナル・ヨーク社に契約上の地位譲渡
H16.8.20 被告有限会社RPJ設立(被告Y代表)
H16.12.1 エターナル・ヨーク社と被告らと承諾書作成
H17.3.2  被告KNOS設立(被告Y代表)
H17.4    ラーメン店「我聞」(立川店)オープン
H18.5.25 エターナル・ヨーク社が被告KNOS及びAに肖像権等使用許諾書交付
H18.12.5 原告会社設立
H18.12.18エターナル・ヨーク社が原告に契約上の地位譲渡
H19.3.25 ラーメン店7店閉店
H21.7.13 アップ・デイト社、エターナル・ヨーク社、Aが合意書作成

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<争点>

1 被告らによるAに係るパブリシティ権侵害の成否

原告である芸能プロダクション会社は、被告らが所属タレントAの芸名や肖像等を無断で使用してラーメン店(タレントショップ)を経営したとして、被告らに対してパブリシティ権侵害を理由とする損害賠償を請求しました。

(1)パブリシティ権について

裁判所は、まず、パブリシティ権について、

芸能人やスポーツ選手等の著名人については,その氏名・肖像を,商品の広告に使用し,商品に付し,更に肖像自体を商品化するなどした場合には,著名人が社会的に著名な存在であって,また,あこがれの対象となっていることなどによる顧客吸引力を有することから,当該商品の売上げに結び付くなど,経済的利益・価値を生み出すことになるところ,このような経済的利益・価値もまた,人格権に由来する権利として,当該著名人が排他的に支配する権利(いわゆるパブリシティ権。以下「パブリシティ権」という。)であると解される。』(11頁)

として、先のピンクレディパブリシティ権侵害事件知財高裁判決と同様の立場を説示しています。

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(2)原告の地位について

次にタレントAと所属事務所との間の専属実演家契約(2頁以下)の解釈について、裁判所は、

・Aが許諾した独占的許諾の範囲は、実演家として行う実演に係る権利についてである
・芸能プロダクションに帰属する権利は、実演及び実演家としての活動に関係する業務である

として、実演家の活動とは直接の関係を有しない店舗の経営にまで及ぶものと解することはできないと判断。
原告は専属契約上の地位の譲渡を芸能プロダクションから受けているものの、その内容には店舗経営は及ばず、被告らがAの芸名や肖像等を使用してラーメン店を経営したことが、原告の契約上の地位ないし権利を侵害するものということはできないとしています(11頁以下)。

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(3)Aの許諾について

タレントAは、被告Yと共同してラーメン店を立ち上げ、自らを「店長」と称し、また被告KNOSの取締役にも就任するなどしていました。
裁判所は、被告らがAの氏名、肖像等を利用することについてA自身の許諾があったことを認めた上で、被告らのラーメン店経営は自由競争の範囲内の行為というべきであり、不法行為を構成しないと判断しています(13頁以下)。

以上、結論として棄却の判断となっています。

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■コメント

タレント専属契約の内容を限定的に捉えた判決です。
タレントA(河相我聞さん)は、ラーメン店の宣伝広告のために商業施設内でドラムの演奏などもしており、商業施設管理会社への訴訟は別として、被告らがパブリシティ権使用料を払わなくて良いことになる結論には違和感を覚えます。
反面、タレントAの契約違反行為や共同不法行為を正面から問うていない点(甲26号証参照)が原告芸能プロダクション会社としては今回のタレントショップ案件での関係者の責任を詰め切れられない部分だったのかもしれません。
本来、タレントAの契約潜脱行為や承諾書(甲6)、肖像等使用許諾書(甲8の1)の内容が検討されるべき事案と思われ、本人訴訟ということもあってか、残念な判決です。

ただ、いずれにしろ、実務上参考となる判例で、専属契約書を作成する場合は、実演業務に限定解釈されないように実演以外の商品化許諾やパブリシティ使用の場面を厚く記載していかなければと、感じるところです。

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■過去のブログ記事

2009年08月29日記事
ピンクレディパブリシティ権侵害事件

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■参考判例

ピンクレディパブリシティ権侵害事件控訴審
知財高裁平成21年8月27日平成20年(ネ)第10063号PDF

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■参考文献

大家重夫『肖像権新版』(2007)167頁以下

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■参考サイト

タレントAがラーメン店主を終了したとの記事について、
ラーメン店「我聞」 ありがとうございました。(2007-04-02 10:49記事)

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■追記2010.5.14

企業法務戦士の雑感(2010-05-11)
■[企業法務][知財]形式的解釈か、それとも・・・

プロ野球選手肖像事件と対比させて分析をされておいでの「企業法務戦士の雑感」さんの記事は、大変参考になります。
ところで、「奴隷契約」の感がある専属実演家契約の内容を限定解釈していく場面もアーティスト側に立つ場合、あるかと思われます。実際、アーティスト側からの依頼で専属契約をチェックするときは、そういう目で見ることになります。
ただ、今回の事案は、対第三者関係で事務所とアーティストの利益が(一応)一致しているので、ここで基本契約である専属契約の内容に踏み込んで限定的に解釈して事案処理されるのも、どうかな、とは思った次第です。