最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

レンタルポジ委託契約事件

東京地裁平成22.3.30平成21(ワ)6604損害賠償請求事件PDF

東京地方裁判所民事第47部
裁判長裁判官 阿部正幸
裁判官      柵木澄子
裁判官      舟橋伸行

*裁判所サイト公表 2010.4.16
*キーワード:写真、複製権、貸与権、著作者人格権、使用料相当額

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■事案

写真家とレンタルポジ会社との間の写真使用許諾契約の内容が争点となった事案

原告:写真家
被告:レンタルポジ会社

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■結論

請求一部認容

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■争点

条文 著作権法21条、26条の3、19条、20条、114条3項

1 デュープフィルム作成による複製権侵害性
2 本件写真家カタログ掲載による複製権侵害性
3 アマナイメージズ取引の貸与権侵害性
4 デュープフィルム作成等による著作者人格権侵害性
5 損害論

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■判決内容

<経緯>

H5.7.29 原被告間で写真販売委託契約締結
H7.5    本件写真カタログに掲載
H15.1   原告が契約解約申入れ
H15.4.8 被告がポジ749点返却
H20.7.8 アマナイメージズがカレンダー企画向けに貸出し
H20.10.15被告とアマナイメージズが著作物使用基本契約締結
H20.10.23被告が原告に使用に関する報告書送付
H22.1.5 被告が使用料を供託

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<争点>

1 デュープフィルム作成による複製権侵害性

原告は、被告が無断で本件写真のオリジナルフィルムをデュープし、デュープフィルムを作成したとして複製権侵害性を主張しました(14頁以下)。

しかし、裁判所は、原被告間の写真販売委託契約について、原告は被告に対して販売方法等を特に限定することなく本件写真の使用権の販売を委託したものであるとした上で、デュープフィルム作成は写真の保全管理(オリジナルフィルムの紛失や汚損防止)のため、デュープフィルムを顧客に貸し出すことが予定されていたとして、デュープフィルムの作成は本件委託契約に基づき原告から許諾された範囲内の行為であると判断。複製権侵害にあたらないとしています。

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2 本件写真家カタログ掲載による複製権侵害性

原告は、写真カタログに本件写真が無断で掲載された点も争点としました(16頁以下)。
しかし、裁判所は、被告が写真の使用権の販売を委託され、販売促進活動のために本件カタログに本件写真を掲載したことは、本件委託契約に基づき原告から許諾された範囲内の行為であると判断。複製権侵害にあたらないとしています。

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3 アマナイメージズ取引の貸与権侵害性

本件委託契約解約後、被告は、同業者となるアマナイメージズを通して本件写真を貸し出していました。この被告による本件写真の利用について、原告は著作権侵害性を主張しました(18頁以下)。
これに対して、被告は、被告とアマナイメージズとの間のような写真エージェント間での販売寄託関係は「貸与」や「公衆」性の要件を欠き、貸与権(著作権法26条の3)侵害にあたらないと反論しました。
しかし、裁判所は、写真エージェンシーであるアマナイメージズにおいて本件写真の貸し出し先が不特定者であり、被告にとっても不特定者に該当するとして「公衆」性を肯定。
被告がアマナイメージズに販売委託して本件写真を第三者に貸し出した行為は、本件写真に係る原告の貸与権を侵害すると判断しています。

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4 デュープフィルム作成等による著作者人格権侵害性

(1)同一性保持権侵害性

被告が「逆版」のデュープフィルムを作成したこと自体について、原告は同一性保持権侵害(著作権法20条)にあたると主張しました(19頁以下)。

しかし、裁判所は、デュープフィルムの作成方法が制限されていたと解することはできず、オリジナルフィルムとデュープフィルムの乳剤面同士を密着させてデュープする方法により作成したことは、本件委託契約に基づき原告から許諾された範囲内の行為であったと判断。オリジナルフィルムとはベース面と乳剤面とが逆となり、ノッチコードの位置が逆となるデュープフィルムを作成しただけでは、本件写真に改変を加えた(像を左右逆とする改変を加えた)ということはできないとして同一性保持権侵害性を否定しています。

(2)氏名表示権侵害性

原告は、本件写真カタログにおいて原告の氏名が表示されていないことが原告の氏名表示権(著作権法19条)を侵害すると主張しました(21頁以下)。

しかし、裁判所は、クレジット表示については、本件委託契約第3条により被告の裁量に委ねる内容となっていたこと、販促カタログに氏名を表示すべきことを原告が特に要求していたとも認められないとして、本件カタログに本件写真を掲載するにあたって著作者である原告の氏名を表示しなかったことは、本件委託契約に基づき、著作者である原告が被告に対して許諾した範囲内の行為であったと判断。氏名表示権侵害性を否定しています。

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5 損害論

被告がアマナイメージズに委託して本件写真を第三者に貸し出したことは、少なくとも過失があるとした上で、貸与権侵害行為による損害について著作権法114条3項により使用料相当額を検討しています(22頁以下)。
結論としては、原告著作物の使用料相当額として5万円が損害額として認定されています。

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■コメント

料理や食材の撮影を行う写真家の方とレンタルポジ業者との間での使用権販売委託契約関係を巡って紛争になった事案です。
貸出し販促目的の写真カタログや貸出用のデュープ(複製品)を制作する点は、特段問題ないはずですが、原告写真家はこの点を争っています。
また、逆版デュープフィルムを使用してプリントしたりカタログを制作した訳ではないので、この逆版作成自体を捉えて同一性保持権侵害を論難している点は、本人訴訟故の争点となりますでしょうか。

契約終了後の写真の管理などに気を付けなければならない点は、後掲ドトールパンフレット事件と同様です。

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■参考判例

・広告業者とのあいだで写真の著作権使用について原告は委託契約を締結していたが、契約合意解除後に無断で写真が使用されてしまった事案について、
「ドトールパンフレット事件」
大阪地裁平成17.12.8平成17(ワ)1311損害賠償等請求事件PDF