最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

「快通ハーブ粒」営業誹謗事件

大阪地裁平成21.1.20平成18(ワ)7758等不正競争行為差止等請求事件PDF

大阪地方裁判所第21民事部
裁判長裁判官 田中俊次
裁判官      西理香
裁判官      北岡裕章

*裁判所サイト公表 09/1/21

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■事案

健康食品の商品名に関する商標権侵害性や製造委託契約関係、
営業誹謗行為性などが争われた事案

原告:健康食品販売会社
被告:健康食品販売会社、販売部門会社、代表取締役A
   
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■結論

請求一部認容

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■争点

条文 不正競争防止法2条1項1号、2条1項14号、民法415条

1 商標権侵害の有無
2 被告会社に対する損害賠償請求権の有無
3 被告販売部門会社に対する損害賠償請求権の有無
4 被告代表取締役Aに対する損害賠償請求権の有無
5 被告らの営業誹謗行為の有無
6 原告の製造委託義務の有無
7 損害論

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■判決内容

<経緯>

H11     原告が被告にハーブ粒商品の製造を委託
H12.1    原告が「快通ハーブ粒」を販売開始
H12.夏   原被告間で製造委託契約書を締結
H13.1.1   原被告間で「快通ハーブ粒製造委託契約」書を再締結
H17.3.4   コエンザイムQ10無承認無許可医薬品検出事件
H17.6.27  最終的な委託製造が行われ、その後発注取り止め
H17.10.28  被告が商標登録出願
H17.11.4  原告が商標登録出願(登録H19.7.13)
H17.12.13 被告が契約解除通知書送付
H17.12.28 原告が契約解除の意思表示
H18.3.7   原告が仮処分命令申立て(大津地裁平成18(ヨ)6)

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<争点>

1 商標権侵害の有無

原告が健康食品の商品名として使用していた「快通ハーブ粒」
(登録商標5062995)について、原告の出願に先立って被告らが
見積書で商品名を使用したり、商標登録出願したりした行為があ
りました。
こうした事情も踏まえて、被告らが将来「新快通ハーブ粒」又は
「快通ハーブ粒」標章を付した商品を製造販売するおそれがある
として原告の商標権を侵害するものとして差止請求が認められて
います(20頁以下)。

商標権に基づく請求と選択的併合関係にある不正競争防止法3条
(2条1項1号)に基づく請求は、その結果、判断の必要がなくなり
取り下げられたものとして取扱われています(22頁)。

なお、商標登録出願関係については、後掲「名古屋の商標亭」サイト
をご覧頂けたらと思います。

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2 被告会社に対する損害賠償請求権の有無

原告と被告会社との間で締結された快通ハーブ粒製造委託契約
書の9項には、

快通ハーブ粒の販売に当たり,原告は近畿2府4県及び
石川,三重,徳島の各県(以下「本件エリア」という。)に
おいては店舗販売ルートにおけるハーブ粒商品の独占販売
を行い,それ以外の地域については,被告ウェーブの製造
販売するスリムダイエット粒と協調販売を行う。
被告ウェーブの発売するスリムダイエット粒は原告の上記
独占発売地域(本件エリア)外において販売活動を行うもの
とする。
なお,被告ウェーブの取引先に関し,広域販売網を持つ会社
との取引については,その出店先が上記条項に抵触しない
こと

(4頁)

という内容のエリア(商圏)条項がありました。

ところが、このエリア内のドラッグストアに被告がハーブ粒商品を
卸販売していたことから、本件エリア条項違反が争点となりました。

この点について、裁判所は、すでにハーブ粒商品を販売していた
被告にとって一方的に不利益な販売地域限定となる内容の本件
契約書の締結であったりと、その他の事情もあわせ考えると本件
契約書締結にあたって被告がこのエリア条項の趣旨をしっかり理
解していたかどうか疑問がある、としながらも、結論的には、エリア
内での被告による販売が一律禁止されていることは文言上一義
的に明確であり、これと異なる口頭の合意の存在も認められない
として、被告による快通ハーブ粒製造委託契約の債務不履行が
認められています。
(22頁以下)

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3 被告販売部門会社に対する損害賠償請求権の有無

被告会社2社は、役員や資本構成から相当に密接な関係にあるとし
て、その販売部門会社の販売行為について会社法350条に基づく不
法行為責任が認められています。
(27頁以下)

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4 被告代表取締役Aに対する損害賠償請求権の有無

被告会社2社の共通の代表取締役としてAは、エリア条項違反行為に
ついて損害賠償責任を負うとされています。
(29頁)

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5 被告らの営業誹謗行為の有無

被告が取引先に対して商品サンプルの配布販売方法や成分が異なる
ことに関して告知した事実内容について、原告は虚偽事実告知行為性
(2条1項14号)を争点としました。
しかし、結論的には告知事実の虚偽性がないなどとして、14号該当性
が否定されています。
(29頁以下)

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6 原告の製造委託義務の有無

原告は、被告にハーブ粒商品の製造委託していましたが、途中で別
の会社にハーブ粒商品の製造を委託し、その後被告との取引が途絶
えたことから、その点について被告は原告の製造委託義務違反の債
務不履行を争点としています。

しかし、本件契約上、原告が被告に対して製造委託義務を負う旨の
明示的な規定がないことなどから結論としては、債務不履行の成立
が否定されています。
(34頁以下)

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7 損害論

被告らの損害賠償額については、エリア内でのハーブ粒商品の販売
個数が2万個余り、利益の額が3133万円余りでその20%相当額が原
告の損害額であるとして、626万円余りが認定されています。
(36頁以下)

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■コメント

裁判所ウェブサイトに公表された2009年最初の不正競争事案となります。

快通ハーブ粒製造委託契約書には、商圏を規定する条項(エリア条項)
があったのですが、お互いの思惑もあってか、厳密な取扱いがされて
いませんでした(25頁,26頁)。
せっかく契約書の取り交わしがあっても、契約条項違反を黙認するなど
その内容が遵守されていないと、かえって取引内容があいまいになって
しまいます。
契約書文言の解釈、当事者意思解釈、契約書の内容と異なる合意の存
否といった判断にあたっては、契約書の存在とその文言が重要、という
あたりまえのこと(でも、実務感覚では、案外あたりまえではない)が確認
できる事案です。

なお、今回の事案ではコエンザイムQ10無承認無許可医薬品検出事件が
取引関係冷却化の一因であったことが伺われます。

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■過去のブログ記事

健康食品関連不正競争事案

2008年10月22日記事
黒酵母健康食品比較広告事件
2007年12月30日記事
スーパーフコイダン事件
2007年9月23日記事
パパイア発酵食品事件
2007年1月31日記事
杏林製薬商号事件

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■関連ブログ

名古屋の商標亭
(2009年01月22日記事)
快通の争い
(2009年01月23日記事)
二つとも拒絶査定だったのに?