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2009年02月12日

機動戦士ガンダムパチスロ事件〜著作権 業務委託料等請求事件判決(知的財産裁判例集)〜

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

機動戦士ガンダムパチスロ事件

東京地裁平成20.12.25平成18(ワ)24821業務委託料等請求事件PDF

東京地方裁判所民事第47部
裁判長裁判官 阿部正幸
裁判官      平田直人
裁判官      瀬田浩久

*裁判所サイト公表 09/2/9

添付別紙PDF(シーンデータ裁判所評価)

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■事案

アニメ「機動戦士ガンダム」のパチスロ開発業務に関して、未払い対価の
支払いや成果物の二次的著作物性についてその著作権、著作者人格権
に基づく差止請求が争われた事案

原告:アニメ企画制作会社
被告:娯楽用電子機器開発製造会社

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■結論

請求一部認容

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■争点

条文 民法632条、656条

1 本件各契約の法的性質
2 本件業務の履行の状況
3 追加作業に関する受委託契約の成否
4 抗弁関係の成否

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■判決内容

<経緯>

H18.1.27  原被告間でガンダムパチスロ実機開発案件キックオフミーティング
H18.2.13  開発委託契約、見積書
H18.3.1   開発委託契約、見積書
H18.3.20  開発委託契約、見積書
H18.4.26  プリプロダクション実施、遅延原因報告書作成
H18.5.23  基本契約、個別契約締結
H18.5.31  着手金1530万円支払
H18.6.6   契約交渉会議
H18.6.13  V2「機動戦士ガンダム靴瓩阿蠅△け宙篇」制作延期
H18.8.29  被告が成果物の査定評価額を原告に通知(合計4327万円余)
H18.8.30  原告は社内算定結果を被告に通知(合計9369万円余)
H18.9.28  被告から原告に対して未履行部分の解除通知
H18.11.7  本件訴訟を提起
H19.9.13  山佐株式会社 パチスロ「機動戦士ガンダム供前ァ戦士編〜」
        発表
H19.12   パチスロ「機動戦士ガンダム供前ァ戦士編〜」リリース

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<契約関係>

山佐(パチスロ製造販売)→開発委託→被告(ハードウェアデザイン、
ソフトウェア開発)→開発委託→原告(液晶画面表示シーンデータ制作)

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<争点>

1 本件各契約の法的性質

原被告間の本件開発委託業務の内容は、劇場用映画「機動戦士ガンダム」
などのDVDの2Dセルアニメの名場面をパチスロ用の動画データ(シーンデ
ータ)に再現する業務でした。シーンデータの作成は元映像のリアルタイム
3DCG化(2.5D)によるものです(43頁)。

パチスロ(回胴式遊技機)開発業務委託基本契約(3頁以下)の法的性質に
ついて、原告は請負契約とは異なる無名契約であって、仕事完成義務その
ものを負担することはないと主張しました。
この点について、裁判所は、準委任の性質があるものの、本件各契約(個別
契約)の目的がパチスロに使われる映像の制作であることから、基本的には
「請負」の業務の範疇にあるものとしています。
また、業務内容、対価、支払方法、納期などに関する本件各契約(個別契約)
についても、共同作業によって契約の履行が完遂される「請負的な性格を有
する業務の委託契約」として捉えられています(107頁以下)。

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2 本件業務の履行の状況

次に、シーンデータの個々の制作作業がどの程度仕上がれば個別にみた
本件業務の完成に至るといえるかを確定する必要があり、「本件仕様」の
内容が問題とされています(108頁以下)。

結論的には、「本件仕様」とは「原告において,本件元映像にできる限り似
せること
」(111頁)であり、各シーンデータごとに個別に完成の度合いを
5段階に分けたうえで検討されています。

そのうえで、裁判所は、被告に提出された本件シーンデータの出来型の
金銭的な評価として全体で4857万円、既払金1530万円を差し引いて、
未払相当金は3327万円であると判断しています(113頁以下)。

なお、本件各契約関係の未履行部分(出来型以外の部分)は既に契約
解除により解消されているとして、結果的に本件基本契約10条の「納入
物」の「引渡し」が完了しており、予備的請求である二次的著作物に
関する著作権及び著作者人格権に基づく差止請求については認められ
ていません(114頁)。

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3 追加作業に関する受委託契約の成否

原告は、被告のために追加作業を行っており、本件基本契約9条3項、
商法512条により受委託契約が原被告間で成立していると主張しました。
しかし、結論的には、各個別契約とは別個の契約が成立しているとは
認められず、追加作業についての対価請求は容れられませんでした
(114頁以下)。

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4 抗弁関係の成否

(1)一部解除の抗弁

平成18年9月28日に被告から原告に対して未履行部分の解除通知が
出されていますが(10頁)、この通知により本件シーンデータの出来
型として割合的に完成したものと評価できる部分以外については、
本件各契約の未履行部分として解除されたものと認められています
(115頁以下)。

