最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

CADソフトライセンス契約事件

東京地裁平成22.3.31平成18(ワ)5689等著作権侵害差止等請求事件PDF

東京地方裁判所民事第40部
裁判長裁判官 岡本岳
裁判官      中村恭
裁判官      鈴木和典

*裁判所サイト公表 2010.4.9
*キーワード:ライセンス契約、複製、翻案、権利濫用

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■事案

CADソフトウェアやマニュアルの販売に関して著作権侵害性や商標権侵害性が争われた事案

第1事件原告・第2事件被告:ソフト開発会社
第1事件被告:ソフト開発会社
第2事件原告:ソフト開発会社(米国法人)

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■結論

請求一部認容(第1事件、第2事件)

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■争点

条文 著作権法21条、27条、114条2項、商標法38条3項、4項

1 国際裁判管轄の有無
2 訴えの変更の許否
3 Vellum3.0コードのプログラム著作権の帰属
4 Vellum2.7コード、Extensionsコードのプログラム著作権の帰属
5 被告コムネットが使用するマニュアルの著作権及びその侵害の有無
6 被告コムネットによるVellum3.0コードのプログラム著作権侵害の有無
7 原告コンセプトによるVellum2.7コード、Extensionsコードのプログラム著作権侵害の有無
8 商標権侵害
9 原告コンセプトの損害
10 原告アシュラの損害

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■判決内容

<経緯>

H3.8.30 原告アシュラがファモティクと「Vellum」販売代理店契約締結
H6.12   アシュラがVellumのバージョンアップ版2.7を創作
H7.6    アシュラジャパンでVellum2.7日本語版販売
H7.7.14 アシュラがファモティクとソースコードライセンス契約締結
H8.2.13 アシュラとファモティクが修正契約締結
H8.3.31 ファモティクがVellum3.0を制作、販売
         ファモティクと被告コムネットが3.0使用許諾契約
H14.8   アシュラとコムネットが日本語ローカライゼーション契約
H15.12.20ファモティクがフューテックに事業譲渡
H16.5.18原告コンセプト設立
         フューテックがコンセプトに事業譲渡
H16.8.26ファモティクが破産宣告、破産廃止決定
H17.2   アシュラとコムネットがソースコードライセンス契約締結
H17.9.9 コムネットがアシュラとの随時再販売業者契約に基づき販売

【取引概略】
 アシュラ→ファモティク→フューテック→コンセプト
  ↓     ↓
 コムネット←

【プログラム概要】
 Vellum3.0コードの構成
 ・Vellum2.7コード
 ・Extensionsコード
 ・Aditionsモジュール

【商品概要】
 アシュラ商品 :Vellum(ベラム)
 コンセプト商品:DraftBoard Ver.2.0Hybrid2D/3DCAD等
 コムネット商品:包装(パッケージ)設計用CADソフト等

【登録商標概要】
 アシュラベラム/ASHLARVELLUM(第4904754号)
 ドラフティングアシスタント/DraftingAssistant(第4904753号)
 ベラム/Vellum(第3174407号)

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<争点>


1 国際裁判管轄の有無

原告コンセプトは、被告コムネットに対してCADソフト(Vellum3.0)及びそのマニュアルの著作権等に基づいて製品の販売差止め、廃棄、損害賠償等を請求しました(第1事件)。
また、米国法人のソフト開発会社(原告アシュラ)は、自らが保有するCADソフト(Vellum2.7、Vellum Extensions)の著作権等に基づいて原告コンセプトに対して製品の販売差止め、廃棄、損害賠償等を請求しました(第2事件)。

まず、第2事件について、原告コンセプトは、ソースコードライセンス契約の規定上、我が国に国際裁判管轄が認められないと主張しました(75頁以下)。

しかし、裁判所は、同契約の当事者は、原告アシュラとファモティクであって契約当事者以外の第三者との間に係属すべき訴訟の管轄について定めたものではないと判断。契約上の地位の譲渡も認められないとして、同契約書規定を理由として国際裁判管轄は否定されないとしています。

結論としては、第2事件に係る原告アシュラの訴えについては、我が国に国際裁判管轄を認めるのが相当であると判断しています。

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2 訴えの変更の許否

次に、原告コンセプトが平成21年7月29日付けで訴えの追加的変更を申立てた点、また、原告アシュラが平成21年7月14日付けで訴えの追加的変更を申立てた点について、いずれも訴えの変更によって著しく訴訟手続を遅延されることになるということもできないとして、裁判所はこれらを許しています(76頁以下)。

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3 Vellum3.0コードのプログラム著作権の帰属

(1)Vellum3.0コード

原告コンセプトは、ファモティクがVellum2.7(Ashlar−Vellum2.7)コードに依拠することなくすべての記述コードを初めから32ビットで開発することとしてVellum3.0コードを創作したと主張しました。
しかし、裁判所は、ファモティクがVellum3.0コードを開発するに際して、Vellum2.7コードを解析、検証していたという経緯があることを併せ考慮した上で、Vellum3.0コードは本件修正契約に基づきVellum2.7コードを一部改変して作成されたものと判断。

