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2008年03月16日

「八坂神社祇園祭ポスター」事件〜著作権 損害賠償請求事件判決(知的財産裁判例集)〜

裁判所HP 知的財産裁判例集より

「八坂神社祇園祭ポスター」事件

東京地裁平成20.3.13平成19(ワ)1126損害賠償請求事件PDF

東京地方裁判所民事第46部
裁判長裁判官 設楽隆一
裁判官     中島基至
裁判官     古庄研


■事案

原告が撮影した祇園祭の写真を被告が翻案して水彩画を
制作するなどしたとして風景写真の著作権侵害性が争われた事案

原告:アマチュア写真家
被告:八坂神社、印刷会社、雑誌出版社ら


■結論

請求一部認容


■争点

条文 著作権法第2条1項1号、27条、21条、19条、20条

1 原告は被告印刷会社代表取締役に使用許諾をしたか
2 水彩画の制作は写真の翻案権を侵害するか
3 写真ポスターの制作は写真の複製権を侵害するか
4 原告は八坂神社に使用許諾をしたか
5 写真ポスターの制作は原告の氏名表示権を侵害するか
6 八坂神社の過失の有無
7 雑誌出版社の責任
8 損害論


■判決内容

<経緯>

H09      原告が八坂神社から撮影許可書を受ける
H14.07.02  原告が八坂神社から再撮影許可書を受ける
H14.07.17  原告が本件写真を撮影
H15.06.15  原告が写真集を被告印刷会社で製版印刷
         原告は八坂神社に100部寄贈
H15.07.01  被告印刷会社が本件写真ポスターを制作し
         八坂神社が使用
H15.07.01  被告印刷会社代表取締役がポジを貸与し
         被告出版社発行雑誌に本件写真を掲載
H15.07.17  被告印刷会社代表取締役が京都新聞へ
         本件写真を広告掲載
H16.05.28  原告は被告出版社に対して解決金200万円を要求
H16.07.01  被告印刷会社が本件写真ポスターを制作し
         八坂神社が使用
H16.07.17  被告印刷会社代表取締役が京都新聞へ本件写真を
         広告掲載
H16.07.31  原告は八坂神社宮司に抗議
H17.06    被告印刷会社社員が本件水彩画を制作
H17.07.01  被告印刷会社が本件水彩画ポスターを制作し
         八坂神社が使用
H17.07.17  被告印刷会社代表取締役が京都新聞へ本件水彩画を
         広告掲載

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<争点>

1 原告は被告印刷会社代表取締役に使用許諾をしたか

雑誌への掲載について、雑誌出版社を含め原告と被告ら
との間でやりとりがありましたが、原告への被告印刷会社
代表取締役からの詫び状の内容などから原告は本件
写真の雑誌掲載について許諾をしていないと認定
されています。
(24頁以下)

本件水彩画の制作や写真ポスターでの本件写真の使用に
ついても原告の使用許諾の存在が認められていません。
(33頁)

   ----------------------------------------

2 水彩画の制作は写真の翻案権を侵害するか

1.本件写真の著作物性について

江差追分事件(最高裁平成13年6月28日判決)で定立された
規範を前提に本件写真の被写体が祇園祭の風景写真という
ことから創作性のある部分について詳細に検討を加えて
います。
(29頁以下)

本件写真の表現上の創作性がある部分とは,構図,シャッターチャンス,撮影ポジション・アングルの選択,撮影時刻,露光時間,レンズ及びフィルムの選択等において工夫したことにより表現された映像をいうと解すべきである
(30頁以下)

そのうえで本件写真の具体的な創作的表現について、
商店街アーケード上という撮影ポジション、神輿入れ込み
の構図、6×9判機材での絞りF11、シャッター1/15、
フィルム感度400の選択、広角レンズ使用などによる工夫
によって本件写真には神輿の差し上げ直前の厳粛な雰囲気
の感得性が認められるとして本件写真の著作物性を肯定
しています。


2.本件写真と本件水彩画との対比

平成17年度の祇園祭用のポスターには原告の撮影した写真
ではなく、それを水彩画に起こしたものが使用されて
いました。

この点について、裁判所は、本件写真に依拠して本件水彩画
が作成されたことを前提として、本件写真の表現上の本質的
な特徴を本件水彩画から直接感得することができるかどうか
(翻案したものかどうか)に関し、

