最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

サントリー黒烏龍茶比較広告事件

東京地裁平成20.12.26平成19(ワ)11899不正競争行為差止等請求事件PDF

東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官 清水節
裁判官      坂本三郎
裁判官      國分隆文

*裁判所サイト公表 09/1/7

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■事案

商品パッケージの著作物性や商品比較広告の営業誹謗行為性が
争点となった事案

原告:サントリー
被告:食品製造販売会社ら

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■結論

請求一部認容

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■争点

条文 不正競争防止法2条1項1号、2号、13号、14号、
   著作権法2条1項1号、2項


1 原告商品表示の周知性又は著名性の有無
2 原被告らの各商品表示の類似性の有無
3 被告ら各商品が原告商品と混同を生じさせるか
4 被告の虚偽事実告知行為性又は品質誤認表示行為性の有無
5 虚偽事実告知行為性又は品質誤認表示行為についての故意過失
   の有無

6 商標権侵害性
7 本件デザインの著作物性の有無
8 損害論
9 信用回復措置の要否

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■判決内容

<争点>

*不正競争防止法にかかわる論点については、後掲の弁理士廣田先生
のブログ「名古屋の商標亭」記事に詳しいので、そちらをご覧いただけたら
と思います。

結論としては、原告ペットボトル容器のパッケージデザインと、被告旧商品
(A)のティーバッグ包装箱デザインに関する被告の商品・営業主体混同
行為(デザインの類似性 不正競争防止法2条1項1号)と営業誹謗行為
(比較広告での虚偽事実告知 同14号)の成立が肯定されています。

1 原告商品表示の周知性又は著名性の有無(1号肯定)
2 原被告らの各商品表示の類似性の有無(肯定)
3 被告ら各商品が原告商品と混同を生じさせるか(肯定)
4 被告の虚偽事実告知行為性又は品質誤認表示行為性の有無
   (14号肯定)
5 虚偽事実告知行為性又は品質誤認表示行為についての故意過失
   の有無
(肯定)
6 商標権侵害性(否定)
7 本件デザインの著作物性の有無(否定)
8 損害論(肯定)
9 信用回復措置の要否(否定)

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7 本件デザインの著作物性の有無

被告が、その運営するウェブサイトに原告商品のパッケージデザインを
含む原告商品の画像を掲載して比較広告をしていました。
そこで原告は、原告商品の画像の使用がパッケージデザインの著作権
を侵害するとして複製権侵害性を争点としました。

商品パッケージの著作物性について、裁判所は、著作権法2条1項1号、
同条2項の規定は、

意匠法等の産業財産権制度との関係から,著作権法により著作物として保護されるのは,純粋な美術の領域に属するものや美術工芸品であって,実用に供され,あるいは,産業上利用されることが予定されている図案やひな型など,いわゆる応用美術の領域に属するものは,鑑賞の対象として絵画,彫刻等の純粋美術と同視し得る場合を除いて,これに含まれないことを示していると解される。

としたうえで、

証拠(甲42,43,52)及び弁論の全趣旨によれば,本件デザインは,当初から,原告商品のペットボトル容器のパッケージデザインとして,同商品のコンセプトを示し,特定保健用食品の許可を受けた商品としての機能感,おいしさ,原告のブランドの信頼感等を原告商品の一般需要者に伝えることを目的として,作成されたものであると認められる。

そして,完成した本件デザイン自体も,別紙原告商品目録の写真のとおり,商品名,発売元,含有成分,特定保健用食品であること,機能等を文字で表現したものが中心で,黒,白及び金の三色が使われていたり,短冊の形状や大きさ,唐草模様の縁取り,文字の配置などに一定の工夫が認められるものの,それらを勘案しても,社会通念上,鑑賞の対象とされるものとまでは認められない。

したがって,本件デザインは,いわゆる応用美術の領域に属するものであって,かつ,純粋美術と同視し得るとまでは認められないから,その点において,著作物性を認めることができない。

として、ペットボトル容器のパッケージデザインが著作権法上の保護の
対象となる著作物であることを否定しました。
(79頁以下)

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■コメント

サントリー(サントリー提供画像より)




いま盛んにCMで流れているサントリーの黒烏龍茶(ペットボトル)の
パッケージの類似性と比較広告での営業誹謗行為性を巡っての事案。
サントリーのペットボトル商品に対して、被告商品は、ティーバッグで
煎れる分包タイプのものでした。
結論としては、金色の唐草模様まで似ていた被告旧商品(被告商品A 
写真中央)パッケージがサントリー商品パッケージに類似する(2条1項1号)
とされ、また被告が「70倍 サントリーなんかまだうすい」等と表示した比
較広告について、実際にはその濃度がサントリー商品のほうが濃かった
ことから、営業誹謗行為(2条1項14号)にあたるとされました。

ただ、ペットボトルのパッケージデザインを著作権法上の「美術の著作物」
として保護するには、ハードルが高い事案でした。

原告商品
商品紹介 黒烏龍茶 サントリー

被告商品B
烏龍茶黒濃タイプの通販ショップ

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■過去のブログ記事

比較広告事件関連

2008年10月22日記事
黒酵母健康食品比較広告事件
2007年6月9日記事
日本香堂ローソク営業誹謗事件
2006年10月24日記事
ロッテVSグリコキシリトールガム比較広告事件

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■参考判例

海洋堂チョコエッグおまけフィギュア模型事件
大阪高判平成17.7.28平成16(ネ)3893違約金等本訴請求、不当利得返還反訴請求控訴事件PDF

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■参考文献

中山信弘「著作権法」(2007)138頁以下
田村善之「著作権法概説 第二版」(2001)31頁以下
作花文雄「著作権制度における美的創作物(応用美術)の保護ー
  法目的制度間調整に基づく著作物相応性の視点による対象範囲の
  画定規準ー」『コピライト』46巻544号(2006)44頁以下
野一色勲「「美術の著作物」と「美術の範囲に属するもの」の
  「美術」の語義の相違」『意匠法及び周辺法の現代的課題―
  牛木理一先生古稀記念
』(2005)425頁以下
本山雅弘「応用美術の保護をめぐる著作権の限界づけと意匠権の
  保護対象」同上書469頁以下
クリストファー・ヒース、大西育子訳「美的創作物の保護−デザイン、
  著作物、立体商標または不正競争防止法とのインターフェース−」
  同上書631頁以下
内藤裕之「応用美術と美術の著作物性 量産品のデザイン等は、
  どのような基準と限度で美術の著作物として保護されるか。」
  『新・裁判実務大系 著作権関係訴訟法』(2004)155頁以下
満田重昭「著作権と意匠権の累積」『民法と著作権法の諸問題
   半田正夫教授還暦記念論集
』(1993)616頁以下
竹田千穂「応用美術が「美術の著作物」として著作権法上保護される
  ための判断基準」『最新判例知財法 小松陽一郎先生還暦記念
  論文集
』(2008)603頁以下

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■参考サイト

名古屋の商標亭(弁理士廣田先生)
2009年1月13日記事
黒烏龍茶

2009年1月14日記事
たのむ!

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■追記(09.1.25)

企業法務戦士の雑感(09.1.21記事)
■[企業法務][知財]サントリーの執念。

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■追記09/10/12

柿内瑞絵「自他商品識別力の弱い標章を含むパッケージデザインの保護-「黒烏龍茶」事件-」『知財管理』59巻8号(2009)1023頁以下