最高裁判所HP 知的財産裁判例集より
FX自動売買プログラムリバースエンジニアリング事件
★大阪地裁平成21.10.15平成19(ワ)16747損害賠償請求事件PDF
大阪地方裁判所第26民事部
裁判長裁判官 山田陽三
裁判官 達野ゆき
裁判官 北岡裕章
*裁判所サイト公表 09/11/6
*キーワード:複製、翻案、権利の濫用、リバースエンジニアリング
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■事案
外国為替証拠金取引(FX取引)用トレーディングソフトウェア関連のプログラム(自動売買プログラム)の複製・翻案行為(リバースエンジニアリング)の違法性が争点となった事案
原告:コンピュータプログラム開発業者
被告:プログラマーら
--------------------
■結論
請求棄却
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■争点
条文 著作権法21条、民法1条3項
1 被告プログラムが頒布されたか
2 被告P3による被告プログラム作成行為の違法性
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■判決内容
<経緯>
H17.10 原告と被告P2がプログラム開発計画
H18.6 「おじゃるデブシステム」作成
H18.11.1 株式会社おじゃる設立、プログラム販売開始
H19.2.24 被告P3が「スイングおじゃるP3版」作成、試作品提供
H19.5.18 原告がP2らに「おじゃるデブ」のソースコードを開示
H19.6.23 「スイングおじゃる原告版」(本件プログラム2)作成、販売
---- P3が本件プログラム2を複製翻案して被告プログラム作成
H19.10.18 被告P2,P3,P4が株式会社津福コーポレーション設立
「IDトレードシステム」販売開始
H19.12.7 ヒカリ社設立(代表取締役P4)
H20.1 ヒカリ社が「STI FX」販売開始
H20.4.30 津福社、ヒカリ社解散
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<争点>
1 被告プログラムが頒布されたか
原告は、『被告P3が原告の著作物である本件各プログラムを無断で改変して被告プログラムを作成し,本件各プログラムに係る原告の著作権(複製権,翻案権)を侵害し,被告P2及び被告P4が,被告プログラムを原告の著作権を侵害する行為によって作成されたプログラムであるとを知りながら,これを頒布し又は頒布目的で所持したことにより原告の著作権を侵害した(著作権法113条1項2号)と主張して,不法行為(民法709条,719条)に基づく損害賠償』(4頁)を請求しました。
各当事者の主張としては、各プログラムの創作性や著作者性などが争点として挙げられていますが、裁判所は、まず被告プログラムが頒布されたかどうかを検討しています。
結論としては、被告らが被告プログラムを第三者に頒布した、あるいは頒布目的でこれを所持していたと認めることはできないと判断されています(19頁以下)。
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2 被告P3による被告プログラム作成行為の違法性
被告プログラムは、本件プログラム2(「スイングおじゃる原告版」)に依拠して被告P3が複製又は翻案したことが裁判所によって認定されていますが、それでもなお被告P3のプログラム作成行為に関する原告の主張を封することができるかどうかが検討されています(21頁以下)。
この点について、被告らは、『被告プログラムはユーザーに頒布する製品として作成されものではなく,開発に先立つ,研究・分析の途上にて一時的に作成されたものであり,原告の著作権を侵害しない』として、リバースエンジニアリングの抗弁を主張。さらに、法人ではなくP3個人を被告とすることは権利の濫用にあたるとP3は主張しました。
この点について、裁判所は、
(1)FX取引でより多くの利益を獲得できるプログラムを作成するため、各トレードごとの成績を個別に検証し、適切なパラメータ設定を探ることのみを被告プログラムの作成目的としている
(2)本件プログラム2の作成経緯
(3)被告プログラムが第三者に開示も頒布もされていない
これらの事情を総合すれば、被告の複製・翻案行為のみを理由として原告が著作権侵害を主張し、損害賠償を請求することは権利の濫用(民法1条3項)にあたる。
として、結論としては、原告の請求を容れませんでした。
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■コメント
被告らによるプログラムの複製・翻案行為について、原告の著作権の行使(損害賠償請求)を権利の濫用(民法1条3項)として許さなかった事例です。被告によるリバースエンジニアリングの抗弁が認められた結果となりました。
