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2008年01月29日

「黒澤明監督作品格安DVD」事件(対松竹事件)〜著作権 著作権侵害差止請求事件判決(知的財産裁判例集)〜

裁判所HP 知的財産裁判例集より

「黒澤明監督作品格安DVD」事件(対松竹事件)

東京地裁平成20.1.28平成19(ワ)16775著作権侵害差止請求事件PDF

東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官 清水節
裁判官     山田真紀
裁判官     間明宏充


■事案

黒澤明監督「醜聞(スキャンダル)」、「白痴」映画作品の保護期間を
めぐり映画の著作者が黒澤監督なのか映画会社であるのかが争われた事案

原告:映画会社
被告:格安DVD製造販売会社


■結論

請求一部認容


■争点

条文 著作権法16条、26条、旧著作権法6条

1 映画の著作者は誰か
2 原告は映画の頒布権を有するか
3 映画の著作権の存続期間
4 差止めの可否


■判決内容

<経緯>

S25年  「醜聞(スキャンダル)」公開
S26年  「白痴」公開
H10年  黒澤監督死去
H19年  被告がDVD商品を製造輸入販売


<争点>

1 映画の著作者は誰か

裁判所は、両作品とも現行著作権法施行前に創作された著作物であり
旧著作権法が適用されるが、旧著作権法では映画の著作物の著作者に
ついて規定する現行著作権法16条のような規定がないものの、著作者
の認定にあたっては、

現行著作権法16条と同様に,制作,監督,演出,撮影,美術等を担当してその映画の著作物の全体的形成に創作的に寄与した者が著作者であるというべきである。
と判断。

そのうえで、

本件両作品において,黒澤は,監督を務めており,本件両作品の全体的形成に創作的に寄与している者と推認され,それを覆すに足りる証拠はない。
として、結論的には黒澤監督が本件両作品の著作者の一人であると認定
しています。
(12頁以下)


2 原告は映画の頒布権を有するか

原告映画会社が、黒澤監督から著作権の譲渡を受けていたことを認定
したうえで、

原告が,黒澤から本件両作品の著作権を承継したとしても,頒布権については,現行著作権法において初めて権利として認められた(26条)ものであるから,現行著作権法施行前に著作権の譲渡が行われた場合に,当該著作物の頒布権についてどのように考えるべきかが問題
とされ争点となりました。

この点について、裁判所は、

現行著作権法附則9条は,「この法律の施行前にした旧法の著作権の譲渡その他の処分は,附則第15条第1項の規定に該当する場合を除き,これに相当する新法の著作権の譲渡その他の処分とみなす。」と規定しているが,その趣旨は,旧著作権法に基づく著作権と,現行著作権法に基づく著作権とでは,その種類及び内容に差異が存在することから,法により内容が規定されるという著作権の性質上,権利内容が拡大した部分についても処分の対象となっていたものとして扱うものとすることと解される。

そうすると,旧著作権法下において著作権を全部譲渡した場合には,特段の事情のない限り,現行著作権法により権利内容が拡大された著作権の全部を譲渡したとみなされるというべきである。

としたうえで、結論的には原告は黒澤監督から本件両作品の著作権
(支分権)の全部を承継したと認めるのが相当であると判断しています。
(13頁以下)


3 映画の著作権の存続期間

旧著作権法6条の定める「団体著作物」の意義について、

旧著作権法6条が定める団体著作物とは,当該著作物の発行又は興行が団体名義でされたため,当該名義のみからは著作者の死亡時期を観念ないし判別することができないものをいうと解するのが相当である。

としたうえで、本件両作品のクレジットには、「松竹映画」と団体である
原告名義の表示のほかに、「監督黒澤明」と表示がされていたことから
本件両作品は、著作者の死亡時期を観念ないし判別することができない
著作物であるとはいえないと判断。

本件両作品が監督の生前に公開されたものであることから、これら作品の
著作権の存続期間は旧著作権法3条、52条1項等により規律されるとして、
結論的には生存期間+死後38年間(2036年12月31日まで)と判断しています。
(15頁以下)


4 差止めの可否

差止めと廃棄については、裁判所は被告商品の輸入、頒布の差止め及び
商品の在庫品とその録画用原版の廃棄の限度で認めています。
(19頁以下)


■コメント

格安DVD業者は、対角川映画、対東宝(いずれも東京地裁民事40部
市川コート)、チャップリン映画事件(同民事29部清水コート)に
引き続き、今回4件目の松竹(民事29部清水コート)との関係でも
敗訴となりました。

映画のクレジットには「松竹映画」と「監督黒澤明」のいずれもが
表示されていたわけですが、旧著作権法の規定の解釈として
映画会社による団体名義としての公表として規律されず、映画監督の
自然人としての実名公表による映画の著作物として考えられた結果、
著作権の存続期間は監督の死亡時を基準として判断されることになり
ます。

昭和28年に団体の著作名義をもって公表された独創性を有する映画の
著作物については、最高裁判所(最高裁判所第三小法廷平成19年12月
18日平成19(受)1105著作権侵害差止等請求事件)が映画「シェーン」を
平成15年12月31日までの著作権保護期間としたのと単純に比較すると、
旧著作権法の適用下で公表された映画については、公表名義の認定の違い
(著作者がチャップリンや黒澤明のような映画監督か、パラマウントの
ような映画会社か)によって結果としては映画の著作権の保護の度合いが
大きく異なり得るものとなることになります。

いずれにしても、今後同種の事案については、最高裁判例の射程を
考えると、クレジットに監督名があれば映画会社は旧著作権法6条
(保護期間-団体著作物)の適用を回避して3条(保護期間-生前公表著作物)
での処理を求めるべく、
著作者(の少なくとも一人)は当然、監督でございます
といって格安DVDの販売を封じ込めることとなりますでしょうか。


■過去のブログ記事

2007年09月21日記事
「黒澤明監督作品格安DVD」事件(対角川事件)

2007年09月01日記事
「『モダンタイムス』格安DVD」事件

2007年12月18日記事
「『シェーン』著作権保護期間満了」事件(上告審)


■追記(08.02.12)

企業法務戦士の雑感
■[企業法務][知財]黒澤映画(の著作権)は永遠に不滅です!


■追記(08.02.15)

(参考)
LEX/DBインターネット TKC法律情報データベース
速報判例解説 知的財産法 No.5
駒田泰土「旧著作権法施行時に製作、公表された映画について、その著作権の存続期間が満了していないとされた事例(東京地方裁判所平成19年9月14日判決) 」
PDF

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■追記(08.03.08)

2008年03月08日記事
「『モダンタイムス』格安DVD」事件(控訴審)〜著作権 著作権侵害差止等請求控訴事件判決(知的財産裁判例集)〜

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■追記(09.2.18)

知財高裁平成21.1.29平成20(ネ)10025等著作権侵害差止請求,附帯控訴PDF

written by ootsukahoumu at 21:56│TrackBack(0)知財判決速報2008 

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