結論としては、本件修正契約及びソースコードライセンス契約の規定から原告アシュラが著作権(Vellum2.7基本コードとExtensionsコード)を取得するとして、原告コンセプトがフューテックを介してファモティクからVellum3.0コード全体のプログラム著作権を取得することはできないとしています(82頁以下)。

(2)Aditions

ファモティクは、本件修正契約及びソースコードライセンス契約に基づき、Vellum3.0コードのうちAdditionsのプログラム著作権(但し、Autofaceの部分については、二次的著作権)を取得したこと、また、原告コンセプトは、フューテックを介して、ファモティクから、平成16年5月18日にAdditionsのプログラム著作権(但し、Autofaceについては、二次的著作権)及びマニュアルの著作権の譲渡を受けたと判断しています(85頁以下)。

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4 Vellum2.7コード、Extensionsコードのプログラム著作権の帰属

Vellum2.7コード、Extensions(Vellum Extensions)コードのプログラム著作権の帰属について、本件修正契約及びソースコードライセンス契約の規定により原告アシュラに帰属すると判断されています(86頁以下)。

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5 被告コムネットが使用するマニュアルの著作権及びその侵害の有無

被告コムネットが使用しているマニュアルの一部について、原告コンセプトがそのマニュアルの著作権を平成16年5月18日に取得したとして、原告コンセプトの著作権を侵害すると判断しています(88頁以下)。

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6 被告コムネットによるVellum3.0コードのプログラム著作権侵害の有無

被告コムネットは、その商品にAditionsを含むVellum3.0コードを基盤ソフトウェアとして使用しているとして著作権侵害性が肯定されています(90頁以下)。

なお、差止の必要について、別紙「被告コムネット商品目録」記載1、2について肯定しています。

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7 原告コンセプトによるVellum2.7コード、Extensionsコードのプログラム著作権侵害の有無

Vellum3.0コードからAditionsモジュールを除外した部分がVellum2.7コード及びExtensionsコードであるとした上で、別紙「原告コンセプト商品目録」記載1〜6のソフトウェアは、いずれも原告アシュラがプログラム著作権を有するVellum2.7コード及びExtensionsコードを複製、翻案したものであるとして侵害性を肯定しています(98頁以下)。

なお、差止の必要については、別紙「原告コンセプト商品目録」記載1〜3のうち、3についてのみ認められています。

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8 商標権侵害

(1)コンセプト商標権の侵害

原告コンセプトによる商標権取得の経緯には、ファモティクが保有する商標権に関する不使用取消審判請求を行っていた事実がありました。
ファモティクの代表取締役Bはファモティク破産後、原告コンセプトの取締役に就任しており、原告コンセプトがその保有商標権に基づき、原告アシュラの代理店である被告コムネットに対して標章の使用差止や不法行為による損害賠償を求めることは著しく信義に反するとして、権利の濫用として認められないと判断しています(101頁以下)。

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(2)アシュラ商標権の侵害

アシュラ商標は、「ベラム」と「Vellum」とを上下2段に横書きして成る商標でしたが(第3174407号)、原告コンセプト標章1(「Vellum」)を付して「VellumCAD Professional EDITION」などの商品を販売している行為について、原告コンセプトはアシュラの商標権を侵害すると判断しています(103頁以下)。

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9 原告コンセプトの損害

Aditionsのプログラム著作権侵害により被告コムネットが得た利益額が404万円余りとして、これが原告コンセプトの損害額と推定しています(著作権法114条2項)。弁護士費用50万円とあわせて454万5079円が損害額として認められています(107頁以下)。

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10 原告アシュラの損害

(1)著作権侵害による損害額(著作権法114条2項)

Vellum2.7コード及びExtensionsコードのプログラム著作権侵害により原告コンセプトが得た利益額が5770万円余りと計算しています(111頁以下)。

(2)商標権侵害による損害額(商標法38条3項、4項)

アシュラ商標権の侵害について、アシュラ商標の使用料相当額を売上額に5%を乗じた額(50万円余り)としています。

結論として、弁護士費用5万円とあわせて、5826万0284円を損害額としています。

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■コメント

米国製CADソフトの日本総代理店の経営悪化から、ライセンサーが別の販売チャンネルを構築したこと、また、バージョンアップ開発などが重なってモジュールの切り分けが不明確になった経緯もあって権利関係が錯綜する結果となってしまっています。

ライセンサーとの著作権関係では、16ビットのソフトウェアを32ビット化する行為が基本コードの複製、翻案にあたるものかどうか、著作物の切り分けという点がポイントの1つかと思われます(争点(7) 98頁以下)。

原告コンセプト社のサイトを拝見すると、自社の前身をファモティク社と位置付けていること、また、元々の米アシュラ社の創業者グループとはいまでも人的な繋がりがあるようですので、背景事情は複雑なようです(その他、コムネット社とファモティク社との間の使用許諾契約等について、第4904754号「アシュラベラム」の商標登録無効審判事件2006−89172参照)。

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■参考サイト

原告コンセプト社トップメッセージ
コンセプト・テクノロジー株式会社