最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

まじかる・ているゲームソフト職務著作事件

東京地裁平成21.6.19平成20(ワ)12683損害賠償請求事件PDF

東京地方裁判所民事第40部
裁判長裁判官 岡本岳
裁判官      鈴木和典
裁判官      坂本康博

*裁判所サイト公表 09/6/23

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■事案

アダルト向けPC用恋愛シュミレーションゲームソフト「カフェ・リトルウイッシュ」「まじかる・ている」の著作者が誰であるのか、法人著作の成否が争われた事案

原告:ソフト開発会社
被告:ソフト開発会社
    被告会社代表取締役A

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■結論

請求棄却

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■争点

条文 著作権法15条2項

1 本件ソフトの著作者は誰か

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■判決内容

<経緯>

H10.6.19  Bが原告会社を設立
H12.11.9  A、Cらが被告会社を設立
H13.9    Aがソフト販売会社を設立
H14      AがBを東京に呼び寄せる
H15.2.14  本件ソフト1発売
H15.5    本件ソフト1をドリキャス向けに販売(本件ソフト3)
H16.11.19 本件ソフト2発売
H17.3    原被告間で本件ソフト1、2制作に関する個別業務委託契約書2通作成(日付遡及)
H17.4    本件ソフト2をPS2向けに販売(本件ソフト4)
H19.5.17  原被告らが別訴に関して本件誓約書作成

ソフト目録

本件ソフト1:PC用ソフト「カフェ・リトルウイッシュ」
本件ソフト2:PC用ソフト「まじかる・ている」
本件ソフト3:ドリームキャスト用「カフェ・リトルウイッシュ」
本件ソフト4:プレイステーション2用「まじかる・ている」

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<争点>

1 本件ソフトの著作者は誰か

原告は、本件ソフト1、2の著作者、著作権者は原告であり、被告がPC用ソフト(本件ソフト1と2)をドリームキャスト用(本件ソフト3)、プレイステーション2用(本件ソフト4)のソフトに翻案したうえで販売したことは原告の著作権(著作権法27条、28条、21条)を侵害すると主張しました。

本件ソフト1、2の開発制作は被告の役員兼プログラマーであるCが担当しましたが、原告は、被告との契約によりCが原告会社の従業員としてその発意に基づき本件ソフトを開発、制作したものであるとして、本件ソフトの著作者、著作権者は原告であると主張していました(法人著作 著作権法15条2項)。

しかし、裁判所は、本件ソフトがアダルト向けということもあり原告会社がソフ倫(コンピュータソフトウェア倫理機構)加盟会社であることや被告会社のイメージ悪化の懸念から、原告会社が本件ソフトの発売元となり、被告会社はソフトを制作、別会社が販売を担当するという枠組みでの事業展開の取決めが原被告間であったと認定。
ソフトの開発者であるCは被告会社の役員(代表取締役)ではあったが、裁判所は「法人等の業務に従事する者」(著作権法15条2項)には当該法人の代表取締役も含まれるものと解すべきであるとしたうえで、Cは被告会社の発意に基づきその職務として本件ソフトを作成したものであるとして、被告会社が本件ソフトの著作者であると判断しています(9頁以下)。

結論として、原告は著作者、著作権者ではなく原告の請求は容れられていません。

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■コメント

過去のゲームソフトをプラットフォームを替えて利用するということが行われるわけですが、最近では、Wiiのバーチャルコンソールのような過去作品のたのしみ方もあります。

今回の事案では、アダルト用PCソフトがドリームキャスト(セガ)やPS2(ソニー・コンピュータエンタテインメント)用に転用移植されています。
原告代表Bと被告代表Aは高校時代の同級生で被告AがBを郷里から呼び寄せるなど親密な関係でしたが、原告や実際にソフト開発にかかわったプログラマーCの被告会社に対する別訴の様子(4頁以下参照)、Cが原告側に立っていること(12頁 陳述書参照)などからすると、被告側の資金繰りに問題があったような感じではあります。
しかし、本件訴訟で原告側に法人著作(著作権法15条2項)が成立することを立証するまでには至りませんでした。

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■過去のブログ記事

最近のゲーム関連の事件として、

機動戦士ガンダム(パチスロ)事件
2009年2月12日記事
真説猟奇の檻アドベンチャーゲーム(PCソフト)事件
2009年1月9日記事
虹彩占いゲーム(アミューズメント機器)事件
2008年3月4日記事
宇宙戦艦ヤマト(パチンコ)事件
2007年1月5日記事
里見学園八剣伝(オンラインゲーム)事件
2007年2月3日記事
プレステ(ライブラリ・プログラム開発)事件
2006年4月16日記事

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■参考文献

福井健策編、内藤篤・升本喜郎著「映画・ゲームビジネスの著作権」(2007)30頁以下

「使用者の業務に従業する者」(著作権法15条)の意義について、
中山信弘「著作権法」(2007)176頁以下
半田正夫、松田政行編「著作権法コンメンタール1」(2009)676頁以下

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■参考サイト

Cafe・LittleWish

まじかる☆ている〜ちっちゃな魔法使い〜