最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

黒澤明監督作品格安DVD事件(対松竹事件)控訴審

知財高裁平成21.1.29平成20(ネ)10025等著作権侵害差止請求,附帯控訴事件PDF

知的財産高等裁判所第2部
裁判長裁判官 中野哲弘
裁判官      森義之
裁判官      今井弘晃

*裁判所サイト公表 09/2/18

別紙PDF(オープニング、ポスターなど)

   --------------------

■事案

黒澤明監督「醜聞(スキャンダル)」、「白痴」映画作品の保護期間
をめぐり映画の著作者が黒澤監督なのか映画会社であるのかが
争われた事案の控訴審

原告(被控訴人・附帯控訴人):映画会社
被告(控訴人・附帯被控訴人):格安DVD製造販売会社

   --------------------

■結論

控訴棄却、附帯控訴一部認容

   --------------------

■争点

条文 著作権法16条、26条、旧著作権法6条

1 差止請求について
2 損害賠償請求について

   --------------------

■判決内容

<争点>

1 差止請求について

黒澤明監督作品「醜聞(スキャンダル)」と「白痴」の松竹映画2作品に
ついて、黒澤監督の死後9年後から原告松竹の許諾を得ることなく格
安DVDを被告が販売したとして著作権侵害に基づくDVD商品の輸入、
頒布の差止、同商品の在庫品及びその録画用原版の廃棄が一審で
は認められていました。

(1)本件2作品は旧著作権法6条にいう団体著作物か

2作品のタイトル部分には、「松竹映画」との表示がある一方で、
「監督黒澤明」との表示があったことから、旧著作権法6条の団体著
作物なのか、旧著作権法3条の実名著作物なのか、団体著作物である
とすると、いずれの作品も公表後33年を経過しているので保護期間が
満了しており、反面、実名著作物であればいまだ著作権が存続して
いることからこの点について争われています。
被告は、映画著作権の帰属主体は映画製作者と捉えるべきであって、
政策的判断として団体著作物として一律33年間の保護期間として取扱
われるべきであると主張しました。

裁判所は、旧著作権法6条の趣旨について、

自然人のような生死を考えることができない官庁・学校・社寺・協会・会社等のような団体ないし法人名義で発行ないし興行された著作物の著作権の存続期間は,法律関係安定のため,上記6条で,発行又は興行のときより30年間と定めたものと解するのが相当である。
(18頁)

としたうえで、映画の題名や関係者を紹介するオープニング部分の表示
と劇場公開当時のポスターの表示を詳細に検討。

以上認定の事実によれば,本件作品1及び2を観賞した社会一般の者としては,いずれも著名な映画監督である黒澤明が監督を務めた映画であると受けとめ,「松竹映画」の部分はあくまで製作者ないし配給元を表示したにすぎないと認めるのが相当である。したがって,本件作品1及び2は,自然人たる黒澤明ほかの著作者を表示した実名著作物であって,旧著作権法6条にいう団体著作物ということはできないから,一審被告の当審における主張は採用することができない。
(17頁以下)

として2作品が実名著作物としての表示があると認定しています。


(2)シェーン事件最高裁判決との関係

映画の保護期間問題(昭和28年問題)について、先行するシェーン事件
(最高裁平成19.12.18判決)では、パラマウント(映画会社)が著作者と
認定されていて、その事案で示された判断との関係も争点となりました
が、本件事案とは事実関係を異にするとして、被告の主張は容れられて
いません(21頁)。


(3)プロデューサーの役割と法人著作の成否

被告は、旧著作権法を現行著作権法15条の法人著作的に解釈すべき
であり、契約プロデューサーの役割を捉えれば団体著作物の著作権を
映画会社(原告)は取得していると主張しました。

しかし、結論的には、

上記によれば,本木荘二郎が本件両作品の製作に当たり重要な役割を果たしたことは認めることができるものの,原判決(13頁)認定のとおり黒澤明は本件各作品の監督として独自の立場でその全体的形成に創作的に寄与しているのであって,一審被告(ママ)の被用者的立場であったということはできないから,一審被告の提出した上記証拠によっても,本件両作品につき,黒澤明が一審被告(ママ)の業務に従事する者としてその職務上作成した著作物であると認めることはできない。
(22頁)

として、被告の主張を容れていません。

結局、差止請求については、原審と同様の判断となっています。

   ----------------------------------------

2 損害賠償請求について

原告松竹が附帯控訴の方式で控訴審で損害賠償請求を追加した部分に
ついて、これを適法なものと認めたうえで被告の過失も認定。
結論として785万円余りの損害額を認定しています(23頁以下)。

   --------------------

■コメント

「醜聞(スキャンダル)」、「白痴」は、黒澤明監督ほか自然人である
著作者を表示した実名著作物として、いまだ著作権保護期間が継続
している映画(旧著作権法3条)であると判断されていて、格安DVD
の販売差止を認めた原審の判断を維持、さらに損害賠償請求も認め
た結果となっています。

   --------------------

■過去のブログ記事

2008年1月29日記事(原審)
「黒澤明監督作品格安DVD」事件(対松竹事件)

   --------------------

■参考文献

旧著作権法下での職務上作成される著作物の著作者について
 半田正夫、松田政行編『著作権法コンメンタール3』(2009)676頁以下参照
旧著作権法下での映画の保護期間について
 同『著作権法コンメンタール2』(2009)502頁以下、516頁以下参照
シェーン事件最高裁判決について
 山下英久「昭和28年に団体名義をもって公表された独創性を有する映画の著作物の保護期間が満了したとされた事例」
 『小松陽一郎先生還暦記念論文集最新判例知財法』(2008)762頁以下
保護期間延長問題と映画製作誘因効果について
 田中辰雄、林紘一郎『著作権保護期間 延長は文化を振興するか?』(2008)147頁以下

   --------------------