最高裁判所HP 下級裁判所判例集より

小室哲哉音楽著作権詐欺被告事件

大阪地裁平成21.5.11平成20(わ)6505詐欺被告事件PDF

大阪地方裁判所第7刑事部
裁判長裁判官 杉田宗久
裁判官      三村三緒
裁判官      内林尚久

*裁判所サイト公表 09/6/15

   --------------------

■事案

著名な音楽プロデューサーである被告人が,共犯者らと共謀の上,資産家の被害者に対し,自己の音楽作品の大半の著作権が音楽出版社等に譲渡等されていた事実を隠し,未だに全著作権を自ら所有しているかのように装って,これを買い取るように持ちかけ,譲渡代金の一部として5億円を騙し取ったという高額の詐欺の事案につき,被害弁償が全額なされ,極めて多額の慰謝料も支払われていることや被告人の反省状況・更生環境等を考慮して,懲役3年・執行猶予5年の判決が言い渡された事例(判示事項の要旨より)

被告人:音楽プロデューサー
   
   --------------------

■主文

懲役3年(執行猶予5年)

   --------------------

■争点

条文 刑法60条、246条1項、25条1項

   --------------------

■判決内容

<経緯>

H13      レコード会社との専属契約を合意解約
H14      再婚
H18.7.30  被告人が被害者と都内ホテルで面談
H18.8.7   被告人が被害者と都内ホテルで面談
H18.8.9   被害者が共犯者Dの口座へ1億5000万円を振込送金
H18.8.29  被害者が共犯者Dの口座へ3億5000万円を振込送金

   --------------------

<理由>

1.有罪と認定した事実

被告人は、自分が創作した806曲の音楽著作権について二重譲渡状態にあるのを隠して、また、前妻が差押さえている著作権使用料分配金請求債権についてその差押えを解除する意思も能力もないのに差押え解除を装って被害者を騙し、合計5億円の金員を交付させました。

2.法令適用の過程

詐欺罪(刑法60条、246条1項)、執行猶予(刑法25条1項)

3.量刑の理由

5億円の詐取という重大な結果が生じてしまっていましたが、

(1)その場しのぎの場当たり的犯行であった
(2)共犯者Dがある程度犯行をリードしていた
(3)合計8億円余りの完璧な被害弁償がある
(4)いわばエイベックス社が丸抱えで本人の更生に協力
(5)本人の真摯な反省
(6)被害者も本人の謝罪の言葉を受け止めている
(7)いままでの功績と多くの嘆願書

などから、執行猶予が付されています。

   --------------------

■コメント

小室さんからは被害金額の5億円のほか遅延損害金、慰謝料1億円あわせて6億4800万円を、共犯者からは1億5千万円の慰謝料(あわせて合計7億9800万円)を被害者に対して弁償しているという点も大きく量刑判断に影響したと思われます(4頁以下)。

音楽著作権の二重譲渡(三重譲渡)による刑事事件という思いもよらない(すぐにばれる)事件でしたが、、埋もれて使われていない楽曲の再開発も含めて楽曲の著作権をひとまとめにして投資の目的にするといった発想、着目点には色々と考えさせられた事案でした。小室さんには早く楽曲創作活動に専念していただけたらと願って止みません。

   --------------------

■過去のブログ記事

2008年11月4日記事
ジャスラック信託楽曲の著作権譲渡(小室哲哉さん詐欺容疑事件)

   --------------------

■参考文献

大家重夫「見直しが必要な著作権登録制度」『マーチャンダイジングライツレポート』44巻2号通巻580号(2009)44頁以下

   --------------------

■参考サイト

Matimulog 2009年6月15日記事
jugement:小室哲哉事件判決

   ------------------

■追記09/10/21

2009.10.21 大阪地裁で共犯者に有罪判決。
「著作権制度の問題点を悪用した狡猾な犯行だが、1億5000万円を被害者に支払い、反省もしている」として懲役2年6月、執行猶予4年(求刑・懲役3年)。(読売新聞記事)