最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

オートバイレース写真職務著作事件

水戸地裁龍ケ崎支部平成21.6.26平成20(ワ)52損害賠償請求事件PDF

裁判官 三輪篤志

*裁判所サイト公表 10/1/21
*キーワード:職務著作、創作者主義、利用許諾

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■事案

フリーカメラマン撮影のオートバイレース写真の職務著作物性が争点となった事案

原告:フリーカメラマン
被告:オートバイ商品販売会社

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■結論

請求棄却

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■争点

条文 著作権法15条1項

1 職務著作の成否

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■判決内容

<経緯>

H17.2 被告がオートバイレース参加者向け写真即売事業を企画
H17.3 原告被告間で写真販売事業の写真撮影について合意
H17.5 写真撮影、写真販売開始
H18.7.13 第1回ライコランド走行会開催
H18.9.21 第2回ライコランド走行会開催

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<争点>

1 職務著作の成否

オートバイレース参加者向けに写真撮影をして即売する事業で撮影を依頼した事業者側と撮影業務を受託したフリーのカメラマンとで撮影された写真の著作権の帰属関係について明確な合意がなかったことから、その帰趨が争点となりました。

被告は、原告カメラマンの写真撮影が職務著作(著作権法15条1項)にあたるとして、写真の著作権の被告側への原始取得を主張しました。

著作権法15条1項の各要件について、裁判所は、

1.原告が被告の業務に従事する者であること
2.原告が本件写真を職務上作成したこと


という要件については、写真の即日販売を実現するために撮影から販売まで被告の指揮命令の下、各関係者が役割分担に従い組織的に本件写真販売事業を行っていたこと、支払われた金銭が労務の提供の対価と評価できるなどの点から、1.と2.の要件を充足すると判断(20頁以下)。

3.本件写真が被告の著作名義の下に公表するものであること

という要件についても、販売用テント前に展示された時点を公表時点として判断。この際には、サービス名と被告の会社名だけが付されていたということで充足性が肯定されています(22頁以下)。

結論として、職務著作の成立を肯定しています。

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■コメント

1回の撮影料が1.2万から2万円で、第1回走行会では498点の画像が使用されているので(3頁)、撮影枚数は当然それ以上になるでしょう。

そこで知人のバイク雑誌副編集者にこの辺りの現場事情を聞いてみました。

雑誌掲載写真使用料としては1枚1〜3000円程度。一日丸々の取材(撮影枚数数千枚)では取材経費としてコミコミ2.5万円程度。しかも写真の著作権は買取。
2Gのメモリ1枚がフィルム1本程度の価格になった今、素人でも数を撮れば1枚くらいは使えるものがあるから、いま(スチルの)カメラマンは、一番弱い存在じゃないか」、というのが判決内容を聞いた際の編集者の感想でした。

とはいえ、本判決では、走行会主催者側に写真を無償交付することが本件事業の前提となっている点を捉えて、「本件写真が被告の著作物であることを前提とするものと理解することができる」(22頁)などとしていますが、著作権法の創作者主義の原則から疑問なしとしません。

なお、同日5時間後には、裁判所サイトに控訴審判決が公表されています(知財高裁平成21.12.24平成21(ネ)10051損害賠償請求控訴事件判決PDF)。
知財高裁では、一審の職務著作成立の判断が否定されてカメラマンに写真の著作権の帰属が肯定されていますが、結論としては、写真の利用許諾等が認められていて、控訴棄却となっています。

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■参考判例

RGBアドベンチャー外国人デザイナー事件
最高裁平成15.4.11平成13(受)216著作権使用差止請求事件判決PDF

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■参考文献

島並良、上野達弘、横山久芳『著作権法入門』(2009)88頁以下
潮海久雄「職務著作(1)-業務に従事する者」『著作権判例百選第四版』(2009)68頁以下
半田正夫、松田政行編『著作権法コンメンタール1』(2009)676頁以下
中山信弘『著作権法』(2007)176頁以下
潮海久雄『職務著作制度の基礎理論』(2005)184頁以下、205頁以下
田村善之『著作権法概説第2版』(2001)380頁以下

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■関連記事(2010.1.23追記)

2010年1月23日記事 控訴審