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2007年01月20日

「共同執筆論文」著作権侵害事件〜著作権侵害差止等請求事件判決(知的財産裁判例集)〜

裁判所HP 知的財産裁判例集より

「共同執筆論文」著作権侵害事件

東京地裁平成19.1.18平成18(ワ)10367著作権侵害差止等請求事件PDF

東京地方裁判所民事第46部
裁判長裁判官 設楽隆一
裁判官    間史恵
裁判官    荒井章光


■事案

共同執筆した英文論文を一部省略して翻訳した二次的著作物を
執筆者の一方が他方に無断で書籍掲載したとして著作権侵害が
争われた事案


原告:大学教授
被告:大学教授
   出版会社


■結論

請求一部認容(原告側 実質勝訴)


■争点

条文 著作権法第27条、20条、19条、115条

1 翻案権侵害の成否
2 著作者人格権侵害の成否
3 差止の成否
4 損害額


■判決内容

1 翻案権侵害の成否

共同著作者の一方である原告の承諾を得ることなく
原著の内容の一部を省略、翻訳していることから
翻案権侵害があると認定されました。
(22頁)

この点、被告側は

1 原告の包括的な許諾があった
2 学会誌投稿規程に基づいて原著の著作権は学会に
 譲渡されていて原告は著作権云々する立場にない

と、反論していました。

裁判所は、

1については、許諾の存在を認めず、また

2についても、

著作権譲渡の際の特掲事項の不掲載の点から(61条2項)
学会への翻案権の譲渡はないと判断、被告側の反論は
採用されませんでした。
(23頁)


2 著作者人格権侵害の成否

1 同一性保持権侵害性(20条)

原著の内容を一部省略しつつ翻訳しており、その点について
原告の承諾を得ていなかった。
被告の本件論文作成は「原告の意思に反し」ており
同一性保持権侵害性が認められるとしました。
(24頁)

2 氏名表示権侵害性(19条)

原著の二次的著作物となる被告作成の本件論文についても
原告の氏名を共同著作者として表示する必要があるわけですが、
それに見合った表示をせずに被告のみを著作者として
表示していたことから氏名表示権侵害性が肯定されました。
(25頁)


3 差止の成否

1 本件論文、書籍についての発行、販売、贈与、頒布行為の
差止が認められました。
(25頁以下)

2 出版会社の在庫の廃棄が認められました。
(26頁以下)

3 名誉回復措置(115条)などとしての広告や通知は
認められませんでした。
(27頁以下)


4 損害額

原告主張の弁護士費用50万円が認められました。

ただ、出版会社については
書籍発行自体に過失がない点で当事者に争いがなく、
また、侵害警告後の出版会社の一連の行為に不法行為性は
認められないとして、
出版会社の損害賠償責任は認めませんでした。
(28頁以下)


■コメント

共同で著作物を創作、利用することの難しさを感じさせる
事案です。

原告教授は「英語論文しか書かない主義の学者」で(10頁)
日本語での紹介記事のような論文は、論文として認めない態度。

対して、被告教授は原著の共同研究成果を広く紹介しようとの
考えの持ち主で結果、承諾を得ずに日本語に翻訳して
書籍化したわけです。

原著共同論文を紹介する本件書籍での氏名表示の方法にも
配慮を欠くところが大きかったのかもしれません。


なお、学会誌での投稿論文の著作権の取扱い規程の現状について
被告側がいくつか例を挙げています(7頁以下)。


学会誌投稿規定に関する分析としては、

藤田節子「国内科学技術系学会誌の投稿規定の分析
 参照文献の記述、著作権を中心として(機法吻供

情報管理48巻10号(2006)667頁以下、11号723頁以下
参照。

情報管理」誌は、以下のサイトで論文を読むことが
できます。

「情報管理Web」:JST(独立行政法人科学技術振興機構)が発行する月刊誌「情報管理」のサイト


藤田論文の729頁に著作権規定の分析があります。
調査対象のうち学会誌への投稿論文の著作権譲渡規定が
あるものは97パーセントと、科学技術系の学会では
ほとんどの学会で著作権が譲渡される体裁と
なっています。

ただ、今回の事案で問題となった翻訳などの
利用行為については29パーセントしか規定がなくて
まだまだ未整備のようです(「自著の扱い」項目参照)。


なお、藤田先生は、人文・社会科学系学会誌についても
研究成果を継続発表されておいでです。

藤田節子「国内人文・社会科学系学会誌の投稿規定の分析(I)
情報管理49巻10号 (2007)564頁以下


■参考文献

名和小太郎「学術情報と知的所有権 オーサシップの市場化と電子化」(2002)129頁以下



written by ootsukahoumu at 12:59│TrackBack(0)知財判決速報2007 

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