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2009年09月09日

手あそび歌出版差止事件−著作権 出版差止等請求事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

手あそび歌出版差止事件

東京地裁平成21.8.28平成20(ワ)4692出版差止等請求事件PDF

東京地方裁判所民事第46部
裁判長裁判官 大鷹一郎
裁判官      大西勝滋
裁判官      関根澄子

*裁判所サイト公表 09/9/7

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■事案

幼児のお遊戯である「手あそび歌」が収録されたDVD付書籍の複製権侵害性などが争われた事案

原告:出版社
被告:出版社

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■結論

請求棄却

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■争点

条文 著作権法12条、15条、民法709条

1 原告書籍本体及び原告DVDの編集著作物性及び著作権の帰属
2 編集著作物の複製権侵害の有無
3 個々の歌詞及び振付けの著作物性
4 法的保護に値する利益の侵害を理由とする不法行為の成否

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■判決内容

<経緯>

H18.1.10 原告が「DVDとイラストでよくわかる!手あそびうたブック」発行
H19.9.26 被告が「たのしい手あそびうたDVDブック」発行

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<争点>

1 原告書籍本体及び原告DVDの編集著作物性及び著作権の帰属

「手あそび歌」(幼稚園など保育の現場で遊びとして利用されている手や指などの身体を動かす遊び歌)を掲載した原告制作の書籍や付属のDVDについて、編集著作物性(著作権法12条)と職務著作物性(同法15条1項)が争点となっています。

 1.原告書籍本体及び原告DVDの編集著作物性

原告書籍には手あそび歌が63曲掲載(DVDには29曲)されていましたが、そのうち44曲は原告書籍より以前に発行されたポプラ社書籍に掲載された曲と重複していることなどから、原告書籍及び原告DVDでの手あそび歌の曲名及び振付けの選択は、創作性がなく編集著作物性が否定されるのではないかが問題となりました。

この点について、裁判所は、

原告書籍本体に掲載された手あそび歌の曲名及び振付けは,原告の編集部所属の従業員が,童歌,童謡から最近の曲まで多種のものがある手あそび歌の中から,幼稚園の教諭に対するアンケートの集計結果を踏まえて,定番の曲を外さず,幼稚園で人気が高く,よく遊ばれているものを選択することを基本としながらも,人気が高くなくても手あそび歌のジャンル(「指あそび」,「手あそび」,「身体あそび」,英語の歌など)の多様性にも配慮したり,定番の曲でもできるだけ他社書籍とは異なるバージョンの歌詞や振付けを選択するなどして,他の書籍との差別化を図る方針とし,また,原告DVDの収録曲については,制作費とDVDの容量の都合から,原告書籍本体の掲載曲のうち,幼稚園の教諭の意見を取り入れて子供たちがより喜ぶ人気曲を選択し,その中でジャンルが偏らないようにバランスを重視するなどの方針とし,上記各方針に基づいて,原告書籍本体の掲載曲(63曲)及び原告DVDの収録曲(29曲)の曲名及び振付けが選択されたことが認められるから,上記曲名及び振付けの選択には,原告の編集部所属の従業員の思想又は感情が創作的に表現されていることは明らかである。
 したがって,原告書籍本体及び原告DVDは,素材である手あそび歌の曲名及び振付けの選択において創作性を有する編集著作物に当たるものと認められる。


として、原告書籍及び原告DVDの編集著作物性を肯定しています(26頁以下)。

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 2.著作権の帰属

原告書籍の奥付には、原告の従業員以外の者の表示もあったことから、原告の職務著作物性の成否がさらに問題となっています。

結論的には、著作権法15条1項の各要件を具備するものとして、職務著作物性が肯定され原告法人が原告書籍の著作者及び著作権者であると認められています(30頁以下)。

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2 編集著作物の複製権侵害の有無

被告書籍は、原告書籍掲載曲63曲中35曲が同一曲名を掲載しており、被告DVDには原告DVD収録曲29曲中22曲が同一曲名のものでした。
こうした点などから、被告書籍の発行が編集著作物である原告書籍及び原告DVDの複製権を侵害するのではないかが次に争点となっています。

