最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

「フランスの運河を巡って」事件

東京地裁平成21.2.19平成20(ワ)21343損害賠償等請求事件PDF

東京地方裁判所民事第47部
裁判長裁判官 阿部正幸
裁判官      平田直人
裁判官      柵木澄子

*裁判所サイト公表 09/2/20

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■事案

ウェブサイト上に掲載された紀行文が海外視察報告書に無断転載
された事案

原告:個人
被告:NPO法人、建設会社、同社取締役B

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■結論

請求一部認容

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■争点

条文 著作権法112条、114条、115条、民法715条

1 被用者の侵害行為について使用者責任が成立するか
2 提訴前の被告らの対応について一般不法行為が成立するか
3 損害額
4 差止及び廃棄の要否
5 謝罪広告の要否

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■判決内容

<経緯>

H16.9   被告らがNPO法人のサイトに南仏海外調査報告書を掲載
H20.5.27 原告がNPO法人のサイトへの紀行文の無断転載を発見
       原告がNPO法人に連絡
H20.6.11 NPO法人が原告に回答
H20.6.12 取締役Bの同日付回答を原告にメール送信
H20.8.6  被告らに訴状送達

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(前提となる事実及び法律関係)

原告は、自らが執筆したフランスの運河を巡る紀行文を自ら開設する
ウェブサイト(後掲サイト参照)に掲載していました。
被告建設会社取締役(副社長)Bは、被告NPO法人(Bの会社が会員
となっている環境系NPO法人)が主宰した海外研修調査に参加し、
帰国後、Bは研修調査参加報告書をNPO法人に寄稿していました。
Bの著作物が掲載された南仏海外調査報告書は、NPO法人のウェブサ
イトに平成16年10月から平成20年5月までの間掲載されていました。

裁判所は、Bの報告書は、原告の紀行文をほぼそのままに引き写し
たか、要約したりしたものにすぎないとして原告著作物の複製又は
翻案を認め、依拠性もあるとしてBの著作権侵害行為を認定。
改変行為についても同一性保持権侵害を認めています。
公衆送信権侵害についてもNPO法人とBとの共同不法行為を認めて
います(4頁以下)。

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<争点>

1 被用者の侵害行為について使用者責任が成立するか

原告は、被告取締役Bの報告書作成、ウェブサイト掲載行為が被告
建設会社の「事業の執行について」(民法715条1項)行われた行為
であるとして、被告建設会社の指揮監督責任として使用者責任の成
立を主張しました。

しかし、裁判所は、Bの報告書が個人的な感想を紹介する内容のも
のにすぎず、いわば「紀行文」の作成、提出行為であるとして、
被告会社の事業の執行についてされたものであるとは認めず、被
告会社について民法715条の使用者責任の成立を否定しています
(23頁以下)。

なお、原告は会社法350条(代表者の行為についての損害賠償責任)
の類推適用も主張していましたが、取締役Bには代表権がなく、また
報告書作成、提出行為が職務行為とは認められなかったことから
この点についても容れられていません(26頁)。

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2 提訴前の被告らの対応について一般不法行為が成立するか

著作権侵害とは別に、フリーライドによる一般不法行為の成立やB
によるメールでの回答による名誉毀損行為の成立を原告は争点とし
ています(23頁以下)。

結論としては、裁判所は、原告において著作権侵害では評価し尽く
されない法的に保護された権利ないし利益の侵害があることを認め
ず、また名誉毀損行為も認められないとして、この点についての原
告の主張は容れられていません。

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3 損害額

損害額について、著作権侵害(財産的損害)について10万円、著作
者人格権侵害(精神的損害)について30万円、弁護士費用5万円の
合計45万円と認定されています(28頁以下)。

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4 差止及び廃棄の要否

被告NPO法人と取締役Bに対して複製等の差止と報告書、データの
廃棄の必要性が認められています
(31頁以下)。

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5 謝罪広告の要否

被告NPO法人のウェブサイトに謝罪広告を掲載する点については、
NPO法人側も認めていたことからこれが認められましたが、全国紙の
新聞紙面上における謝罪広告についてはその必要性が認められま
せんでした(32頁以下)。

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■コメント

報告書の無断転載自体を被告側は争っていないので、原告の主張
する損害額や使用者責任の成否などが争点の中心となっています。

視察旅行の報告書の無断転載問題は、地方議会議員が学術論文
を盗用するなどしてしばしば話題となりますが、和解等でうまく収ま
らないと、被告側(今回の事案では、一部上場の建設会社)のイメー
ジダウンは計り知れないとの印象を受ける事案です
(なお、原告の損害額の主張は500万円余り。被告側の和解提示案
では100万円でした)。

取締役Bは、会社の費用負担で視察旅行へ出かけて、職務として海
外研修調査を行っていたので、紀行文(感想文)とはいえ「海外調査
報告書」の一章として会社の肩書付きでNPO法人に寄稿している
わけですから、会社の責任もあながち否定できないところです(なお、
紀行文の職務著作性(著作権法15条)を争点とする余地もあったかも
しれません)。

ところで、今回の事案では、NPO法人は自らの責任を争わなかった
わけですが(12頁、14頁参照)、報告書の作成依頼について原稿料
の支払い関係もない本事案において、裁判所は、

 被告リサイクルソリューションは,その業務として,会員からの入会申込みを受け付け,原稿の執筆を依頼しているのであるから,当該原稿が,第三者の著作権を侵害するものではないか否かを確認すべき注意義務を負う。
 それにもかかわらず,被告著作物について上記注意義務を怠ったのであるから,被告リサイクルソリューションには,過失が認められる。

(8頁)

と、発注元の注意義務違反を明言している部分は、著作物制作発注
元の監督責任について裁判所が厳しいスタンスをとっている(最近で
も後掲の八坂神社祇園祭ポスター事件での八坂神社の責任や「写真
で見る首里城」事件おける財団法人の責任などがあります)ことが
よく伝わる部分です。

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■過去のブログ記事

2008年3月16日記事
八坂神社祇園祭ポスター事件
2008年11月13日記事
「写真で見る首里城」事件

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■参考サイト

ゴロネコの写真館にようこそ
フランスの運河を巡って(美しい田舎風景を求めて)

特定非営利活動法人リサイクルソリューション
ようこそリサイクルソリューションへ