2008年04月14日

堤人形事件〜著作権 不正競業行為差止等請求事件判決(下級裁判所判例集)〜

裁判所HP 下級裁判所判例集より

堤人形事件

仙台地裁平成20年01月31日平成15(ワ)683不正競業行為差止等請求事件PDF

仙台地方裁判所第3民事部
裁判長裁判官 小野洋一
裁判官      伊澤文子
裁判官      小川貴紀


■事案

宮城県の伝統工芸品である堤(つつみ)人形の意匠等
をめぐって著作権、商標権侵害性、不正競争行為性が
争われた事案


原告:堤人形作家A、人形制作会社B
被告:人形製造販売業者C、原告会社元従業員D


■結論

請求一部認容


■争点

条文 著作権法第2条1項1号
   商標法25条、26条
   不正競争防止法2条1項1号、2号、4号、13号


1 人形に著作権が発生しているか
2 商標権侵害性の有無
3 不正競争行為性の有無


■判決内容

<経緯>

S30.3.31  被告Dが原告Aの父である先代Eの元に弟子入り
S54      被告Dが被告Cに絵付けの技術指導
S63.1.12  原告Aが原告会社Bを設立
H15.4.28  原告会社Bが被告Dを懲戒解雇
H15.6.9   被告Dが労働委員会に労使紛争のあっせん申立て
H18.10.18  「堤人形/つつみのおひなやっこや」被告登録商標
         無効審判確定
H19.4.10  「つつみのおひなやっこや」被告登録商標
         知財高裁審決取消事件、上告中


原告登録商標「つゝみ」
第2354191号
原告登録商標「堤」
第2365147号


<争点>

1 人形に著作権が発生しているか

牛乗天神、滝登り、鯉かつぎ、副神川越などの23点の
堤人形に原告の創作行為による著作権が発生している
かどうかが争われました。

裁判所は、堤人形が江戸時代から制作されてきた伝統
工芸品であることから原告商品に独自の著作権を認め
るためには「高度な創作性」(18頁)があることが必要で
あるとしています。

そのうえで、いずれの作品にも形状や彩色について原
告によって新たな創作性が付与されたとは認められな
いとして原告の著作権の発生を否定しています。
(17頁以下)


2 商標権侵害性の有無

被告Cは屋号や看板、広告などに「堤人形」、「つつみ
のおひなやっこや」などの標章を使用していましたが、
自他商品識別機能を果たす態様での使用ではないとし
て、被告の表示行為は原告の商標権を侵害する行為と
は認められませんでした。
(40頁以下)


3 不正競争行為性の有無

1.混同惹起行為性(2条1項1号)

被告による「宮城県伝統工芸品」、「堤」、「つつみ」、
「つゝみ」という表示の使用、また作品の形態そのもの
の商品等表示性を根拠とする商品販売行為について、
不正競争防止法の誤認混同惹起行為にあたるかどうか
が争われました。

結論的には、被告の表示行為や商品形態自体が商品出所
表示、自他商品識別機能を果たす態様での使用ではない
ことから1号に該当しないとされています。
(44頁以下)


2.著名表示冒用行為性(2条1項2号)

原告は、作品そのものの著名商品表示性を前提として
被告商品形態の2号不正競争行為性を争点としました。

しかし、この点についても被告商品の形態そのものが
出所表示性、自他商品識別機能を果たす態様で用いら
れているとはいえないとして、不正競争行為性が否定
されています。
(47頁以下)


3.営業秘密侵害行為性(2条1項4号)

5点の被告作品の石膏型について検証がおこなわれた結
果として、裁判所は、

原告ら商品の型を被告らが何らかの方法で盗用して石膏型を作成し(・・・),それに基づき制作したものであると認めることができる。被告らがどのような方法を用いてこれらの型を盗用したのかについて,これを認めるに足りる証拠はないが,不正競争防止法2条1項4号の不正取得行為によって取得した営業秘密であるということができ,被告Cはこれにより原告らの営業上の利益を侵害するおそれがある。
(50頁)

として、営業秘密の不正取得行為性を肯定しています。
(48頁以下)


4.品質等誤認惹起行為性(2条1項13号)

被告による「宮城県伝統工芸品」表示行為について、
伝統工芸品の指定は、工芸品の制作者にではなく、工
芸品そのものに対してなされるものであるとして、被
告制作の堤人形に「宮城県伝統工芸品」表示をするこ
とは品質誤認混同惹起行為にはあたらないとされてい
ます。
(51頁)


■コメント

23点のつつみ人形のうち、5点について原告商品の型
の盗用行為が認められ、その結果として、その型から
作成された石膏型での被告商品の製造販売禁止、商品
の廃棄が肯定されています。