この点について、裁判所は、

曲名及び振付けの選択の創作的表現は,前記1(1)イ認定の編集方針に基づいて選択された結果としての原告書籍本体における掲載曲全曲の曲名及び振付けの選択,原告DVDにおける収録曲全曲の曲名及び振付けの選択において顕れていることを意味するものである。』(33頁)

として、全曲の選択において創作的表現が現れていると判断。
曲名の一部の重複をもって原告書籍及び原告DVDにおける曲名選択の創作的表現が被告書籍及び被告DVDに再製されていると直ちに認めることはできないとしています(31頁以下)。

結論として、編集著作物の複製権侵害性は否定されました。

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3 個々の歌詞及び振付けの著作物性

 1.歌詞の著作物性

「いっぽんといっぽんで」(作詞不詳 外国曲)

オリジナル:
「1本と1本でおやまになって」
「2本と2本でかにさんになって」
「5本と5本でおばけになっておそらにとんでった」

原告歌詞:
「いっぽんといっぽんでにんじゃになって」
「さんぼんとさんぼんでねこさんになって」
「よんほんとよんほんでたこさんになって」
「ごほんとごほんでとりさんになっておそらにとんでった」

原告が独自に創作したとする上記歌詞の置き換えについて、裁判所は、オリジナル曲の趣旨に沿った歌詞の一部であり、「にんじゃ」などの表現自体がありふれていること、また、「にんじゃ」など自由に替えて遊ぶことが想定されている箇所であるから、歌詞の一部の表現を著作物として保護するのは相当ではないと判断。

原告歌詞の創作性を否定しています(34頁以下)。

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 2.歌詞の振付けの著作物性

いずれも誰もが思いつく、ありふれたものであるとして、原告歌詞の振付けの創作性を否定しています(36頁以下)。

その他、原告が独自創作と主張した個々の歌詞及び振付けについて、ことごとくその創作性が否定されています(38頁以下)。

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4 法的保護に値する利益の侵害を理由とする不法行為の成否

原告書籍制作での新しいコンセプトの考案など多大の労力、創意工夫に対して原告が有する法的保護に値する利益(経済的利益)を被告が侵害するとして、原告は一般不法行為(民法709条)を根拠に不法行為の成立を主張しました。

しかし、被告書籍の発行が社会的に許容される限度を超えた違法なものであるということはできないとして、裁判所は原告の主張を容れませんでした(48頁以下)。

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■コメント

幼児のお遊戯である「手あそび歌」の歌詞と振付けの創作性、その保護の限界性が争点となりました。

オリジナル曲が他にあることや既存の他社版があること、「手あそび歌」の性質から創作性の範囲は狭く(=誰でも自由に使える)捉えられました。

他社版のそっくりそのままのデッドコピーではダメでしょうが、収録曲の半分以上が単に重複していても価値判断的になお許容されるという判断は参考になります。

話は逸れますが、先月、「過払い回収マニュアル」本の中の記載や通知書、図表の類否を巡って弁護士で構成される研究会が弁護士法人及び同代表者弁護士に対する損害賠償等請求訴訟を名古屋地方裁判所に提訴しています。
売れ筋の題材の書籍となると、こうした紛争も絶えないといったところでしょうか。

名古屋消費者信用問題研究会
(ニュース 2009/08/25 提訴)

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■参考サイト

永岡書店(原告書籍の立ち読みが一部可能です)
- NAGAOKA BOOKSQUARE -【トップページ】
宝島社
宝島チャンネル - たのしい手あそびうたDVDブック

written by ootsukahoumu at 09:35│TrackBack(0)知財判決速報2009 

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