著作権法にフェアユース規定があればそれによることができたかもしれませんが、民法の一般規定である権利濫用規定(民法1条3項)で処理されています。
なお、2009年著作権法改正(2010年1月1日施行)では、リバースエンジニアリング適法化のための個別規定は盛り込まれませんでした。
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■過去のブログ記事
リバースエンジニアリングが係わる事案について、「Addetto事件」東京地裁平成18.2.10平成16(ワ)14468参照。
リバースエンジニアリング著作権侵害事件(2006年2月13日記事)
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■参考文献
中山信弘『ソフトウェアの法的保護(新版)』(1988)127頁以下
同 『著作権法』(2007)104頁以下
作花文雄『著作権法講座第2版』(2008)420頁以下、446頁以下
田村善之『著作権法概説第二版』(2001)197頁以下
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■参考判例
MS対秀和システム社事件
東京地裁昭和62.1.30昭和57(ワ)14001PDF
傍論として権利濫用を認める判例として、キューピー事件(原審)
東京地裁平成11.11.17著作権侵害差止等請求事件判決(判時1704号134頁以下)
東京地裁平成11年11月17日平成10(ワ)13236
東京地裁平成11年11月17日平成10(ワ)16389
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■参考サイト
(平成20年8月20日)文化庁文化審議会著作権分科会法制問題小委員会(第7回)議事録
「リバース・エンジニアリングに係る法的課題についての論点」(資料1)参照
(平成21年1月16日)文化審議会著作権分科会法制問題小委員会(第11回)議事録
「文化審議会著作権分科会法制問題小委員会平成19・20年度・報告書(案)」参照
(平成21年8月25日)文化審議会著作権分科会法制問題小委員会(第4回)議事録
知的財産推進計画2008PDF
「リバース・エンジニアリングに係る法的課題を解決する」
知的財産推進計画2009PDF
「権利制限の一般規定(日本版フェアユース規定)を導入する」
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FX自動売買プログラムリバースエンジニアリング事件
★大阪地裁平成21.10.15平成19(ワ)16747損害賠償請求事件PDF
大阪地方裁判所第26民事部
裁判長裁判官 山田陽三
裁判官 達野ゆき
裁判官 北岡裕章
*裁判所サイト公表 09/11/6
*キーワード:複製、翻案、権利の濫用、リバースエンジニアリング
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■事案
外国為替証拠金取引(FX取引)用トレーディングソフトウェア関連のプログラム(自動売買プログラム)の複製・翻案行為(リバースエンジニアリング)の違法性が争点となった事案
原告:コンピュータプログラム開発業者
被告:プログラマーら
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■結論
請求棄却
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■争点
条文 著作権法21条、民法1条3項
1 被告プログラムが頒布されたか
2 被告P3による被告プログラム作成行為の違法性
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■判決内容
<経緯>
H17.10 原告と被告P2がプログラム開発計画
H18.6 「おじゃるデブシステム」作成
H18.11.1 株式会社おじゃる設立、プログラム販売開始
H19.2.24 被告P3が「スイングおじゃるP3版」作成、試作品提供
H19.5.18 原告がP2らに「おじゃるデブ」のソースコードを開示
H19.6.23 「スイングおじゃる原告版」(本件プログラム2)作成、販売
---- P3が本件プログラム2を複製翻案して被告プログラム作成
H19.10.18 被告P2,P3,P4が株式会社津福コーポレーション設立
「IDトレードシステム」販売開始
H19.12.7 ヒカリ社設立(代表取締役P4)
H20.1 ヒカリ社が「STI FX」販売開始
H20.4.30 津福社、ヒカリ社解散
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<争点>
1 被告プログラムが頒布されたか