ところで、原告商品の型(原告商品の土型である石膏型)
が果たして秘密管理性などの営業秘密の要件を充足し
ていたものなのか、不正取得行為認定の前提となる営
業秘密性について詳細な判断がされていません。

「原告商品の型」自体が秘密とされるようなものだ
ったとすると5点以外の18点の作品の型から作成され
た現に被告が量産用に所持しているであろう石膏型
はどうだったのでしょうか。


今回の事案について、知人の工芸作家さんに感想を聞
いてみました。
たいへん丁寧に解説してくれました。

下記掲載の参考サイト(*注1、注2)から問題となっ
ている作品「鯉かつぎ」「鯛の滝登り」と思われるも
のの対比です。

つつみ人形比較








 上段の3点が被告商品(A群)
 下段の2点が原告商品(B群)

 『もし、自分がA群の人形の型から
 B群の人形を作れといわれた場合
 まず、Aの型から人形Aを作り
 それを削ったり粘土を付け足したり
 などの加工を加えて人形Bを作ります。
 そして、出来上がった人形Bから、
 新たな型を取ります。
 その型を使って量産します。


この作家さんのお話を前提とすると、原告商品を入
手して3Dモデリングすることが可能で、原告の素焼
用の土型(石膏型)そのものを盗用する必要はあり
ません。

原告商品を入手した者であれば誰でも石膏型を作成
できる程度の形状のものである、あるいは商品を持っ
ていなくても技能があれば目視で型を再現できる
程度の形状のものであるとすると、原告の土型(石膏
型)はそもそも秘密性(非公知性)を持つものといえ
るのか。

とくに、今回の堤人形では著作権が認められない著
作物であるわけで、その人形の土型(石膏型)である
ことも考えあわせると、土型(石膏型)の持ち出しなど
盗取行為の具体的な違法行為の立証があって初めて
一般不法行為などが認められるにとどまるのではな
いか。

いずれにしても、検証の結果として認識された「型」
がどのようなものだったのか、乾燥による縮みや前後2枚
の土型(石膏型)の製造誤差、被告による加工がどう認
識されたのか、今後控訴審でどのような説示内容となる
か注目したいところです。


■過去のブログ記事

2005年09月09日記事
日本人形の著作権保護


■関連裁判

商標“つつみのおひなっこや”侵害事件
知財高裁平成19.4.10平成18(行ケ)10532審決取消請求事件PDF


■参考文献

木村 豊「応用美術の保護-現行著作権法制定の経緯を中心として」
      『民法と著作権法の諸問題 半田正夫教授還暦記念論集
      (1993)580頁以下
生駒正文「応用美術の著作物性に関する研究-とくに独法による若干の比較検討」
       同598頁以下
満田重昭「著作権と意匠権の累積」
       同616頁以下
  同   「デザインと美術の著作物」斉藤博、牧野利秋編
      『裁判実務大系 知的財産関係訴訟法 第27巻
      (1997)83頁以下
田村善之「著作権法概説 第二版」(2001)31頁以下
牛木理一「デザイン、キャラクター、パブリシティの保護
      (2005)103頁以下、209頁以下
内藤裕之「応用美術と美術の著作物性」牧野利秋・飯村敏明編
      『新・裁判実務大系 著作権関係訴訟法
      (2004)155頁以下
本山雅弘「応用美術の保護をめぐる著作権の限界づけと意匠権の保護対象」
      『牛木理一先生古稀記念 意匠法及び周辺法の現代的課題
      (2005)469頁以下
中山信弘「著作権法」(2007)138頁以下

・博多人形事件
牛木理一「彩色素焼人形-博多人形事件」
      『著作権判例百選第二版』(1994)22頁以下
松尾和子「彩色素焼人形-博多人形事件」
      『著作権判例百選第三版』(2001)24頁以下

・ファービー事件
岡 邦俊「育成型ぬいぐるみ人形の複製と著作権違反罪の成否」
      『著作権の事件簿』(2007)144頁以下

小松一雄編「不正競業訴訟の実務」(2005)345頁以下
小野昌延編「新注解不正競争防止法新版」(上)(2007)498頁以下、
        同(下)781頁


■参考サイト

つゝみ人形製造所(*注1)
つゝみ人形製造所

堤人形/つつみのおひなっこや(*注2)
土人形の逸品を創業80年の老舗つつみのおひなっこやがお届けします。

写真 思い出 日記(2007-03-24記事)
仙台 つつみ人形 -仙台のつつみ人形工房を訪ねて

博多陶遊窯
陶器人形の作り方です。

京陶人形
(株)京都人形 工房拝見!


■参考判例

人工歯石膏原型営業秘密事件
京都地裁平成13.11.1平成11(ワ)903
別紙PDF
hayabusa9999 at 07:56 │TrackBack(0)知財判決速報2008 

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