裁判所HP 知的財産裁判例集より
四国八十八ヶ所霊場会写真事件
★東京地裁平成20.4.25平成19(ワ)29381損害賠償請求事件PDF
東京地方裁判所民事第40部
裁判長裁判官 市川正巳
裁判官 大竹優子
裁判官 宮崎雅子
■事案
原告が撮影した仏像画の写真の写真集を基に
四国八十八ヶ所霊場会が御札を無断で製作、
販売したとして不正競争行為性が争われた事案
原告:写真家
被告:四国八十八ヶ所霊場会ら
■結論
請求棄却
■争点
条文 改正前不正競争防止法2条1項3号 民法709条 著作権法2条1項1号
1 不正競争行為性の肯否
2 一般不法行為性
■判決内容
<経緯>
H13.8 Dが霊場会とお砂踏本尊の製作契約(著作権譲渡)を締結
H13.9.4 原告とNHK出版が出版契約
H14.5 Dが大師御影とお砂踏本尊88点を納品(「D著作物」)
H14.5 原告がD著作物を撮影
H14.6 NHK出版から書籍2冊が出版される
H16.12 被告霊場会が87ヶ所の御影を御札として各1万部印刷
H18.6 さらに8万部増刷
<争点>
1 不正競争行為性の肯否
原告は、原告写真集の被告による複写行為等
について不正競争防止法2条1項3号の商品形態
模倣行為性(いわゆるデッドコピー)を争点と
しています。
しかし、裁判所は、
(1)
被告霊場会が製作した御札が、出版物である
別冊「四国八十八ヶ所 お砂踏本尊」の模倣
(実質的同一)をしたものとはいえない
(2)
原告は、営業上の利益を侵害される者にあた
らない
(3)
仮に写真集の画像が「他人の商品」性に該当
するとしても、忠実な再現を目指す性質から
すると画像に表現された線や色は同種の商品
が通常有する形態である
(改正前3号「通常有する形態」に該当)
(4)
仮に出版物がDの「心」と「魂」を伝えるもの
であり画像に表現された線や色が「通常有する
形態」ではないとしても、御札は再現において
粗雑であるからDの「心」と「魂」を伝えるもの
ではなく、模倣(実質的同一)の点を満たさない
(15頁以下)
という諸点から、原告の主張を退けました。
2 一般不法行為性
被告霊場会の担当者は、御影作品が縦1.4m、
横0.5m程度の大きさであり、原告の出版物の
画像(縦14.2cm、横5.5cm)から作品を複写
したほうが一から撮影するのに比し、作業が
楽であったという理由で原告の了解を得るこ
となくカメラで複写し、御札を製作しました。
この点について、裁判所は、原告の機材の準
備、労力、写真家の経験により得られた成果
への被告霊場会のただ乗りを認めつつも、
(1)
被告霊場会が御影作品の著作権、所有権を
保有していて御札を製作し販売すること自
体は何ら問題がないこと
(2)
2冊の出版物の発行は、被告霊場会の協力
があって可能となったものであること
という点から、被告霊場会の複写行為と御札
製作、販売行為の不法行為性を否定しました。
(16頁以下)
■コメント
四国八十八ヶ所霊場会というのは、四国にある
88ヶ所の弘法大師の霊場寺院の住職を正会員と
して組織された権利能力なき社団です。
原告が撮影した御影(おみえ)とは本尊などを
描いた絵画ですが、平面的な作品を忠実に撮影
した写真であったことから、その撮影された写
真には著作物性(著作権法2条1項1号)がないこ
とを原告も争っていません。
(5頁以下)
著作権をめぐる攻防ではなく、原告は不正競争
防止法も争点とはしていますが、被告霊場会が
同種の書籍を無断出版したわけではないですし、
争点としてあげるには厳しい印象です。
ともかく、御影の著作権が霊場会に帰属している
ので、写真家さんも問題をこじらせればこの写真
集以外に撮影した画像を二次使用するのは許諾が
得られず不可能となるわけで、そうしたリスクを
負ってまで提訴に踏み切ったというのは、よほど
思うところがあったのでしょう。
霊場会は、御札の販売にあたって、1から御影の
撮影をするのが面倒だったので写真家さんには黙
って写真集に掲載された御影の画像を複写したわ
けですが、ひとこと事前に写真家さんに説明があ
れば、その諾否も含め防げた紛争でした。
なお、今年は3月の八坂神社祇園祭ポスター事件
もあって、神社や霊場会まで被告にされてしまう
現状をみるにつけ、著作物の利用について馴れ合
いでは済まされなくなっているという印象を強く
します。
■原告写真集
「四国遍路 秘仏巡礼」(【別冊】「四国八十八ヶ所 お砂踏本尊」)
NHK出版 Online Shop
■追記(08.5.7)
名古屋の商標亭
5月6日記事
書籍に掲載された写真の複製
5月7日記事
