裁判所HP 知的財産裁判例集より

「ヒュンメルスニーカー」事件

大阪地裁平成20.1.24平成18(ワ)11437不正競争行為差止等請求事件PDF

大阪地方裁判所第26民事部
裁判長裁判官 山田知司
裁判官     高松宏之
裁判官     村上誠子

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■事案

デンマークのサッカーチームスポーツブランド「ヒュンメル」の
スニーカーの図柄模様の周知性が争われた事案


原告:ヒュンメル社日本総代理店(スポーツ用具メーカー)
被告:フットウェア輸入・企画、卸商社

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■結論

請求棄却

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■争点

条文 不正競争防止法2条1項1号

1 周知商品等表示性

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■判決内容

<争点>

1 周知商品等表示性

原告は、ヒュンメル社とライセンス契約によりヒュンメル社製品の
日本における独占的製造販売権を取得していました。

原告は、ヒュンメル社のブランド図柄模様である「くの字の2本線
が付された原告商品の短靴について、この図柄がヒュンメル社の
周知な商品等表示であること、被告商品の図柄模様が原告商品の
図柄模様と類似することなどを理由に被告商品の輸入・販売の差止、
廃棄、損害賠償などを請求しました。


結論的には、商品等周知性が否定されています。
(24頁以下)

裁判所は、「2本のくの字」状の図柄の周知性について、サッカーとの
関係の有無を問わない一般消費者を需要者として考えたうえで、

・ヒュンメルブランドはそもそもブランドとしての認識度が低い
・「2本のくの字」の図柄と認識される他社製品も複数存在している
・靴の側面の図柄は第一次的には靴のデザインとして認識され、
ブランド名と比べて出所識別標識としての認識力が弱い


などの点から図柄模様の出所表示性を否定しています。


今回の事案では、アンケート調査の結果が参考にされており、調査が
統計学的な確率的正確性を欠くことを認めつつも、商品の認識度の
おおよその傾向を示す補足的な資料として斟酌されています。
(37頁以下)

アンケート調査では、原告商品を知っている人のうち、ブランド名を
正確に回答した人は全体の1%にすぎないのに対して、アディダス、
ナイキについては半数以上と、図柄とブランド名の結びつきの認識度に
大きな差があることも認められています。


アンケート調査についてはリーバイス弓形ステッチ事件に関して、
青木・後掲書「第10節 商標・不正競争事件における証拠としての
アンケート調査」(265頁以下)参照。

なお、田村先生は、「あえて一般論をいえば、10%を超える程度の
認知度でも周知といってよいのではなかろうか」
(田村善之「不正競争防止法概説 第二版」(2003)46頁)
と指摘されておいでです。

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■コメント

被告会社は、靴の卸商社として50年の歴史がある企業で年商55億円
(平成19年8月期 同社サイトより)、有名ブランドの総代理店も
いくつか手がけています。
問題となった被告商品は、「PERSON'S」ブランドのカジュアルシューズ
だったようです。

原告取扱い商品のシューズのいくつかをネット上で見てみると、
わたしが中学生の頃に履いていたアディダスの斜め3本線の図柄の
スニーカーが思い出されるところで、そういう点からすると
くの字の2本線」デザインはシューズで使う限り、ありふれた印象
を拭いきれず、被告商品の詳細はわからないのですが、2条1項3号の
模倣事案ででもないかぎり類似の図柄を持つシューズの製造販売行為の
不正競争行為性の判断は難しかったかもしれません。

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■参考文献

井上由里子「「混同のおそれ」の立証とアンケート調査」
       『知的財産の潮流』(1995)34頁以下
青木博通「知的財産権としてのブランドとデザイン」(2007)250頁以下
田村善之「裁判例に見る不正競争防止法2条1項1号における規範的判断の浸食」『知的財産法の理論と現代的課題-中山信弘先生還暦記念論文集』(2005)402頁以下

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■関連サイト

チームスポーツ「ヒュンメル」

スポーツスタイル シューズ スポーツカジュアルシューズ ヒュンメルスポーツファッション コペンハーゲンP

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■関連ブログ

名古屋の商標亭
ヒュンメル(hummel)シューズの図柄模様

ヒュンメル(hummel)はサッカーファンに知られてるけど…

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■追記(08.2.11)

企業法務戦士の雑感
■[企業法務][知財]アンケート調査の貴重な採用(?)例

■追記(08.4.6)

井上由里子「普通名称性の立証とアンケート調査-アメリカでの議論を素材に-」
       『知的財産法政策学研究』20号(2008)235頁以下

■追記(08.4.7)

ヒュンメル商標をめぐる過去の裁判例

朝日奈宗太「ライセンス契約の終了とサブライセンス契約の存続」
      『山上和則先生還暦祈念論文集 判例ライセンス法
      (2000)95頁以下

■追記(09.5.22)

青木博通「不正競争防止法における周知性の立証-アンケート調査結果等により靴の図柄の周知性が否定された事案-」『知財管理』59巻5号(701号)(2009)551頁以下