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2007年05月31日

「『租税論』著作権侵害」事件〜著作権侵害差止等請求事件判決(知的財産裁判例集)〜

裁判所HP 知的財産裁判例集より

「『租税論』著作権侵害」事件

東京地裁平成19.5.28平成17(ワ)15981著作権侵害差止等請求事件PDF

東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官 清水節
裁判官     山田真紀
裁判官     片山信


■事案

被告執筆による単著本が原告被告共著本のうちの原告の
執筆部分を無断複製・翻案したかどうかが争われた事案


原告:大学教授
被告:大学教授


■結論

請求一部認容


■争点

条文 著作権法第19条、21条、27条

1 書籍全体の著作物性
2 著作権侵害性
3 故意・過失の有無
4 著作者人格権侵害性
5 損害額
6 謝罪広告の要否


■判決内容

1 書籍全体の著作物性

原告被告共著による執筆本「租税論」のうち原告が執筆した部分を
被告がその単著本「現代租税論−理論・法・制度−」で無断複製・
翻案したかどうかが問題となった事案ですが、はじめに共著本「租
税論」の全体としての著作物性が争われています。


(1)まず、「租税論」は初学者用にわかりやすく書いた教科書であ
るから著作物性がないとの被告の主張について裁判所は、

原理・原則・定説を解説する場合についても,これをどのような文言,形式を用いて表現するかは,各人の個性に応じて異なり得ることは当然である。したがって,原理・原則・定説を内容とする租税論の入門的教科書であっても,わかりやすい例を用い,文章の順序・運びに創意工夫を凝らすことにより,創作性を有する表現を行うことは可能であり,記述中に公知の事実等を内容とする部分が存在するとしても,これをもって直ちに創作性を欠くということはできず,その具体的表現に創作性が認められる限り,著作物性を肯定すべきものと解するのが相当である。
(17頁以下)

(2)次に、「租税論」が原告被告の指導教授であるCの発案・指示に
従って執筆されたものであり原告の個性が表現されていないとの被告
の主張については、

共著の執筆が,Cの発案によるものであることに加えて,Cが,被告の主張するとおり,ページ数,参考とすべき文献についての指導,使用する用語,文体等についての逐一詳細な指導・指示等を行ったとしても,実際に執筆する原告(及び被告)の具体的な表現が,一義的に決定されるというものではないから,これらにより,本件著作物の表現の具体的形式が不可避的に選択されたものであるとか,あるいは,原告個人の個性が表れていない,などということはできない。
(18頁以下)

以上のような点から、被告による共著本には全体として創作性がない
とする主張は容れられませんでした。


2 著作権侵害性

個々の表現部分(「対照表」84のブロック)をそれぞれ創作性の有無、
同一性の有無(複製・翻案の有無)、依拠性の有無から判断。
40近くのブロックの一部分については、表現上の創作性がないとして
著作権侵害性が否定されています。
なお、頁全体の分量からすると、約2割相当の頁の分量に侵害性アリと
判断されています(22頁参照)。


3 故意・過失の有無

原告各表現と被告各表現の同一性の状況から少なくとも過失があると
認定されています。
(20頁以下)


4 著作者人格権侵害性

複製権侵害が認められる部分に原告氏名の表示がないことから
氏名表示権の侵害が認められています。
(21頁)


以上の結論として、原告単著本の複製・頒布の差止、著作権及び
著作者人格権侵害について損害賠償を認めています。


5 損害額

(1)財産的損害
書籍の定価×発行部数×印税率×侵害割合
3200円   1500部  10%  291頁中54頁

=9万円あまり

(2)精神的損害
侵害部分(61カ所)×2万円

=122万円

(3)弁護士費用
15万円


6 謝罪広告の要否

裁判所は、

1 著作者人格権侵害について過失がある
2 書籍全体の2割におよぶ侵害部分

ということから、謝罪広告の必要性を認めつつも最終的には

3 実売部数が1137部と少なく、購入者層も限定
4 出版社とはすでに和解成立

などの点からこれを認めませんでした。


■コメント

原告被告はともに研究室の同窓。原告が被告の先輩にあたります。
指導教授の発案で原告被告の共著本「租税論」が刊行されましたが、
できあがった著作物に対する弟子たちの認識は違ったものとなった
ようです。

原告は指導教授の指示・指導のうえで創意工夫を凝らして自由な
執筆を行ったと自負していましたが、被告はそうではありません
でした。

訴訟上の主張反論ですから、被告がどんな主張反論を行っても自由
ですが、大学教授が自らの名前を冠して公表した共著本を
「指導教授の手足として作成したに過ぎず自分達は制作者ですらない」
と主張する姿は、自らの学問態度の否定に繋がり、学究の徒とはにわか
に信じがたいところです。


■参考判例

・「共同執筆論文」著作権侵害事件
東京地裁平成19年01月18日平成18(ワ)10367著作権侵害差止等請求事件
「共同執筆論文」著作権侵害事件〜著作権侵害差止等請求事件判決(ブログ記事)

・「法律書籍著作権侵害」事件
知財高裁平成18年03月15日平成17(ネ)10095損害賠償等請求控訴事件
「法律書籍著作権侵害」事件控訴審〜著作権損害賠償等請求事件判決(ブログ記事)


■追記(07.06.13)

企業法務戦士の雑感
■[企業法務][知財] イタイ判決(その1)

written by ootsukahoumu at 21:37│TrackBack(0)知財判決速報2007 

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