最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

北見工業大学共同研究報告書職務著作事件

東京地裁平成22.2.18平成20(ワ)7142著作権侵害差止等請求事件PDF

東京地方裁判所民事第47部
裁判長裁判官 阿部正幸
裁判官      柵木澄子
裁判官      舟橋伸行

*裁判所サイト公表 10/2/24
*キーワード:職務著作、一般不法行為性

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■事案

産学共同研究報告書の職務著作(法人著作)性、一般不法行為性が争点となった事案

原告:北見工業大学 准教授
被告:北見工業大学

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■結論

請求棄却

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■争点

条文 著作権法15条1項、民法709条

1 15条1項の適用の有無
2 一般不法行為の成否

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■判決内容

<争点>

1 15条1項の適用の有無

平成5年から被告北見工業大学と北見市等が公害防止調査研究や常呂川水系水質調査、一般廃棄物処理に関する環境調査等を目的とする共同研究契約を締結。平成5年度から15年度まで原告准教授はこの共同研究で研究代表者を務めていました(一般廃棄物処理に関する調査研究は平成13年度から15年度まで研究代表者)。

原告准教授は、平成15年度研究報告書3件に関する著作権及び著作者人格権を有すると主張。
原告准教授が参加していない次年度以降(平成16年度、17年度)の報告書に被告大学が平成15年度研究報告書の考察部分などを引き写して大学名義で複製、頒布した点について原告の著作権等(複製権、同一性保持権)を侵害すると主張しました。

この点について、被告大学は著作権法15条1項(職務著作)の適用により本件各平成15年度研究報告書の著作権及び著作者人格権は大学に帰属すると反論しました。

裁判所は、職務著作の各要件を検討の上、結論として職務著作の適用を肯定しています(40頁以下)。


1.法人その他使用者(法人等)の発意に基づくもの

共同研究が北見市等からの申請を受けて被告大学内部における意思決定を経た後、共同研究契約に基づき実施されたものであるとして被告の発意性がある(41頁以下)。

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2.法人等の業務に従事する者が職務上作成したものであること

被告大学と原告との間の雇用関係や北見市等との間の共同研究契約の点から、本件各平成15年度研究報告書は被告大学の業務に従事する者が職務上作成したものであるということができる(42頁以下)。

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3.法人等が自己の著作の名義の下に公表するものであること

平成15年度研究報告書3件の表紙には、「北見工業大学地域共同研究センター」「北見工業大学化学システム工学科環境科学研究室」等との記載があり、これらが被告大学の著作名義の下に公表されたものであるといえる(44頁以下)。

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4.作成の時における契約、勤務規則その他に別段の定めがないこと

被告大学が規程する「国立大学法人北見工業大学職務発明規程」が「別段の定め」に該当するかどうかについて、同規程の解釈からプログラムの著作物やデータベースの著作物は「別段の定め」に当たると言い得ても、これら以外の著作物については、同規程には何ら規定していないと言わざるを得ない(47頁以下)。

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2 一般不法行為の成否

原告は予備的に一般不法行為(民法709条)の成立を主張しましたが、被告大学による報告書作成・発行行為について不法行為を基礎付けるに足る違法性を有すると評価すべき事情は認められないとして、裁判所は一般不法行為の成立を否定しています(49頁)。

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■コメント

原告准教授は、平成17年3月17日付けで停職を内容とする懲戒処分を被告大学から受けており、平成16年度、17年度の共同研究には参加できませんでした(11頁)。懲戒理由が判決文からは分からないのですが、こうしたことがきっかけで大学と対立する関係になったかと思われます。

仕事柄、産学連携でプログラム共同開発契約書やライセンス契約書を調製する場面がありますが、大学の知財取扱い規程との関係ではいつも気を遣うところです。北見工業大学の職務発明規程もそうなのですが(47頁以下)、理系の大学では産業財産権を念頭にした規程振りで、著作権の帰属についてもう少し配慮が欲しいと感じるものも中にはあります。