裁判所HP 知的財産裁判例集より

「杏林製薬商号」事件

東京地裁平成19.1.26平成18(ワ)17405商号使用差止等請求事件PDF

東京地方裁判所民事第47部
裁判長裁判官 高部眞規子
裁判官    平田直人
裁判官    田邉実



■事案

製薬会社が健康食品を取扱う会社の商号の不正競業性を
めぐって争った事案

原告:杏林製薬株式会社
被告:杏林ファルマ株式会社


■結論

請求認容


■争点

条文 不正競争防止法2条1項1号

1 営業表示の類似性
2 営業の混同の有無


■判決内容

1 営業表示の類似性

裁判所は、

原告の商号と被告の商号とが営業表示として不正競争防止法2条1項1号にいう類似のものに当たるか否かについては,取引の実情の下において,取引者又は需要者が両表示の外観,称呼又は観念に基づく印象,記憶,連想等から両者を全体的に類似のものとして受け取るおそれがあるか否かを基準として判断すべきである(最高裁昭和57年(オ)第658号同58年10月7日第二小法廷判決・民集37巻8号1082頁参照)。
(11頁)

としたうえで、
原告商号中の「製薬」は製薬業者を表す普通名詞、
杏林」もそれ自体としては医療、医療関係を示す
名称として特別顕著なものとはいえないが
(「杏林」は、広辞苑によると「医者の美称」だそうです)、
「杏林」部分にあっても一部上場の製薬会社として
自他識別能力がある。

他方、被告商号の「ファルマ」部分はファーマシーなどの
語源と共通するもので薬関係の事業を連想させる言葉として
通用するものである。

結局、

被告の商号は,「杏林」の部分が原告の商号と同一であり,「キョーリン」という同一の称呼が生じ得る。また,「杏林ファルマ」は,製薬であるか薬局であるかにかかわらず,製薬を含む薬関係の事業を連想させるから,「杏林製薬」と観念において類似し,被告の商号は,原告の商号と観念において類似するものと認められる。
 よって,原告の商号と被告の商号は,取引者又は需要者が上記のような称呼の同一性,観念の類似性に基づく印象,記憶,連想等から,両者を全体的に類似のものとして受け取るおそれがあるというべきである。

(13頁)

として、類似性を肯定しました。


2 営業の混同の有無

この点について、裁判所は

不正競争防止法2条1項1号に規定する「混同を生じさせる行為」とは,他人の周知の営業表示と同一又は類似のものを使用する者が自己と上記他人とを同一営業主体として誤信させる行為のみならず,両者間にいわゆる親会社,子会社の関係や系列関係などの緊密な営業上の関係又は同一の表示の商品化事業を営むグループに属する関係が存すると誤信させる行為(広義の混同惹起行為)をも包含すると解すべきである(前掲最高裁昭和57年(オ)第658号同58年10月7日第二小法廷判決,最高裁平成7年(オ)第637号同10年9月10日第一小法廷判決・裁判集民事189号857頁参照)。
(14頁)

と示したうえで、

被告は,平成14年5月に商号を「杏林ファルマ株式会社」に変更して,目的に医薬品,医薬部外品などの製造,販売等を加えたものであり,原告の営業と同一の営業を行うおそれがある。よって,被告が,上記のような営業を行うについて,「杏林ファルマ株式会社」を使用することにより,原告の取引者又は需要者は,被告をもって,キョーリングループの一員,あるいは,原告との間に資本的な繋がりがあるなど,緊密な営業上の関係があると誤信するおそれがあるものと認められる。
(14頁)

として、誤認混同のおそれを肯定しました。

なお、被告側は、
杏林堂薬局」や「杏林予防医学研究所」、「根本杏林堂
杏林大学」など別法人の例をとって混同は生じないと
反論しましたが、容れられませんでした。
(15頁)


原告商号の周知性については当事者間に争いがなく、
また、営業上の利益の侵害性(3条)も認められて
差止請求(商号使用差止、抹消登記手続)が肯定されました。


■コメント

原告は60年以上の歴史のある製薬会社「杏林製薬」。
対する被告は、昭和60年にパソコンソフト開発や
出版業を主な業務として設立された会社で
被告会社はその後、健康食品や医薬品の取扱いも
業務目的に加える一方、数次の社名変更を経て
平成14年には「杏林ファルマ」としていた経緯が
あります。



■参考判例

「マンパワー事件」
最高裁昭和58年10月07日昭和57(オ)658商号使用差止等

「スナックシャネル事件」
最高裁平成10年09月10日平成7年(オ)第637号