(2)同時履行の抗弁

未履行部分の解除が認められていることから、被告の対価支払債務
と牽連関係に立つ原告の引渡債務は存在しないとして、被告の抗弁
は容れられていません
(116頁以下)。

(3)相殺の抗弁

さらなる外注などによる損害があるとして、被告は損賠賠償請求権の
存在を主張しました。しかし、原告の帰責性については、

被告の帰責性といわば競合するものとみるのが相当であって,原告において,債務不履行責任を生ずるような帰責事由があるものと認めることはできないというべきである

として、相殺の抗弁を認めませんでした(117頁)。

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■コメント

パチスロ実機開発のためのアニメ映画の3DCG化の現場のやりとりが
良く分かる判決内容です。

8ヶ月間にわたるパチスロ実機開発業務について平成18年1月のキッ
クオフミーティングからシーン成果物の査定評価の溝が埋まらなかっ
た8月まで、連日のように開催されたミーティングについてその報告書
や議事録から開発業務の進捗具合が分かります(56頁以下)。

アニメセル画の2次元映像を3次元で表現する場合、ポリゴン(多角形)
データであるモデリングデータの変形作業が重要なものでしたが
(43頁以下)、遅延原因報告書の記載(100頁以下)を見ると、双方
にとって想像以上にたいへんな作業であったことが伺えます(*)。

開発業務委託契約の法的性質論については、共同作業の面を重視す
れば準委任の性質が強調されますし、成果物の完成の面を重視すれ
ば請負の性質が強調されますが、裁判所は、基本的には請負契約と
捉えつつ「完成」の度合いのランク付けを行い業務委託料の査定判断
をしています。
また、原告に債務不履行を認めないうえでの処理となっています。

本件業務における完成度を計るための「仕様」を表現するとすれば,被告の具体的な指示を前提として,原告において,本件元映像にできる限り似せることである,としかいいようのないものである
(111頁)

と裁判所に言わしめている点も、通常のプログラム開発業務で作成
される「仕様書」とは違った一面を見るところです。

なお、シーンデータの二次的著作物性について今回は判断されるに
至りませんでした。
アニメ「機動戦士ガンダム」(原著作物)の著作権は、著作権表示から
すると創通とサンライズ、となりますが、2Dセル画にできる限り似せて
制作された2.5D著作物であるシーンデータの二次的著作物性につい
ては、いかに困難な制作過程を経たものであったとしても原著作物と
酷似しているが故に新たな創作性の付与が否定される可能性があり
そうですし、光沢感、立体感など印象の違いから肯定される可能性も
否定はできないところです。

 〜〜〜〜〜

せっかくですので、近所のパチンコ屋さんを覗いてみました。
パチスロとしては、

「サラリーマン金太郎」
「北斗の拳」
「エヴァンゲリオン」


などが目に付きました。

2.5Dというのは、「サラ金」みたいなタイプでしょうか。
「エヴァ」は2Dと3Dが混在しているようなタイプでした。

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■過去の遊技機器関連ブログ記事

2007年1月5日記事
宇宙戦艦ヤマトパチンコ事件

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■参考文献

漫画キャラクターの立体化商品(ガレージキット)の二次的著作物性に
ついて、ガレージキット事件(京都地裁平成9.7.17判決)参照。
芹田幸子「ガレージキットの第二次著作物性並びに職務著作の成立要件」
     『村林隆一先生古稀記念 判例著作権法』(2001)353頁以下

請負人(ベンダー)の債務不履行を否定しつつ、過失相殺の規定を類推
適用することで具体的妥当性を図った事例として、東京地裁平成16.3.10
判決参照。
(財)ソフトウェア情報センター「ソフトウェア取引における紛争事例
を巡る判例に関する調査報告書
」(2006)71頁以下

未完成プログラムの分量に着目して債務不履行と判断しなかった事例
として、東京地裁平成17.4.22判決参照。
(財)ソフトウェア情報センター「ソフトウェア契約関連判例に関する
調査研究報告書-平成18年度版-
」(2007)21頁以下

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■参考サイト

山佐株式会社
パチスロ「機動戦士ガンダムII〜哀・戦士編〜」機種情報ページ
パチンコ 店/パチンコ・パチスロ 総合情報 Pガイド
パチンコ 店/パチンコ・パチスロ 総合情報 Pガイド  パチスロ「機動戦士ガンダムII〜哀・戦士編〜」 山佐

(*)Where is a limit?のTontonさんからおしえていただいたサイト

SLN3DEXPO Vol.2 2.5次元アニメの技法 - SLNblog

Tontonさん曰く、
「エクセルでマクロ組もうが、DBの仕事であろうが、
基本的にはパソコンで仕事をやる場合の人の場合、
殆どが2Dです。そういう意味ではライターさんとか
物書きさんとかも、そういう分別になります。
しかし、3Dの場合、xy軸に更にz軸が追加される訳で
すから、仕事量が半端じゃなく増える事は目に見え
ています。」

なるほど。。



written by ootsukahoumu at 06:02│TrackBack(0)知財判決速報2008 

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