裁判所HP 知的財産裁判例集より

「日めくりカレンダー」事件

東京地裁平成19.12.6平成18(ワ)29460慰謝料請求事件PDF

東京地方裁判所民事第46部
裁判長裁判官 設楽隆一
裁判官     中島基至
裁判官     杉浦正典


■事案

携帯待受画面用「日めくり」カレンダーのためのデジタル写真について
著作者人格権(同一性保持権)侵害性が争われた事案


原告:写真家
被告:富士通株式会社


■結論

請求棄却


■争点

条文 著作権法第20条

1 本件配信行為について、原告の明示又は黙示の合意があったか


■判決内容

<経緯>

H14頃     原告が365枚の花の写真で構成されるデジタル写真集を作成
H14.10     原告が被告に「日めくり」携帯待受配信企画案を提案
H15.04頃    訴外富士通パレックスを通して「花」画像の著作権全部譲渡
H15.06.18  納品、代金すべて支払い完了(273万円余/1枚7500円)
H15.06.27〜 被告が携帯電話待受画面用として配信(週1回/1枚)
H15.07.15  
H15.07.22  原告が2セット目の「風景」画像購入についての契約交渉申入れ
H15.07.30  原告が「花」画像が「日めくり」にならない点などにクレーム
H15.08.06  被告は契約内容として「日めくり」にはなっていないと回答
H15.08.15  原告が再クレーム
H15.11.16  被告が「風景」画像購入を正式に断る
H15.12.22  原告が「花」画像の販売代金再交渉を要求


<争点>

1 本件配信行為について、原告の明示又は黙示の合意があったか

原告は、原告が制作した携帯待受画面用の「花」のデジタル画像を
企画案提案当初から「日めくり」(1日1枚更新)で提供するよう交渉
していましたが、被告側は技術的には「日めくり」が可能であるとし
つつも現実には週一回1枚更新の配信としてこれを実施しました。

こうした状況のなか、原告は写真集の編集著作物性や原告の同一性保
持権侵害性(写真集としての同一性の侵害)を争点として提起してい
ます。

裁判所は、これらの争点の前提となる配信行為についての合意の有無
があったかどうかを検討しています。

結論的には、裁判所は、被告との交渉の経緯などから週一回の割合で
更新して配信することについて遅くとも本件著作権譲渡行為の時点まで
には原告は黙示に合意していたと判断しています。
(16頁以下)

合意があった以上、契約内容に沿う配信行為となるので写真集の編集
著作物性の判断を裁判所がするまでに及んでいません。


■コメント

原告の写真家さんには「日めくり」形式での携帯待受配信について
強い思い入れがあったようですが、そうした内心事情はこの裁判
では保護されるに至りませんでした。

2セット目となる「風景」画像の売り込みに失敗して、その売り
込みとリンクさせて「花」画像の「日めくり」を論難している
メールなどの存在が、原告側に不利に認定されてしまっています。
(19頁以下)

この写真家さんの知名度がわかりませんが、写真1枚7500円の買取り
価格の相場観なども含め、写真家さんが提訴に至るまでの判決文に
現れない背景事情としてどのようなことがあったのか、考えさせられ
るところです。


ところで、被告代理人のなかに同級生の名前がありました。
早くから企業内弁護士として活躍などしていましたが
がんばってるようでちょっとうれしくなります。


■追記(07.12.22)

参考ブログ

企業法務戦士の雑感
■[企業法務][知財]世の中そんなに甘くない。