最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

ウルトラマン営業誹謗抗告事件

知財高裁平成21.12.15平成21(ラ)10006不正競争仮処分申立却下決定に対する抗告事件PDF

知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官 滝澤孝臣
裁判官      本多知成
裁判官      浅井憲

*裁判所サイト公表 09/12/24
*キーワード:準拠法、虚偽事実告知行為、保全の必要性

   --------------------

■事案

円谷プロダクションが国内の映像事業関係者に対して書面を送付した行為の営業誹謗行為性が争点となった事案

抗告人:株式会社
相手方:円谷プロダクション

   --------------------

■結論

抗告棄却

   --------------------

■争点

条文 不正競争防止法2条1項14号、法の適用に関する通則法20条

1 準拠法
2 営業誹謗行為の有無
3 本件契約に基づく差止請求の可否
4 保全の必要性

   --------------------

■判決内容

<経緯>

S51.3.4  タイ人Aの会社と円谷プロとの間の海外ライセンス契約
H16.4.27 最高裁三小決定 上告棄却(本件契約書は有効と判断)
H20.2.5  タイ最高裁は本件契約書が偽造で無効と判断
H20.11  抗告人会社設立
H20.12.24 Aが抗告人に円谷プロとの間の契約におけるAの一切の権利を譲渡
H21.2.10 Aが円谷プロダクションに譲渡通知

   --------------------

<争点>

1 準拠法

タイ人Aからウルトラマンの独占的利用権を譲受けたとする抗告人は、円谷プロダクションが国内の映像事業関係者に送付した書面についてその営業誹謗行為性(不正競争防止法2条1項14号)を争点としました。

抗告人は、不正競争防止法(不正競争防止法2条1項14号、3条)に基づく独占的利用権の利用妨害行為の差止請求権あるいは円谷プロダクションとタイ人Aとの間の契約(本件契約)に基づく差止請求を被保全権利として、円谷プロダクションによる日本国内の第三者への「抗告人が日本以外の国において独占的利用権を有しない」旨の告知流布行為などの差止を求め仮処分を申立てました。

まず準拠法に関して、不正競争防止法に基づく請求と本件契約に基づく請求の準拠法について検討されています。
不正競争防止法に基づく請求については、不法行為と法性決定するものの(通則法17条(不法行為))、20条(密接関係地)により日本国法が準拠法になると判断。また、昭和51年に締結された本件契約の成立及び効力の準拠法についても日本国法と判断されています(通則法附則3条3項、法例7条 7頁以下)。

   --------------------

2 営業誹謗行為の有無

抗告人がAからの権利譲受けなどを内容とする書面を関係者に対して通知しましたが、それを受けて円谷プロダクションも関係者に以下の内容の書面を通知しました。

1.Aから抗告人への権利譲渡には法的に重大な疑義があること
2.タイ最高裁判決のこと
3.通知の経緯

こうした内容の書面(相手方書面)の通知行為について、裁判所は、

相手方書面は,その記載内容,配布先,作成に至る経緯等に照らし,その配布の直前に抗告人書面を受領している者に送付されたものであって,その送付を受けた者は,本件独占的利用権についてAと相手方との間で従前から紛争があり,我が国においては,確定した東京高裁判決によって,Aが本件独占的利用権を有することが確認されていることを認識している者であると認められることからすると,その後に相手方書面を受領しても,抗告人書面と対比して,相手方書面は,要するに,タイ最高裁判決によってタイ王国内においてAが本件契約書に基づく権利主張等をすることが禁じられたことなどを述べているにすぎないと理解すると認めるのが相当であり,さらに進んで,Aがタイ王国以外の外国でも本件独占的利用権を主張することが禁じられているとまで理解するとは解されない。』(10頁)

そのうえで円谷プロダクションが、

東京高裁判決で認められたAの有する本件独占的利用権が無効であることを理由として,本件独占的利用権を譲り受けたとする抗告人が当該利用権を有しない旨を告知し又は流布したものと解するのは相当でな(い)』(11頁)

として、結論として円谷プロダクションの書面通知行為の虚偽告知行為性(営業誹謗行為性)が否定されています。

   --------------------

3 本件契約に基づく差止請求の可否

本件契約に基づく差止請求の可否について、結論としては円谷プロダクションとAとの間の本件契約上の不作為合意の存在が認められないとして、本件契約に基づく差止請求権も否定されています(11頁以下)。

   --------------------

4 保全の必要性

さらに日本国内、国外における本件対象行為を仮処分によってあらかじめ差し止める必要があるかどうかについて検討がされていますが、結論として保全の必要性が否定されています(12頁以下)。

   --------------------

■コメント

ウルトラマン(「ウルトラ」シリーズ)版権の海外ライセンス契約については、タイの実業家A氏と円谷プロダクションとの間で紛争となり、ライセンス契約の有効性について日本での裁判ではその有効性が認められた(7シリーズの作品と2つの映画の海外利用権がタイの実業家にある)のに対して、タイの最高裁判所(2008.2.5)では逆に契約書は偽造で無効と判断されるという複雑な状況になっています。

ウルトラマンの海外展開については、中国で訴訟が係属していますのでその行方が注目されます。

「ウルトラマン著作権訴訟、円谷プロが中国で勝訴」(2009年11月3日日経ネット記事)
NIKKEI NET(日経ネット):企業ニュース

ウルトラマンシリーズの海外での著作権を巡り、中国の裁判所でタイ人経営者らと争っていた裁判で、円谷プロダクション(東京・世田谷)が勝訴したことが分かった。この問題では日本の裁判所がタイ企業の、タイの裁判所では円谷プロの訴えを認めるという「逆判決」で話題を呼んだが、中国ではひとまず円谷プロ側に軍配が上がった。

 今回の判決は中国広東省の広州市中級人民法院が10月23日に下した。中国は二審制で、今回は一審判決。双方とも30日以内に上告できる。(03日 15:13)


なお、ウルトラマンを巡る紛争については、安藤健二さんの「封印作品の憂鬱」(2008 洋泉社)などに詳しいところです。

   --------------------

■過去のブログ記事

2009年1月20日記事
新刊案内 安藤健二「封印作品の憂鬱」(洋泉社)