裁判所HP 知的財産裁判例集より

「化粧品ノウハウ契約解除」事件

東京地裁平成19.8.29平成17(ワ)26738処方使用料等反訴請求事件PDF

東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官 清水節
裁判官     山田真紀
裁判官     国分隆文



■事案

化粧品の処方(化粧品の製造ノウハウ)に関する使用許諾契約書上の
解除条項の解釈等が争点となった事案

原告(反訴原告):化粧品等研究開発会社(OEMライセンサー)
被告(反訴被告):化粧品等製造販売会社(ライセンシー)


■結論

請求一部認容


■争点

条文 会社法356条1項2号(利益相反取引性)

1 合意書に基づく契約解除の有効性
2 原告による解除後の被告の不法行為性
3 損害論


■判決内容

<経緯>

  • H14.10 処方使用料支払契約、特許実施契約 締結

  • H15.11 解約条項に関する追加規定合意書 締結

  • H16.07〜原告・被告両方の代表取締役であるBがいずれも退任

  •   .12 被告が合意書に基づき契約解除の意思表示

  • H17.06 原告が債務不履行に基づく解除の意思表示

  •     
  • H17   被告が債務不存在確認本訴提起

  •     原告による本件反訴提起により本訴事件は取下終了



H14締結の処方使用料支払契約書、特許実施契約書では、
甲または乙は、甲乙両者の中で代表取締役を変更した場合は、
甲乙協議のうえ本契約を解約することができるものとする。

との規定がありました(甲が被告、乙が原告。42頁)。

H15締結の合意書では、さらに
なお,協議が調わない場合は,代表取締役が変更されて
いない方の会社は,相手方(代表取締役が変更された方の
会社)に対して通知することにより一方的に契約を解除す
ることができる。

との記載を追加することとしています。原告代表取締役Bと
被告代表取締役Aが作成名義人として記名捺印。
(42頁以下)


<争点>

1 合意書に基づく契約解除の有効性

合意書締結当時、原告及び被告の両方の代表取締役であったBが
原告を代表して行為し、Aが代表する被告との間で合意書を締結
していました。

この点について、裁判所は本件合意が原告取締役会の承認を経て
いない利益相反取引(会社法365条、356条1項2号)であるとして
無効となると判断しています。(43頁以下)

結局、被告による合意書に基づく解除も無効となり、さらに本件
ノウハウ使用許諾契約上の解除条項は合意解約の規定であり、契
約解消の合意が当事者間で無い以上、被告の解除の意思表示後も
ノウハウ使用許諾契約は存続し、使用料及び実施料を支払わなか
った被告は原告に対して債務不履行責任を負うと判断されました。


2 原告による解除後の被告の不法行為性

ノウハウの意義、内容、帰属性、ノウハウ使用製品を確定のうえ、
原告が被告の債務不履行を理由とする契約解除をしたH17.6以降の
被告による本件処方(ノウハウ)使用は不法行為にあたる部分が
あると判断されています。
(46頁以下)

なお、ノウハウのうち発明部分にかかわるノウハウ使用については、
特許権設定登録前の出願公開による公知情報の実施であり、直ちに
不法行為が成立するわけではないとされています(特許法66条1項、
65条参照)。
(50頁)


3 損害論


裁判所は、

本件ノウハウ部分を無断使用したことにより反訴原告が被った損害は,反訴被告による不法行為がなければ反訴原告が得られたであろう逸失利益,すなわち,反訴原告に帰属する各本件対象品目についての本件ノウハウ部分について,反訴被告が実際に使用したことにより反訴原告に対して支払うべき実施許諾料相当額であると解すべきである。

としたうえで、具体的な算定方法について

本件ノウハウ部分は,上記のとおり,特に,本件製造工程図において,本件対象品目の製品を製造するのに必要とされる詳細な内容を含んでおり,相当程度の経済的価値を有する一方,その価値は,一般的に,設定の登録がされた特許権よりは劣るといわざるを得ない。しかも,それによって示される製造工程は,製品によって難易度に差があると考えられ,その難易度の差は,本件ノウハウ部分の経済的価値に反映されるべきである。このような事情を総合考慮すれば,反訴原告の損害額については,実施許諾料率を3ないし5パーセントの範囲内で個々の製品ごとに決定し,それを純利益に乗じて実施許諾料相当額を算出すべきもの解される。
(53頁以下)

こうした前提の上で個々の製品の実施許諾料率と損害額を計算して
います。


■コメント

原告会社と被告会社の両方の代表取締役であるB(元資生堂学術部
長)が病気で経営から退くことになり、化粧品OEM事業のキーパー
ソンであったBが経営から退いた場合の懸念に対応するため合意書
などを用意したわけですが、合意書の有効性が認められませんでし
た。
原告会社の経営の実権を握るBの子Eの言動なども念頭にあったので
しょうか(合意書作成に至る経緯について10頁以下参照)、関係者
の懸念が現実化してしまったようです。

なお、損害論については、従前の契約上の月額許諾料(930万円)
と比較してもかなり低く損害額(月額24万円相当)が算定されて
しまっています。

ノウハウが「生モノ」として経済的価値が低下した場合(公知化
や代替可能化)の、契約終了前後のノウハウの取扱いについても
考えさせられる事案です。


■追記(07.09.15)

企業法務戦士の雑感
■[企業法務][知財]特許とノウハウの間に