最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

樹液シートOEM商品事件

東京地裁平成22.4.23平成21(ワ)16809等損害賠償請求事件PDF

東京地方裁判所民事第40部
裁判長裁判官 岡本岳
裁判官      鈴木和典
裁判官      中村恭

*裁判所サイト公表 2010.5.6
*キーワード:他人の商品等表示性、周知性、一般不法行為、権利の濫用

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■事案

健康関連商品「樹液シート」のOEM商品の横流し販売行為の不正競争行為性や一般不法行為性が争点となった事案

原告:インターネット広告業務会社(反訴被告)
被告:健康関連商品開発販売会社(反訴原告)
    竹酢液関連商品製造販売業者

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■結論

本訴一部認容、反訴棄却

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■争点

条文 不正競争防止法2条1項1号、民法709条

1 本件標章は被告会社にとって「他人の」商品等表示か(本訴)
2 本件標章の周知性(本訴)
3 本件販売について一般不法行為の成否(本訴予備的請求)
4 原告による債務不履行・一般不法行為の成否(反訴)
5 原告による本訴請求は権利濫用か(本訴)
6 損害論(本訴)

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■判決内容

<経緯>

H13.1.30 原告が楽天市場で樹液シートを販売開始
H14       原告が本件標章を付した樹液シートを販売開始
H19.10   被告Aが被告会社の在庫品をネットで廉価販売
H19.11   原告が樹液シートのOEM供給元を被告会社とは別の製造業者に変更

本件標章:genki21

取引関係:
被告がOEM品製造→名翔が袋詰め→ロータスAkiが卸→原告が仕入

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<争点>

1 本件標章は被告会社にとって「他人の」商品等表示か(本訴)

原告の本件標章を付した樹液シートを被告らが販売した行為の不正競争行為性(不正競争防止法2条1項1号)がまず争点になっています(21頁以下)。

被告は、1号該当性について本件樹液シート商品が被告製造に係るOEM商品であり、被告の実用新案権実施や包装紙デザイン担当といった経緯から本件標章は「他人の」商品等表示性の要件を欠くと反論していました。

この点について、裁判所は、不正競争防止法2条1項1号の趣旨は、商品等主体混同惹起行為規制であり採用された技術やアイデア等の保護ではないことを前提に、「他人」とは、当該表示を付した商品の品質等を管理し、販売価格や販売数量を自ら決定する者がこれに該当すると判示。
本件では、原告が本件標章を付した本件樹液シートを自己の判断と責任において市場に置いていること、また、被告会社は袋詰めされる前の半製品を製造し、卸売りしていたにすぎないとして、被告会社にとって本件標章は「他人の」標章に当たると判断しています。

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2 本件標章の周知性(本訴)

もっとも、本件標章の周知性(不正競争防止法2条1項1号)について、原告は、

(1)本件樹液シートの販売額
(2)原告店舗へのアクセス数
(3)ネット検索結果
(4)雑誌等での紹介状況

などから、販売当時、本件標章が原告の商品等表示として需要者間に広く認識されていたと主張していました(22頁以下)。
しかし、裁判所はいずれの事情も本件標章の周知性を基礎付けることはできないと判断。

結論として、本訴主位的請求である不正競争行為(不正競争防止法2条1項1号)に基づく損害賠償請求については、これを否定しています。

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3 本件販売について一般不法行為の成否(本訴予備的請求)

次に、被告らの販売行為の一般不法行為性(民法709条)が争点となっています(26頁以下)。
この点について、裁判所は、本件樹液シートの袋詰めを担当した業者や卸を担当した業者と原告との間の代理店契約、また、原告と被告会社間の直接のOEM契約を認定できないとした上で、

そうすると,被告らによる本件販売は,OEM供給先である原告の信用が化体された本件標章が付された樹液シート在庫品の残りを被告らが原告に無断で販売したというもので,OEM商品の横流しともいうべき行為であり,公正な競業秩序を破壊する著しく不公正な行為と評価できるから,民法上の一般不法行為(共同不法行為)を構成するものと認めるのが相当である。』(28頁)

として、一般不法行為の成立を肯定。被告らの共同不法行為責任を認めています。

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4 原告による債務不履行・一般不法行為の成否(反訴)

被告会社は、反訴において原告と被告会社間のOEM商品供給に関する基本契約が成立していることを前提に契約終了時の在庫処分の黙示の合意の存在等を主張し、この合意等を無視して原告が本件販売の中止を要求した行為が債務不履行または不法行為に当たるとしました(28頁以下)。

しかし、代理店契約やOEM契約の存在が認められず、被告会社の主張は容れられていません。

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5 原告による本訴請求は権利濫用か(本訴)

被告らは、継続的取引に関するOEM商品供給契約の存在を前提として原告による本訴請求の権利濫用を問題としましたが、この点も容れられていません(29頁)。

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6 損害論(本訴)

(1)信用毀損による損害

被告Aによる樹液シートの廉価販売によって原告店舗(楽天市場インターネットモール)の信用毀損が生じているとして、80万円の損害額が認定されています(29頁以下)。

(2)販売減少による損害

1シート単価50円×売上減少数2万枚×利益率45%=45万円

(3)弁護士費用

15万円

以上、合計140万円

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■コメント

健康関連商品「樹液シート」のOEM商品の横流しについて、不正競争行為性(不正競争防止法2条1項1号 商品等主体混同惹起行為)は否定されたものの、一般不法行為性(民法709条)が肯定された事案です。

原告は自社で使用していた標章を樹液シート商品に付して販売していましたが、この商品は被告会社製造のOEM提供商品でした。原告と被告の間には書面などによる直接の契約関係がなく、また、商品の袋詰めの会社や卸の会社が介在しており、OEM商品の取扱いについて契約内容が曖昧になっている印象です。

ところで、樹液シートといった健康関連商品があること自体、知りませんでした。関連の登録実用新案権(3110497号)を拝見すると、「【請求項1】血行促進成分を吸着させた乾燥粉末の適量を、少なくとも一方に通気性をもたせた表地と裏地間に封入した血行促進用シートにおいて、前記した血行促進用の乾燥粉末として、タール分とアルコール分を除去した竹酢酸の濃縮液を他の薬効成分とともに植物セルローズ粉末に吸着乾燥させたものを用い、この乾燥粉末をデキストリンとの混合粉末として表地と裏地間に封入してあることを特徴とする血行促進用シート。」といった内容のもののようです。

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