原告は、『被告P3が原告の著作物である本件各プログラムを無断で改変して被告プログラムを作成し,本件各プログラムに係る原告の著作権(複製権,翻案権)を侵害し,被告P2及び被告P4が,被告プログラムを原告の著作権を侵害する行為によって作成されたプログラムであるとを知りながら,これを頒布し又は頒布目的で所持したことにより原告の著作権を侵害した(著作権法113条1項2号)と主張して,不法行為(民法709条,719条)に基づく損害賠償』(4頁)を請求しました。
各当事者の主張としては、各プログラムの創作性や著作者性などが争点として挙げられていますが、裁判所は、まず被告プログラムが頒布されたかどうかを検討しています。
結論としては、被告らが被告プログラムを第三者に頒布した、あるいは頒布目的でこれを所持していたと認めることはできないと判断されています(19頁以下)。
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2 被告P3による被告プログラム作成行為の違法性
被告プログラムは、本件プログラム2(「スイングおじゃる原告版」)に依拠して被告P3が複製又は翻案したことが裁判所によって認定されていますが、それでもなお被告P3のプログラム作成行為に関する原告の主張を封することができるかどうかが検討されています(21頁以下)。
この点について、被告らは、『被告プログラムはユーザーに頒布する製品として作成されものではなく,開発に先立つ,研究・分析の途上にて一時的に作成されたものであり,原告の著作権を侵害しない』として、リバースエンジニアリングの抗弁を主張。さらに、法人ではなくP3個人を被告とすることは権利の濫用にあたるとP3は主張しました。
この点について、裁判所は、
(1)FX取引でより多くの利益を獲得できるプログラムを作成するため、各トレードごとの成績を個別に検証し、適切なパラメータ設定を探ることのみを被告プログラムの作成目的としている
(2)本件プログラム2の作成経緯
(3)被告プログラムが第三者に開示も頒布もされていない
これらの事情を総合すれば、被告の複製・翻案行為のみを理由として原告が著作権侵害を主張し、損害賠償を請求することは権利の濫用(民法1条3項)にあたる。
として、結論としては、原告の請求を容れませんでした。
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■コメント
被告らによるプログラムの複製・翻案行為について、原告の著作権の行使(損害賠償請求)を権利の濫用(民法1条3項)として許さなかった事例です。被告によるリバースエンジニアリングの抗弁が認められた結果となりました。
著作権法にフェアユース規定があればそれによることができたかもしれませんが、民法の一般規定である権利濫用規定(民法1条3項)で処理されています。
なお、2009年著作権法改正(2010年1月1日施行)では、リバースエンジニアリング適法化のための個別規定は盛り込まれませんでした。
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■過去のブログ記事
リバースエンジニアリングが係わる事案について、「Addetto事件」東京地裁平成18.2.10平成16(ワ)14468参照。
リバースエンジニアリング著作権侵害事件(2006年2月13日記事)
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■参考文献
中山信弘『ソフトウェアの法的保護(新版)』(1988)127頁以下
同 『著作権法』(2007)104頁以下
作花文雄『著作権法講座第2版』(2008)420頁以下、446頁以下
田村善之『著作権法概説第二版』(2001)197頁以下
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■参考判例
MS対秀和システム社事件
東京地裁昭和62.1.30昭和57(ワ)14001PDF
傍論として権利濫用を認める判例として、キューピー事件(原審)
東京地裁平成11.11.17著作権侵害差止等請求事件判決(判時1704号134頁以下)
東京地裁平成11年11月17日平成10(ワ)13236
東京地裁平成11年11月17日平成10(ワ)16389
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■参考サイト
(平成20年8月20日)文化庁文化審議会著作権分科会法制問題小委員会(第7回)議事録
「リバース・エンジニアリングに係る法的課題についての論点」(資料1)参照
(平成21年1月16日)文化審議会著作権分科会法制問題小委員会(第11回)議事録
「文化審議会著作権分科会法制問題小委員会平成19・20年度・報告書(案)」参照
(平成21年8月25日)文化審議会著作権分科会法制問題小委員会(第4回)議事録
知的財産推進計画2008PDF
「リバース・エンジニアリングに係る法的課題を解決する」
知的財産推進計画2009PDF
「権利制限の一般規定(日本版フェアユース規定)を導入する」
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