最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

マスカラ化粧品容器事件

大阪地裁平成20.10.14平成19(ワ)1688不正競争行為差止等請求事件PDF

大阪地方裁判所第21民事部
裁判長裁判官 田中俊次
裁判官      西理香
裁判官      北岡裕章

*裁判所サイト公表 10/27

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■事案

マスカラ化粧品OEM製造の不正競争行為性が争われた事案

原告:化粧品製造販売会社ら
被告:化粧品OEM企画開発製造会社

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■結論

請求一部認容

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■争点

条文 不正競争防止法2条1項1号、2号、3条、5条1項

1 容器及び包装の商品等表示性、周知性
2 容器の類否
3 包装の類否
4 混同のおそれ
5 製造行為及び納品行為の不正競争行為性
6 営業上の利益の侵害性(差止の可否)
7 故意・過失
8 損害論

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■判決内容

<経緯>

H13.9   原告商品の販売開始
H18.4   訴外ワールドリンクスから委託を受けて被告が被告製品を製造
       株式会社ニッド「NID」のプライベートブランドとして販売
       原告が被告に対して仮処分命令申立
H19    本訴提訴
H20.3.25 ワールドリンクスが破産手続開始決定、その後廃止決定

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<争点>

1 容器及び包装の商品等表示性、周知性

マスカラの容器や包装などの資材は、OEM製造(相手先ブランド製造)
委託先が調達して製造受託先に提供、製造受託者はマスカラを注入
して製品を完成、委託先に納品していた事案です。

(1)原告容器の特徴

容器本体の赤系色、キャップの銀色の色彩と本体に描かれた女性の
ウインクしたような絵柄に需要者の注意を引く他の商品とは異なる
独自の特徴を有するものと認められています。
(33頁以下)

現行の原告商品です。平成18年当時のものとまったく同一の容器・
包装かどうかはわかりません。本体部分に絵柄が入っています。
(原告サイトより)
マスカラ










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(2)原告包装の独自性

「塗るつけまつげ」というキャッチコピーの独自性とプラスチック包装
で容器有姿をそのまま透視できる点で容器の特徴を捉えることがで
きることなどから原告包装の特徴の独自性が認められています。
(35頁以下)

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(3)原告容器及び包装の周知性

原告ら商品の売上高、販売店舗数、広告宣伝の状況(交通広告、TV、
雑誌)などから原告容器及び包装が原告らの商品の出所を示すもの
としてマスカラの需要者である女性の間に広く認識されていたと認
められています。
(37頁以下)

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2 容器の類否

原告商品と被告商品の容器の一致点と相違点を検討の上、本体容器、
キャップの長さが一致していること、色彩がほぼ一致していること、
絵柄も類似していることなどから、容器の類似性を肯定しています。
(41頁以下)

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3 包装の類否

原告商品の包装と被告商品の包装の類否について、

1.マスカラ容器を有姿のまま透視できるブリスター方式の
  包装の点、包装の大きさの点でほぼ一致する
2.台紙のライトグリーンの色彩や形状が類似する
3.台紙に付された文字「まるでつけまつげ」と「塗るつけまつげ」
  が観念において類似する

として、結論として包装の類似性が認められています。
(45頁以下)

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4 混同のおそれ

ドラッグストアで並べて販売されている店舗もあったことや販売価格
が原告商品が1500円で被告商品が980円と大きく異ならないことな
どから被告商品に接した需要者において原告商品と混同するおそれ
があると認定されています。
(48頁以下)

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5 製造行為及び納品行為の不正競争行為性

被告は、訴外ワールドリンクスとの間の製造委託契約に基づいて
ワールドリンクスから送られてきた容器にマスカラを充填して、
同じくワールドリンクスから送られてきた包装資材でこれを包装
してワールドリンクスに納入していました。

結論として、被告のマスカラ充填製造行為が原告商品の商品等
表示の「使用」にあたり、また、ワールドリンクスへの納入行為が
「引き渡し」(2条1項1号)にあたると判断されています。
(50頁以下)

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6 営業上の利益の侵害性(差止の可否)

被告製品の製造等差止、廃棄請求について、原告の営業上の利益の
侵害のおそれはないとして認められませんでした(3条1項、2項)。
(51頁)

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7 故意・過失

原告ら商品の容器、包装が周知性を獲得していた点から、マスカラ
製造業者である被告に少なくとも過失が認められるとされています。
(52頁以下)

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8 損害論

5条1項の「利益の額」の意義について、裁判所は、侵害がなければ
販売することができた数量の被侵害者製品を追加して販売するため
に追加的に必要であったはずの経費を販売価額から控除した利益
(限界利益)の額であるとしたうえで、開発費や広告宣伝費を控除
した「純利益」と捉えるべきとする被告の主張を容れていません。

利益の額のとらえ方については、純利益説(粗利益から営業経費を
控除した額)、限界利益説(原価と変動費を販売価格から控除した額)
などがありますが(小松一雄編著「不正競業訴訟の実務」(2005)
240頁以下参照)、今回の事案では裁判所は限界利益説に基本的に
立っています。

結論的には、一部請求に当たる部分の全額(6600万円)を損害として
認めています。(53頁以下)

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■コメント

マスカラの容器や包装など商品の形態に特別顕著性、認識性が認
められ商品の出所識別性(商品等表示性)が肯定された事案です。

最近、地下鉄の車内シール広告に、「・・・してますから(マスカラ)」
みたいなキャッチコピーのマスカラ化粧品広告があって、
「化粧品広告も意外と寒いなー」と、そのとき思ったのが印象に
残っています。どこの化粧品会社だったか(笑)


被告商品の「NID」ブランドは、株式会社ニッド(日本ドラッグチェーン会)
のプライベートブランドでニッドはドラッグストア各社の役員で構成され
ている会社で、サプライチェーンといったところでしょうか。

損害賠償請求の被告としては、製造委託先とニッドも考えられますが、
製造委託先は倒産状態、ニッドはドラッグストアの集合体で今後の取
引を考えると被告にはしたくなかった、それで、マスカラ化粧料を充填
して製品を完成させた製造者のみを被告とした、ということかもしれ
ません。

なお、今回の事案は、OEM製造契約に基づいて委託先から提供を受け
た資材で製造し、委託先に引き戻していたもので原告商品の商品表示
の使用について被告が積極的な役割を果たしていた事案ではありませ
んが、裁判所が『被告の本訴における主張は当を得ないものが多く,
その応訴態度等に照らせば
』(52頁)うんぬん・・と言われてしまって
いる点、被告の訴訟対応の不都合な部分がどういったところにあるの
か気になります。

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■参考サイト

イミュ オフィシャルサイト
【ファイバーウィッグ】 マスカラじゃない これは 「塗るつけまつげ」