書籍に掲載された写真は商品か
四国八十八ヶ所霊場会写真事件
★東京地裁平成20.4.25平成19(ワ)29381損害賠償請求事件PDF
東京地方裁判所民事第40部
裁判長裁判官 市川正巳
裁判官 大竹優子
裁判官 宮崎雅子
■事案
原告が撮影した仏像画の写真の写真集を基に
四国八十八ヶ所霊場会が御札を無断で製作、
販売したとして不正競争行為性が争われた事案
原告:写真家
被告:四国八十八ヶ所霊場会ら
■結論
請求棄却
■争点
条文 改正前不正競争防止法2条1項3号 民法709条 著作権法2条1項1号
1 不正競争行為性の肯否
2 一般不法行為性
■判決内容
<経緯>
H13.8 Dが霊場会とお砂踏本尊の製作契約(著作権譲渡)を締結
H13.9.4 原告とNHK出版が出版契約
H14.5 Dが大師御影とお砂踏本尊88点を納品(「D著作物」)
H14.5 原告がD著作物を撮影
H14.6 NHK出版から書籍2冊が出版される
H16.12 被告霊場会が87ヶ所の御影を御札として各1万部印刷
H18.6 さらに8万部増刷
<争点>
1 不正競争行為性の肯否
原告は、原告写真集の被告による複写行為等
について不正競争防止法2条1項3号の商品形態
模倣行為性(いわゆるデッドコピー)を争点と
しています。
しかし、裁判所は、
(1)
被告霊場会が製作した御札が、出版物である
別冊「四国八十八ヶ所 お砂踏本尊」の模倣
(実質的同一)をしたものとはいえない
(2)
原告は、営業上の利益を侵害される者にあた
らない
(3)
仮に写真集の画像が「他人の商品」性に該当
するとしても、忠実な再現を目指す性質から
すると画像に表現された線や色は同種の商品
が通常有する形態である
(改正前3号「通常有する形態」に該当)
(4)
仮に出版物がDの「心」と「魂」を伝えるもの
であり画像に表現された線や色が「通常有する
形態」ではないとしても、御札は再現において
粗雑であるからDの「心」と「魂」を伝えるもの
ではなく、模倣(実質的同一)の点を満たさない
(15頁以下)
という諸点から、原告の主張を退けました。
2 一般不法行為性
被告霊場会の担当者は、御影作品が縦1.4m、
横0.5m程度の大きさであり、原告の出版物の
画像(縦14.2cm、横5.5cm)から作品を複写
したほうが一から撮影するのに比し、作業が
楽であったという理由で原告の了解を得るこ
となくカメラで複写し、御札を製作しました。
この点について、裁判所は、原告の機材の準
備、労力、写真家の経験により得られた成果
への被告霊場会のただ乗りを認めつつも、
(1)
被告霊場会が御影作品の著作権、所有権を
保有していて御札を製作し販売すること自
体は何ら問題がないこと
(2)
2冊の出版物の発行は、被告霊場会の協力
があって可能となったものであること
という点から、被告霊場会の複写行為と御札
製作、販売行為の不法行為性を否定しました。
(16頁以下)
■コメント
四国八十八ヶ所霊場会というのは、四国にある
88ヶ所の弘法大師の霊場寺院の住職を正会員と
して組織された権利能力なき社団です。
原告が撮影した御影(おみえ)とは本尊などを
描いた絵画ですが、平面的な作品を忠実に撮影
した写真であったことから、その撮影された写
真には著作物性(著作権法2条1項1号)がないこ
とを原告も争っていません。
(5頁以下)
著作権をめぐる攻防ではなく、原告は不正競争
防止法も争点とはしていますが、被告霊場会が
同種の書籍を無断出版したわけではないですし、
争点としてあげるには厳しい印象です。
ともかく、御影の著作権が霊場会に帰属している
ので、写真家さんも問題をこじらせればこの写真
集以外に撮影した画像を二次使用するのは許諾が
得られず不可能となるわけで、そうしたリスクを
負ってまで提訴に踏み切ったというのは、よほど
思うところがあったのでしょう。
霊場会は、御札の販売にあたって、1から御影の
撮影をするのが面倒だったので写真家さんには黙
って写真集に掲載された御影の画像を複写したわ
けですが、ひとこと事前に写真家さんに説明があ
れば、その諾否も含め防げた紛争でした。
なお、今年は3月の八坂神社祇園祭ポスター事件
もあって、神社や霊場会まで被告にされてしまう
現状をみるにつけ、著作物の利用について馴れ合
いでは済まされなくなっているという印象を強く
します。
■原告写真集
「四国遍路 秘仏巡礼」(【別冊】「四国八十八ヶ所 お砂踏本尊」)
NHK出版 Online Shop
■追記(08.5.7)
名古屋の商標亭
5月6日記事
書籍に掲載された写真の複製
5月7日記事
書籍に掲載された写真は商品か