本件水彩画においては写真とは表現形式は異なるものの,本件写真の全体の構図とその構成において同一であり,また,本件写真において鮮明に写し出された部分,すなわち,祭りの象徴である神官及びこれを中心として正面左右に配置された4基の神輿が濃い画線と鮮明な色彩で強調して描き出されているのであって,これによれば,祇園祭における神官の差し上げの直前の厳粛な雰囲気を感得させるのに十分であり,この意味で,本件水彩画の創作的表現から本件写真の表現上の本質的特徴を直接感得することができるというべきである。
(32頁)

として、本件水彩画が本件写真を翻案したものである
ことを認めています。

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3 写真ポスターの制作は写真の複製権を侵害するか

平成15年度と16年度の祇園祭用のポスターについて、
被告印刷会社や同社代表取締役に対する原告の本件
写真の使用許諾の事実が認められないとして、
結論として複製権侵害性が肯定されています。
(33頁以下)

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4 原告は八坂神社に使用許諾をしたか

被告印刷会社は八坂神社の依頼により写真ポスターを
制作したことから、念のため、原告が八坂神社に本件
写真の使用許諾をしていたかどうかについても
言及されています。

原告は、祇園祭の撮影に際して、八坂神社から撮影許可書
を受けています。
平成9年当初の許可書(5年間期限付)の内容には八坂神社側
が撮影写真を必要とした際には、無償でこれを提供するという、
「無償提供条項」がありました。

しかし、本殿内部などの撮影範囲が大幅に制限された内容と
なった平成14年の再許可書では「無償提供条項」が削除され
ていたことからその解釈が争われましたが、無償提供につい
ての黙示の合意もないとして八坂神社への原告の無償使用
許諾があったとは認められていません。
(34頁以下)

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5 写真ポスターの制作は原告の氏名表示権を侵害するか

制作された写真ポスターに原告の氏名が表示されて
いなかったことから、氏名表示権侵害性が肯定されて
います。
(39頁以下)

結論的には、新聞やポスターへの写真掲載にあたって
原告の氏名が表示されていなかった点(氏名表示権侵害)や、
本件水彩画のポスターへの掲載にあたっての同一性保持権
侵害性が認められています。
(43頁以下)

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6 八坂神社の過失の有無

祇園祭ポスターの制作を発注した発注元である八坂神社の
写真や水彩画の無許諾使用に関する過失の有無について、
裁判所は、

被告八坂神社は,重要文化財,著作物その他文化的所産を取り扱う立場にある者であって,もとより著作権に関する知識を有するものであるから,著作物を使用するに際しては,当該著作物を制作した者などから著作権の使用許諾の有無を確認するなどして,著作権を侵害しないようにすべき注意義務があるというべきである。

本件写真を選択し,本件写真ポスターとすることを最終的に了解したのは,被告八坂神社であったと解するのが相当であるから,被告八坂神社は,その最終判断に当たり,被告サンケイデザインに対して,本件写真の著作者名や当該著作者名を表示しないことに対する承諾の有無を具体的に確認し,その状況次第では,更に著作者に当該承諾の有無を直接確認するなどして,著作者人格権を侵害しないようにすべき注意義務があったというべきである。

しかしながら,被告八坂神社は,このような確認行為をすべき注意義務を怠り,本件写真ポスターの制作を依頼した被告サンケイデザインが本件写真の著作者名を表示せずに本件写真ポスターに本件写真を掲載するのを漫然と容認したものであって,被告八坂神社には,この点において過失があるというべきである。
(42頁以下)

八坂神社が撮影許可にあたって著作権に留意するよう
撮影者に求めていることなども勘案されて、八坂神社に
著作者に対する直接確認などの注意義務があったと
判断され、過失も認定されています。

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7 雑誌出版社の責任

被告印刷会社代表取締役が保持していた本件写真の
ポジを被告雑誌出版社は借り受けたうえで雑誌に掲載
していましたが、雑誌出版社は本件写真の著作権者
である原告に対して確認行為をすべき注意義務を
怠ったとして複製権侵害についての過失が肯定されて
います。
(45頁以下)
 
