裁判所HP 知的財産裁判例集より

「ピーターラビット」マルシーマーク事件

大阪地裁平成19.1.30平成17(ワ)12138著作権に基づく差止請求権不存在確認請求事件PDF

大阪地方裁判所第21民事部
裁判長裁判官 田中俊次
裁判官    高松宏之
裁判官    西森みゆき


■事案

著作権保護期間を満了したベアトリクス・ポター作
ピーターラビットのおはなし」の絵柄の一部を利用しようと
した原告が、著作権管理会社を被告として提起した差止請求権
不存在確認の訴え


原告:子供衣料品製造販売会社
被告:知財管理会社


■結論

請求一部認容


■争点

条文 不正競争防止法2条1項13号、民法709条

1 確認の訴えの利益の有無
2 質量等誤認惹起行為の有無
3 一般不法行為の有無


■判決内容

1 確認の訴えの利益の有無

絵本「ピーターラビットのおはなし」の絵柄の著作権は
すでに保護期間を満了していましたが(平成16年5月21日満了)、
この絵柄の著作権管理会社は、これらの絵柄を利用した
ライセンス商品について依然としてマルシーマーク((c))の
表示をライセンシーに対して求めていました。

こうした被告の行為が、パブリックドメイン(PD)となった
著作物を自由に利用しようとした原告の法的地位に
不安・危険を生じさせているかどうか、確認の利益が
あるのかどうかが第一の争点となりました。

裁判所は、確認の利益の一般論について

一般に,確認の訴えにおける確認の利益は,原告の権利又は法律的地位に現存する不安・危険を除去するために,判決によってこの権利関係の存否を確認することが必要かつ適切である場合に認められるところ,消極的確認訴訟の場合においては,被告が権利の存在を何らかの形で主張していれば,特段の事情のない限り,原告としてはその権利行使を受けないという法律的地位に不安・危険が現存することになるものというべきであり,これを除去するために判決をもってその不存在の確認を求める利益を有するものということができる。
(36頁)

としたうえで、

・ライセンス契約書やウエブ・新聞全面広告で著作権存続を
 前提とした侵害対応を被告は表明している
・著作権表示があることで原告の取引先に危惧が生じ
 営業が困難となっている

こうした事情から、

原告には,被告から著作権に基づく権利行使を受けることなく原告製品を販売し得るという法律的地位に不安・危険が生じているということができ,このような不安・危険を除去するためには,原告が,本件絵柄について被告が原告に対する著作権に基づく差止請求権を有しないことを確認する旨の判決を得るのが有効適切であるということができる。
(42頁)

と説示しました。

結論として、差止請求権の不存在の確認の利益が
認められ、
原告が企画するタオル製品の製造・販売に対する
被告の著作権に基づいた差止請求権の不存在が
確認されました。


2 質量等誤認惹起行為の有無(不正競争防止法2条1項13号)

PD作品に表示された被告による(c)単体表示や
「(c)会社名」「(c)会社名 西暦」などの表示が、
被告商品・役務の品質や内容を誤認させる行為と
なるかどうかが争われました(46頁以下)。

結論としては、たとえば「(c)会社名 西暦」については、

1 こうした表示が「ある種の誤認を生じさせ得る」としても
商品の「品質」「内容」にかかわるものではない、
として不正競争行為性を否定

2 また、被告表示は「役務」(商品化許諾業務)の質や内容に
かかわりうるものであるが、原告被告は「役務」に関し競争関係に
立つ事業者ではなく原告の「営業上の利益」が侵害される
おそれ(3条1項)は無い

として、13号所定の不正競争行為性が否定されました。


3 一般不法行為の有無

不正競争防止法が,一定の表示媒体,表示事項及び行為態様を特定し,13号の不正競争行為に該当する行為を限定している趣旨にかんがみると,13号の不正競争行為に該当しない行為を民法上の不法行為として損害賠償責任を負わせることは,極めて例外的な場合であると解され,被侵害利益の重大性,行為態様の悪質性に照らして違法性が極めて高いものに限られるものというべきである。
(63頁)

裁判所は上記のような一般論を示した上で
結論としては、被告の表示行為は違法性
高くないとして一般不法行為性を否定してます。


■コメント

不適切なマルシーマーク(著作権表示)が及ぼす影響を
正面から争った裁判例です。

原画の著作権について著作権法上の保護期間を満了したと
しても、二次的著作物に関する著作権は無論のこと、
商標法や不正競争防止法上の保護を別途考えなければ
ならないので、つねにPD作品が完全に自由に
使えるわけではないことはいうまでもありません。

もっとも、パブリックドメイン(公共のモノ=自由利用)に
なるという趣旨からすれば、保護期間が満了した著作物に
独占状態をさらに継続して認めさせるのはおかしいことになります。
こうした場合は商標法と著作権法の調整として、商標法の効力が及ばない
場面として考えることもできそうです(商標法26条1項参照。
なお、田村善之「商標法概説第二版」(2004)229頁以下参照)。


追記

控訴審
大阪高裁平成19.10.2平成19(ネ)713等著作権に基づく差止請求権不存在確認請求控訴事件,同附帯控訴事件記事