裁判所HP 知的財産裁判例集より

「ロケット制御データ解析プログラム著作権」事件(控訴審)

知財高裁平成18.12.26平成18(ネ)10003著作権存在確認等請求控訴事件PDF

知的財産高等裁判所第1部
裁判長裁判官 篠原勝美
裁判官    宍戸充
裁判官    柴田義明


★原審
東京地裁H17.12.12 平成12(ワ)27552 著作権 民事訴訟事件


★原審に関する過去の記事
2005年12月27日


■事案

宇宙開発事業団(現在は、宇宙航空研究開発機構に改編)の職員が、
ロケットや人工衛星の制御データ解析プログラムについて著作権、
著作者人格権が自分にあることの確認を求めた事案の控訴審。


原告(控訴人) :元職員
被告(被控訴人):宇宙開発事業団ら


■結論

控訴棄却(原告元職員側敗訴)


■争点

条文 著作権法第2条1項1号、15条、28条

1 プログラムの著作物性
2 原告の創作者性
3 職務著作性(15条2項)の肯否
4 翻案権侵害性


■判決内容

1 プログラムの著作物性

規範

小説,絵画,音楽などといった従来型の典型的な著作物と異なり,プログラムの場合は,「電子計算機を機能させて一の結果を得ることができるようにこれに対する指令を組み合わせたものとして表現したもの」(法2条1項10の2)であって,元来,コンピュータに対する指令の組合せであり,正確かつ論理的なものでなければならないとともに,プログラムの著作物に対する法による保護は,「その著作物を作成するために用いるプログラム言語,規約及び解法に及ばない。」(法10条3項柱書1文)ところから,所定のプログラム言語,規約及び解法に制約されつつ,コンピュータに対する指令をどのように表現するか,その指令の表現をどのように組み合わせ,どのような表現順序とするかなどといったところに,法によって保護されるべき作成者の個性が表れることとなる。

したがって,プログラムに著作物性があるといえるためには,指令の表現自体,その指令の表現の組合せ,その表現順序からなるプログラムの全体に選択の幅が十分にあり,かつ,それがありふれた表現ではなく,作成者の個性が表れているものであることを要するものであって,プログラムの表現に選択の余地がないか,あるいは,選択の幅が著しく狭い場合には,作成者の個性の表れる余地もなくなり,著作物性を有しないことになる。そして,プログラムの指令の手順自体は,アイデアにすぎないし,プログラムにおけるアルゴリズムは,「解法」に当たり,いずれもプログラムの著作権の対象として保護されるものではない。
(42頁以下)

あてはめ

(プログラム15について)『中心となる「GENPER」は131ステップ,「KEPLER」は47ステップのサブルーチンであり,式の展開,入出力その他の条件を設定に対応して,各ステップの組合せ,その順序,サブルーチン化などで,多様な記載が可能であるところ,作成者の工夫がこらされており,その個性が認められるから,著作物性を有するものというべきである。
(44頁)

(プログラム11について)『第14ステップは,プログラムを終了させるための基本的なFORTRAN言語であるEND行(乙204の1)であって,選択の余地がない。
さらに,各ステップの論理的順序をみても,変数へのデータ設定,計算,データ出力の3段階からなるありふれた流れであって,選択の幅は,著しく狭いものである。
そうすると,本件プログラム11は,全体として表現に選択の余地がほとんどなく,わずかに表現の選択の余地のある部分においても,その選択の幅は著しく狭いものであるから,上記計算式を基礎にFORTRAN言語でプログラムを作成しようとする場合,本件プログラム11のようになることは避けられず,作成者の個性を反映させる余地はないものとして,その著作物性は否定すべきである。

(48頁以下)


以上のように、著作物性が認められた部分と、
認められなかった部分がありました。


2 原告の創作者性

原告による単独または共同によるプログラム作成が
認定されています。
(50頁以下)


3 職務著作性(15条2項)の肯否


 1「法人等の発意」要件について

法人等と業務に従事する者との間に雇用関係があり,法人等の業務計画に従って,業務に従事する者が所定の職務を遂行している場合には,法人等の具体的な指示あるいは承諾がなくとも,業務に従事する者の職務の遂行上,当該著作物の作成が予定又は予期される限り,「法人等の発意」の要件を満たすと解するのが相当である。

 2「職務上作成する著作物」要件について

業務に従事する者に直接命令されたもののほかに,業務に従事する者の職務上,プログラムを作成することが予定又は予期される行為も含まれるものと解すべきである。

 3「法人等が自己の著作の名義の下に公表するもの」要件について

公表を予定していない著作物であっても,仮に公表するとすれば法人等の名義で公表されるべきものを含むと解するのが相当である。
(58頁以下)


結論的には、被告事業団側に法人著作を認めました。


4 翻案権侵害性

著作物性や法人著作の点で前提を欠くため
この点での主張も失当と判断されました。
(83頁)



■コメント

この事案の論評については、「企業法務戦士の雑感」さんの
ブログに詳しいので、そちらをご覧いただけたらと
思います。

「企業法務戦士の雑感」さんの記事にもあるように
事業団内部の「業務連絡」文書(71頁以下)などは、企業内部における
著作物取扱いに対する問題意識のあり方がわかって
興味深い点です。


■参考ブログ

企業法務戦士の雑感
■[企業法務][知財] 「業務連絡」文書の疑惑。