裁判所HP 知的財産裁判例集より

「『モダンタイムス』格安DVD」事件(控訴審)

知財高裁平成20.2.28平成19(ネ)10073著作権侵害差止等請求控訴事件PDF

知的財産高等裁判所第1部
裁判長裁判官 宍戸充
裁判官     柴田義明
裁判官     澁谷勝海


★原審
東京地裁平成19.8.29平成18(ワ)15552著作権侵害差止等請求事件PDF


■事案

チャップリン『モダンタイムス』『独裁者』などの映画作品の
保護期間をめぐり映画の著作者がチャップリンなのか映画会社
であるのかが争われた事案の控訴審

原告(被控訴人):チャップリン映画管理会社
被告(控訴人) :映像ソフト企画製造販売会社ら


■結論

控訴棄却


■争点

条文 著作権法第2条1項2号、21条、26条

1 著作権存続期間満了の有無
(1)旧法3条〜6条の適用
(2)旧3条「著作者」の意義
(3)旧6条の意義
(4)本件9作品の著作者
(5)旧3条の「公表」
(6)旧法下での映画の著作者の解釈論
(7)「シェーン」事件判決との関係
(8)チャップリン作品の特殊性
(9)保護期間
2 損害論


■判決内容


<争点>

1 著作権存続期間満了の有無


(1)旧法3条〜6条の適用

チャップリンの9つの作品は、いずれも昭和45年改正法(昭和45年
法律第48号)施行前に公表された著作物でしたので、旧法の適用
関係が検討されています。
(12頁以下)

本件9作品はいずれも独創的な作品で、「独創性ヲ有スルモノ」
(旧22条ノ3 映画の著作権)に該当し、保護期間は旧法3条
(生前公表著作物)ないし6条(団体著作物)の適用を受ける。


(2)旧3条「著作者」の意義

旧3条の「著作者」の意義について、
旧法3条の上記規定によれば,著作者の生死により保護期間を定めているから,旧法3条にいう「著作者」は,自然人を意味することが明らかである。
(18頁以下)

として、自然人を意味するものとしています。
旧3条は、自然人である著作者が実名で公表される場合の
保護期間を規定したものと解釈されました。


(3)旧6条の意義

旧3条(生前公表著作物)、旧5条(無名・変名著作物)の意義から、
旧6条(団体著作物)は、団体の著作名義での著作物の公表の場合の
保護期間を規定したものと解するのが相当であるとしています。
(19頁以下)

この点、法人著作の可能性についても言及、知財高裁は
旧6条は『法人著作を認めた規定とはいいがたい。』と
判断しています。


(4)本件9作品の著作者

旧3条の「著作者」が現行法16条の著作者と同様に
捉えられることを前提に、チャップリンが映画著作物の
全体的形成に創作的に寄与した者であるとして
旧3条の「著作者」にあたると判断しています。
(20頁)


(5)旧3条の「公表」

本件9作品のうち6作品は、米国著作権局の登録でチャップリン
が著作者とされ、また、公表画像においても創作者としての
表示があったとして、旧3条の実名による著作者の公表があった
とされました。

その他3作品についても、米国著作権局での登録が法人名義の
著作者登録となっているので旧6条の適否が一応問題とされま
したが、旧6条は、3条や5条の場合に当たらない場面でのもの
なので、公表された画像にチャップリンの創作者としての表示
がある以上、旧3条の実名による著作者の公表があったと判断
されています。
(20頁以下)


(6)旧法下での映画の著作者の解釈論

旧法下での映画の著作者をめぐる論点について、
映画は映画製作者の単独著作物であるとの解釈論に立てば
団体の著作物である旧6条の適用の余地があるとDVD業者は
主張しました。

しかし、裁判所は旧法では「団体」の著作物に関する規定を
置いていないことから、原則に戻って、自然人が映画著作物
の著作者となるものと解すべきであると判断しています。

結論として、DVD業者の主張を容れていません。
(21頁以下)


(7)「シェーン」事件判決との関係

映画「シェーン」事件判決(東京地裁平成18年10月6日)では
旧6条の適用を前提としたうえで著作権法54条1項の適否が
争われていましたが、本件チャップリン事件とは事案が異にする
として、同列に論ずることはできないとされています。
(24頁)


