最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

出会い系サイト営業秘密事件(第2事件)

大阪地裁平成20.6.12平成18(ワ)5172損害賠償請求事件PDF

大阪地方裁判所第21民事部
裁判長裁判官 田中俊次
裁判官      西理香
裁判官      高松宏之

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■事案

出会い系サイトの顧客情報やサイトのプログラムの
営業秘密性が争われた事案(肯定)

原告:出会い系サイト運営会社ら
被告:原告元従業員、出会い系サイト運営者ら

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■結論

請求一部認容

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■争点

条文 不正競争防止法2条1項4号、7号、5号、8号、6項

1 プログラム、顧客情報の営業秘密性
2 不正競争行為性
3 使用者責任の肯否
4 損害論

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■判決内容


<争点>

1 プログラム、顧客情報の営業秘密性

(1)プログラムの営業秘密性

出会い系携帯サイトのプログラムの営業秘密性について、

1.有用性

 他社に対してプログラムを有償ライセンス供与していた。

2.非公知性

 特に公知になっていた事実は窺われない。

3.秘密管理性

 原告社内でもプログラムにアクセス出来た者が限定。

という点から、本件プログラムの営業秘密性が肯定されています。
(16頁以下)


(2)顧客データの営業秘密性

会員制出会い系携帯サイトの顧客データの営業秘密性について、

1.有用性

 登録顧客のメールアドレスとその利用程度を知る情報である。

2.非公知性

 特に公知になっていた事実は窺われない。

3.秘密管理性

 顧客データにアクセスするためにはIDとパスワードが必要。

という点から、本件顧客データの営業秘密性が肯定されています。
(18頁以下)

なお、被告は、IDやパスワードの管理が杜撰で秘密管理性の要件
を欠くと反論していましたが、容れられていません。
(19頁以下)

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2 不正競争行為性

原告退職社員であるP1、被告Y3については、本件プログラムをダウ
ンロードするとともに本件顧客データを閲覧し被告らのサイトで使
用していることから、本件プログラムの不正取得(不正競争防止法
2条1項4号)、本件顧客データを不正に使用、開示したもの(同7号)
と認められています。

被告出会い系サイト運営者Y1の従業員Y2については、P1らの事情
を知って本件プログラムと顧客データを使用した(同5号、8号)と
認定されています。
(21頁以下)

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3 使用者責任の肯否

P1、Y3、Y2の使用者である出会い系サイト運営者Y1についても使用者
責任(民法715条)が認められています。
(27頁)

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4 損害論

プログラムライセンス料相当額、売上減少額、弁護士費用、調査費用
などが損害額として認定されています(合計355万円余)。
(27頁以下)

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■コメント

先行した本件訴外P1に対する損害賠償請求事件(平成19年9月10日一
部判決)では、P1に擬制自白が成立したことから営業秘密性を含めた
争点について実質的な検討が行われていませんでした。

営業秘密の管理の程度については、小規模企業では管理はそれなり
に緩やかであってもいい、という考え方に立つと(後掲書764頁)、
データの管理上、IDやパスワードをまがりなりにも用意していた本
件では、管理主体の規模や出会い系という事業の内容も含めて考える
と、情報データの秘密管理性は肯定されやすい事案だったかもしれま
せん。

もっとも、パスワード設定が有名無実化していたような事情があれば、
後掲判例「氣づきの会会員情報事件」のように秘密管理性が否定される
ことも考えられます。被告側もこの点を主張していますが、有名無実化
したような事情が認定されるには至っていません。

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■過去のブログ記事

2007年5月15日記事
「出会い系サイト営業秘密」事件〜不正競争防止法 損害賠償請求事件(一部判決)

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■参考文献

小野昌延編著『新・注解不正競争防止法新版下』(2007)764頁以下

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■参考判例

「氣づきの会会員情報事件」(メディカルサイエンス会員情報営業秘密事件)
東京地裁H15.5.15平成13(ワ)26301損害賠償等請求事件PDF


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■追記(08/06/16)

企業法務戦士の雑感(2008-06-15)
■[企業法務][知財]対決・東京vs大阪(営業秘密編・第2弾)