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2008年02月05日

「土地宝典」事件〜著作権 損害賠償請求事件判決(知的財産裁判例集)〜

裁判所HP 知的財産裁判例集より

「土地宝典」事件

東京地裁平成20.1.31平成17(ワ)16218損害賠償請求事件PDF

東京地方裁判所民事第46部
裁判長裁判官 設楽隆一
裁判官     関根澄子
裁判官     古庄研

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■事案

法務局備付けの土地宝典(地図)の著作物性や無断複製行為性が
争われた事案


原告:不動産鑑定事務所ら
被告:国

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■結論

請求一部認容

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■争点

条文 著作権法第2条1項1号、21条

1 土地宝典の著作物性
2 作成者から原告への著作権の譲渡の成否
3 国による著作権侵害行為性(間接侵害論)
4 作成者の黙示の包括的許諾の有無
5 著作権法38条4項と法務局窓口での貸出
6 原著作者(国)の許諾と違法性阻却
7 信義則違反の有無
8 消滅時効の成否
9 不当利得の成否
10 損害論

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■判決内容

<経緯>

明治6年〜    公図(改租図、地押調査図など)の作成
          株式会社帝国地図が本件土地宝典を作成
昭和57年〜   民事法務協会が法務局内でコピーサービス開始
平成12〜13年  株式会社帝国地図と原告らが著作権譲渡契約
平成16年9月   原告が被告に内容証明書を発送
平成17年2月   調停申立



*土地宝典とは、

個人又は出版社が法務局等に備え付けの旧土地台帳附属地図(以下「公図」という。)に旧土地台帳の地目・地積等の情報を追加し,編集したもので,索引図としての全図と対象地域を数枚に納めた切図とで構成され,関東を始め中部,関西,九州,東北地方の一部などで,原則として市町村ごとに1冊が発行されている。土地宝典の発行は,明治初期から開始され,現在も刊行が続いている。その発行者も多数名にのぼり,明治初期から現在までに確認された発行者として帝国地図を含む41名が指摘された文献もある。土地宝典に使用される原図は,〔声A梓以降実施された壬申地券交付,地租改正,地押調査,地籍編成の諸事業で調整された地籍図類,⊂赦贈横暁の国土調査法の施行に伴う地籍調査事業による地籍図,市区改正,区画整理,耕地整理事業などにより新調された公図の3種類に大別されるものの,変更後の訂正が速やかにされる法務局の公図が優先して使用される。

というものです。(3頁)

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<争点>


1 土地宝典の著作物性

地図の著作物性に関する一般論に言及のうえ、結論として

本件土地宝典は,民間の不動産取引の物件調査に資するという目的に従って,地域の特徴に応じて複数の公図を選択して接合し,広範囲の地図として一覧性を高め,接合の際に,公図上の誤情報について必要な補正を行って工夫を凝らし,また,記載すべき公図情報の取捨選択が行われ,現況に合わせて,公図上は単に分筆された土地として表示されている複数の土地をそれぞれ道路,水路,線路等としてわかりやすく表示し,さらに,各公共施設の所在情報や,各土地の不動産登記簿情報である地積や地目情報を追加表示をし,さらにまた,これらの情報の表現方法にも工夫が施されていると認められるから,その著作物性を肯定することができる。

として、本件土地宝典の著作物性を肯定しています。
(35頁以下)

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2 作成者から原告への著作権の譲渡の成否

本件土地宝典の作成者である株式会社帝国地図からの譲渡契約の
成否が争点となりましたが、原告らとの譲渡契約書、譲渡証書の
存在から譲渡契約の成立が認められ、本件土地宝典の著作権の
移転が肯定されています。
(41頁以下)

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3 国による著作権侵害行為性(間接侵害論)

法務局に備付けの本件土地宝典の利用に関して、

被告(各法務局)は,本件土地宝典の貸出を受けた者がこれを複写しているという事情を十分に把握していたのであるから,この複製行為を禁止する措置をとるべき注意義務があったのに禁止措置をとらず,漫然と本件土地宝典の貸出行為及び不特定多数の一般人による複製行為を継続させたことにおいて,本件土地宝典の無断複製行為を惹起させ,継続せしめた責任があるといわざるを得ない。

として、被告の責任を肯定。

不特定多数の一般人による複製行為に関して(財)民事法務協会と
被告の共同正犯的関係性を肯定し、被告の共同侵害主体性を認めて
います。
(42頁以下)

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4 作成者の黙示の包括的許諾の有無

被告は、作成者である株式会社帝国地図から被告に対して複写
に関する黙示の包括的許諾があったと主張しましたが、裁判所に
容れられていません。
(46頁)

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5 著作権法38条4項と法務局窓口での貸出

被告は、著作権法38条4項の趣旨が法務局窓口での貸出行為にも
及ぶと主張しましたが、この点も容れられていません。
(46頁以下)

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6 原著作者(国)の許諾と違法性阻却

本件土地宝典は公図の二次的著作物との位置づけから、公図の
作成者である被告が原著作者となり、複製行為に対する原著作
者の許諾があることから複製行為の違法性が阻却されると主張
しましたが、容れられていません。
(47頁)

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7 信義則違反の有無

原告が本件土地宝典の著作権とともに、損害賠償請求権の譲渡
を作成者から受けている点を捉えて被告は権利行使の信義則
違反、権利濫用を主張しましたが、容れられていません。
(48頁)

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8 消滅時効の成否

原告らは遅くとも平成13年10月31日までに無断複製の事実、
損害などを知っていたものとして、本訴提起日の3年前である
平成14年8月7日までに発生した損害賠償請求権については、
消滅時効にかかると判断しています。
(48頁以下)

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9 不当利得の成否

消滅時効成立期間内の侵害行為による損失について、本件
土地宝典の使用料相当額の不当利得性を肯定しています。
(50頁)

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10 損害論

著作権法114条の5などからざっくりと、
使用料1冊につき1年で1万円として

120冊×4年=480万円

弁護士費用96万円

合計 576万円

と判断しています。
(50頁以下)

なお、原告の請求額は2億4千万円余でした。

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■コメント

国側が敗訴する結果となりました。

作成者から原告は本件土地宝典の著作権を730万円で譲受け、
国には当初7億円余りの損害額を主張したようですので(18頁)、
原告の目の付け所としてはなかなかだったかもしれません。

ただ、控訴審で作成者による黙示の包括的な許諾があったと
原審とは反対の判断が出ないとも限りませんので、
まだなんとも言えない印象です。

設楽コートの判決内容を前提とする限り、今後は土地宝典の
コピー利用については各地の実情を踏まえた上で国あるいは
(財)民事法務協会はコピー利用を中止するかあるいは
権利処理をしていかなくてはならないことになります。

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■参考資料

以下の神奈川県立公文書館作成のPDFを見ると、土地宝典の
ことがよくわかります。

神奈川県立公文書館平成17年度ミニ展示「土地を読むー土地宝典の世界ー」PDF
ミニ展示紹介パンフレット 第5号PDF

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■追記(08.02.12・13)

ピリ辛著作権相談室
Q20:図書館内で自由にセルフコピーをさせているのですが…

企業法務戦士の雑感
■[企業法務][知財]著作権間接侵害理論の新展開?

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■追記(08.10.01)

控訴審判決について
土地宝典事件(控訴審)〜著作権 損害賠償請求控訴事件判決(知的財産裁判例集)〜
written by ootsukahoumu at 21:24│TrackBack(0)知財判決速報2008 

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