(8)チャップリン作品の特殊性

なお、原審ではチャップリンが少なくとも本件映画の著作者の
1人であるとされた点について、控訴審では逆に

著作物の本質である思想・感情の表現という側面からみると,本件9作品は,正にチャップリンによる映画というほかなく,この側面においてチャップリン以外に映画著作物の全体的形成に創作的に寄与した者がいるとの証拠を見いだすことができない。したがって,チャップリンが,単に本件9作品の著作者の1人にすぎないとはいえない。
(25頁以下)

として、チャップリン映画の特徴を印象付けています。


(9)保護期間

チャップリンは1977年(昭和52年)に死亡していることから
1978年から起算して38年間の2015年12月31日までが旧法での
保護期間とされました。

そのうえで、昭和45年改正法、平成15年改正法54条、同法附則
規定などから7作品は2015年まで、「殺人狂時代」は2017年まで、
「ライムライト」は2022年まで保護期間が続くと判断されて
います。
(26頁以下)

結論として、本件9作品はなお保護期間が存続していることが
明かにされています。


2 損害論

原審の判断を維持しています。
(29頁以下)

DVD販売業者側の注意義務違反性については、

控訴人らは,旧法及び昭和45年改正法を独自に解釈し,しかも,被控訴人の警告書における説明に対して,専門家の意見を聞くなどといった格別の調査をした形跡もないのであるから,控訴人らには少なくとも注意義務違反の過失があるものと認められる。

として著作権の存続期間に関する調査義務を怠ったと
判断しています。


■コメント

古い映画の保護期間については、映画の公表名義が
自然人か法人かで旧法3条の適用(監督などの自然人)か
旧法6条の適用(映画会社などの法人)かを判断したうえで、
旧法6条の適用場面であれば、現行法54条1項の適用があるか
という最高裁判例(シェーン事件)の議論に流れていく
というのが、ざっくりしたところです。

チャップリン映画については控訴審では原審の判断が
維持されていて、残るは黒澤明監督作品の事案
(「羅生門」など)の控訴審の判断を待つばかりです。


■過去のブログ記事

2007年09月01日記事
「『モダンタイムス』格安DVD」事件〜著作権 著作権侵害差止等請求事件判決(知的財産裁判例集)〜(原審)

2007年09月21日記事
「黒澤明監督作品格安DVD」事件(対角川事件)〜著作権 著作権侵害差止請求事件判決(知的財産裁判例集)〜

2008年01月29日記事
「黒澤明監督作品格安DVD」事件(対松竹事件)〜著作権 著作権侵害差止請求事件判決(知的財産裁判例集)〜

2006年07月12日記事
「ローマの休日」保護期間事件〜著作権 仮処分命令申立事件決定(知的財産裁判例集)〜

2006年10月07日記事
『シェーン』著作権保護期間満了事件〜著作権侵害差止等請求事件判決(知的財産裁判例集)〜


■参考ブログ

企業法務戦士の雑感(2008-02-29)
■[企業法務][知財]判例は固まりつつあるが・・・。


■参考文献

岡邦俊「自然人を著作者とする映画の保護期間延長 『羅生門』DVD事件」
    『最新判例62を読む 著作権の事件簿』(2007)223頁以下

斉藤博「著作物の保護期間に関する考察」
    『Law & Technology』(2007.4)35号4頁以下

駒田泰土「旧著作権法施行時に製作、公表された映画について、その著作権の存続期間が満了していないとされた事例(東京地方裁判所平成19年9月14日判決)」PDF
速報判例解説 LEX/DBインターネット TKC法律情報データベース
2008/2/12掲載

吉田正夫、狩野雅澄「旧著作権法下の映画著作物の著作者の意義と保護期間--チャップリン映画DVD無断複製頒布事件及び黒澤映画DVD無断頒布事件-東京地裁平成19.8.29判決、東京地裁平成19.9.14判決-」
         『コピライト』(2008.2)562号49頁以下

■追記(08.03.20)

企業法務戦士の雑感(2008-03-19)
■[企業法務][知財]格安DVD事業者に勝ち目はないのか?