最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

LPガス退職従業員営業誹謗事件

東京地裁平成21.3.27平成20(ワ)652不正競争行為差止等PDF

東京地方裁判所民事第40部
裁判長裁判官 市川正巳
裁判官      大竹優子
裁判官      中村恭

*裁判所サイト公表 09/4/7

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■事案

会社の元従業員による「会社はもうつぶれた」などの告知行為の
営業誹謗行為性(不正競争防止法2条1項14号)が争点となった
事案

原告:LPガス販売会社
被告:元従業員

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■結論

請求一部認容

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■争点

条文 不正競争防止法2条1項14号

1 虚偽事実の告知性
2 営業上の利益の侵害性
3 損害論

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■判決内容

<経緯>

S38.4.1   被告が原告会社に入社
H18.8.21  正社員から嘱託契約へ変更
H18.11.1  原告がサイサンに買収される
H19.3.31  被告が退社
H19.7.1   被告は日本瓦斯と販売代理業務委託契約締結
H19.12.21 原告が被告を相手として仮処分申立て

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<争点>

1 虚偽事実の告知性

被告は原告会社を退職後、以前担当していた銚子市一帯の原告の
顧客約70世帯に対して、LPガスの供給契約の日本瓦斯への切替え
勧誘営業活動を行い、そのうち26世帯が切替え手続を行いました。

被告は、勧誘の際に数名の顧客に対して、
「原告はもうつぶれた。」「原告は,もう営業していない。」
「原告は身売りしたので,もうすぐなくなる。」「被告が退職した
ので,原告には,工事を担当する社員はもういだれもいない。」

と述べていました。

(1)競争関係

被告は、退職後原告と同業である日本瓦斯との間でLPガス需要者
との供給契約1件成約ごとに成果報酬を受け取る業務委託契約を
締結していました。
こうした業務委託契約の締結が、代理店類似の契約にあたるとし
て、原告と被告は不正競争防止法上の競争関係にあると判断され
ています(15頁以下)。

(2)虚偽事実の告知の有無

「原告はもうつぶれた。」「原告は,もう営業していない。」
「原告は身売りしたので,もうすぐなくなる。」「被告が退職した
ので,原告には,工事を担当する社員はもういだれもいない。」
などの告知内容について、事実の虚偽性が認められています
(16頁以下)。

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2 営業上の利益の侵害性

被告による虚偽告知行為によって、原告の信用毀損、顧客喪失の
おそれがあるとして営業上の利益の侵害が認定されています(16
頁以下)。

結論として、原告の顧客に対する虚偽告知、流布行為の差止が認
められています。

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3 損害論

被告の故意が認められており、損害賠償額としては、逸失利益は
認められず、信用毀損部分(無形損害)として30万円、弁護士費
用として6万円の合計36万円が認定されています(17頁以下)。

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■コメント

19歳で入社以来44年間働いた従業員の退職に際して、会社と
の間でうまく意思疎通ができなかったことが紛争の遠因として
あるようです(11頁以下参照)。
原告会社は平成18年に別会社に買収されており、創業家関係
者らが役員から退任するなど内部事情のごたごたがいろいろ
あったのかもしれません。