   ----------------------------------------

8 損害論

著作権侵害に関する被告らの共同不法行為性(民法719条)
の争点については、ここでは省略しますが、
損害論について原告がアマチュア写真家であることを
踏まえて著作権使用料等を勘案のうえ、

写真掲載行為
・新聞、雑誌について各5万円、慰謝料3万円
・ポスターについて各10万円、慰謝料5万円

水彩画掲載行為
・新聞について5万円、慰謝料6万円
・ポスターについて10万円、慰謝料10万円

弁護士費用として、合計9万円

トータルで91万円余の損害額の認定となっています。
(47頁以下)

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■コメント

1.発注元や出版社の責任を肯定

写真の無断使用についてポスター制作を請け負った印刷
会社だけでなく、ポスター発注元(八坂神社)の責任として、
発注元が直接著作権者へ著作物の使用確認をする必要が
認められてしまっていて、発注元には厳しい判断です。

また、雑誌掲載についても持ち込まれたポジについて
雑誌出版社が著作権者へ確認行為を怠ったとして
雑誌出版社の注意義務違反が認められています。

東京アウトサイダーズ事件(知財高裁平成19年05月31日
平成19(ネ)10003等出版差止等請求控訴事件、同附帯控訴事件)
でも出版社に注意義務について厳しい判断が下されていますし、
広告代理店があいだに入るような場合も含めてクライアント先
に迷惑を掛けないようにいっそうの権利処理への慎重さが
求められそうです。

2.風景写真の著作物性

今回の写真は商店街のアーケードの屋根上に登って撮影
されていて、ほかの写真にはないアングルであったのかも
しれません。
3年連続で祇園祭のポスターや新聞広告に使われたことからも
それなりに目を引く写真だったと思われます。


ところで、風景写真を撮影する際、撮影ポジションや
アングル、機材が同じような状況であれば、似通った写真が
簡単にできあがります。
しかしそうしたなかでも文字通り「以て非なる」ものが
出来上がるから写真はフシギです。

話は逸れますが、20年近く前になるでしょうか、
わたしは前田真三さんの写真が好きで写真集「上高地」の
1カットを真似てハッセルにコダクロームを詰めて
上高地で同じような被写体に同じような構図、同じような機材で
撮影をしてはみたものの、できあがってきたポジをみたとき
これがプロとアマの違いか!」と愕然としたことを
今でも鮮明に覚えています。

いまから思えばまさに若気の至りですが、最近でもブツ撮りの
撮影現場に立ち会った際も、プロの仕事はアマとはまったく
次元が違っていて、
誰にでも撮れそうだが、だれにもそうそうは撮れない
という写真の奥深さを改めて感じたところです。

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■過去のブログ記事

・スナップ写真の著作物性および出版社の注意義務について

2007年06月07日記事
「東京アウトサイダーズ」事件(控訴審)

2007年01月15日記事
「東京アウトサイダーズ」事件(原審)

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■参考判例

・ブツ撮り写真の創作性について

「みずみずしい西瓜事件」
東京高裁平成13年06月21日平成12(ネ)750著作権侵害差止等請求控訴事件PDF

・アマチュア写真の著作物性について

「石垣調査写真事件」
仙台高裁平成09年01月30日平成7(ネ)207PDF

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■参考文献

設楽隆一「複製ないし翻案について」
     『著作権研究』30号(2004)2頁以下

日本写真家協会監修、日本写真家ユニオン編
     「写真著作権2005改訂版」(2005)97頁以下

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■追記(08.03.24)

企業法務戦士の雑感(2008-03-24)
■[企業法務][知財]一枚の写真が招いた「悲劇」

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■追記(08.11.18)

企業法務戦士の雑感(2008-11-17)
■[企業法務][知財]我が意を得たり。

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■追記(08.11.20)

参考文献
森脇肇「著作権侵害を回避するために広告宣伝物の制作委託者が負うべき注意義務  東京地裁 平成20年3月13日判決 平成19年(ワ)第1126号損害賠償請求事件」
知財管理』58巻11号(No.695 2008)1503頁以下


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■追記(2011.9.30)

判例時報2033号102頁以下(一審で確定)


written by ootsukahoumu at 16:27│TrackBack(1)知財判決速報2008 

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