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2008年09月28日

手刺繍柄バッグ販売価格営業秘密事件〜不正競争防止法 製造販売差止等請求控訴事件判決(知的財産裁判例集)〜

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

手刺繍柄バッグ販売価格営業秘密事件

大阪高裁平成20.7.18平成20(ネ)245製造販売差止等請求控訴事件PDF

大阪高等裁判所第8民事部
裁判長裁判官 若林諒
裁判官      小野洋一
裁判官      菊地浩明

裁判所サイト9/25アップ

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■事案

手刺繍柄の付いたバッグなどの販売先業者名や販売数量、
販売価格、仕入価格などの営業秘密性が争われた事案

原告(控訴人)  :袋物・生活雑貨小物製造卸業社
被告(被控訴人):原告会社退職従業員B
            袋物・生活雑貨小物製造販売業社

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■結論

一部変更

(原審:請求棄却判決)

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■争点

条文 不正競争防止法2条1項7号、8号、2条6項

1 販売価格等の営業秘密該当性(2条6項)
2 退職従業員の営業秘密開示行為性(2条1項7号)
3 退職従業員の債務不履行の成否
4 就職先会社の営業秘密使用行為性(2条1項8号)
5 退職従業員らの不法行為性
6 損害論
7 差止請求の成否

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■判決内容

<経緯>

H15.10.21  原告が被告Bを従業員として採用
H16.9     被告Bが競合他社立ち上げとの情報
H16.11.10  被告Bが本件誓約書に署名押印
H17.9     被告Bが引き抜き行為で謝罪陳述書作成、Bが退社
H18.2.6    被告会社にBが入社
H18.4〜    被告会社は原告と類似の商品を低価格で販売

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<争点>

1 販売価格等の営業秘密該当性(2条6項)

原告商品の販売先業者名、販売数量、販売価格、仕入価格、
利益額などの営業情報が不正競争防止法2条6項の営業秘密
に該当するかどうかが争点となっています。

まず、被告Bが原告従業員を引き抜いて独立する動きがある
ことをうけて原告と被告Bが秘密保持誓約書を締結した経緯
をふまえて、この誓約書によって被告Bが在職中及び退職後
に秘密保持義務が課されていたこと、秘密保持義務上の秘密
事項とは、原告商品の販売先業者名、当該業者への販売価格
及び仕入価格であると裁判所は認定。

そのうえで、原告とこれらの情報を知り得る従業員全員(約11名)
との間で本件誓約書と同様の内容の秘密保持書面を作成して
いたことから、従業員の間では客観的に認識できる程度に対
外的に上記情報が漏出しないよう秘密として管理されていた
と裁判所は判断しています。
(8頁以下)

そのほか有用性、非公知性もあるとして、結論として不正競争
防止法2条6項の営業秘密に本件情報が該当するとしています。

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2 退職従業員の営業秘密開示行為性(2条1項7号)

被告Bが被告会社に入社後、原告商品と酷似する被告商品を
原告取引先に原告商品の販売単価より10円だけ安い価格で
被告会社が被告商品を販売開始するなどしていたとして、被
告Bは販売業者名と販売価格を不正の利益を図る目的で被告
会社に情報開示したものと推認されると裁判所は判断。

被告Bの開示行為は、不正競争防止法2条1項7号に該当すると
しています。
(9頁以下)

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3 退職従業員の債務不履行の成否

被告Bが被告会社に原告会社の取引先業者名とそこへの販売
価格を開示して同情報を利用させた行為が秘密保持契約に違
反するとして債務不履行を構成すると判断されています。
(10頁)

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4 就職先会社の営業秘密使用行為性(2条1項8号)

被告Bが退職後に就職した被告会社は、被告Bが在職中に
誓約書を作成して秘密保持義務を負っていたことを認識し
ていたと認定。
そのうえで被告会社は原告の取引先である販売業者名と販
売価格情報を取得し、被告商品を販売してこれらの情報を
使用したとして、被告会社の使用行為は、不正競争防止法
2条1項8号に該当すると裁判所は判断しています。
(10頁)

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5 就職先会社らの不法行為性

被告Bの秘密保持義務の債務不履行に被告会社が積極的に
加担したものとして、被告会社の不法行為性が肯定されて
います。
(10頁以下)

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6 損害論

情報使用直後1年間の販売期間に原告が受けた現実の損害
(得べかりし利益の減少)として392万円余りを認定。
弁護士費用40万円とあわせて432万円余りの損害が被告ら
に連帯して認められています。

なお、裁判所は、仮に被告らに不正競争行為が認められな
くても被告Bの債務不履行と被告会社の不法行為によって
同額の損害があったということができるとしています。
(11頁以下)

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7 差止請求の成否

原告は、被告商品の製造販売について差止を求めていまし
たが、営業の諸事情から一律差止の必要性は認められませ
でした。
(12頁以下)

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■コメント

原審(京都地裁平成18(ワ)2366 裁判所サイト未登載)では、
請求棄却の判断でしたが、控訴審では一転して請求が認容
(一部)されています。


不正競争防止法2条6項の営業秘密の要件としては、
 (1)秘密管理性
 (2)有用性
 (3)非公知性

が要求されますが、このうち秘密管理性については、

秘密管理性とは、当該情報について、保有者が秘密
として保持する意思を有し、客観的にも秘密として管理
されていることをいう

(小松一雄編著「不正競業訴訟の実務」(2005)332頁)

わけで、(1)客観的認識可能性と(2)アクセス制限性の観点
から総合的に判断されます(「不正競争防止法の新論点
(2006)111頁以下 末吉亙)。


よくある事例では情報の物理的外形的な管理体制の内容
(データのパスワード管理、書類棚の施錠の有無など)が
吟味されますが、本事案のように情報が書面化されていな
い、いわば「頭の中」の情報の保護の場合は、

従業員に対して秘密保持義務を課すだけでも,
義務を負っている情報がどれであるのかということ
が明確であるかぎり,秘密管理性を満足すると解さ
れる

(田村善之「不正競争法概説第2版」(2003)332頁)

ことになります。

本事案では、退職従業員が引き抜き行為や独立の動きを
したことを受けて、これを防ぐために秘密保持契約であ
る誓約書を締結した経緯があることから、退職従業員に
とっても保持義務内容が認識しうるものであったこと、
また原告会社が営業秘密に関わり合いのある従業員全員
と秘密保持誓約書を取り交わしていたことも踏まえて本
件情報の秘密管理性が肯定されています。


なお、他者に伝達できない技能等の人格と一体化した情
報や暗黙知については、営業秘密となりえないとする点
に言及するものとして、永野周志、砂田太士、播摩洋平
営業秘密と競業避止義務の法務」(2008)35頁以下
があります。


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■参考判例

従業員の記憶の中に残されている体験的顧客情報の
保護について、

コーヒーサーバー設置事業顧客情報事件(控訴審)
東京高判平成12.4.27平成11(ネ)5064競業行為差止等本訴請求・同反訴請求控訴事件PDF

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■参考文献

小野昌延編「新注解不正競争防止法新版」(下)(2007)764頁
牧野利秋監修飯村利明編集
座談会不正競争防止法をめぐる実務的課題と理論」(2005)170頁以下
小野昌延「不正競争防止法概説」(1994)199頁以下参照。

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written by ootsukahoumu at 15:10│TrackBack(0)知財判決速報2008 

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