裁判所HP 知的財産裁判例集より


江戸庶民風俗図絵模写(対柏書房)」事件(控訴審)


知財高裁平成18.9.26平成18(ネ)10037著作権侵害差止等請求控訴・同附帯控訴事件PDF

知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官 佐藤久夫
裁判官 三村量一
裁判官 古閑裕二


★原審
東京地裁平成18.3.23平成17(ワ)第10790号著作権侵害差止等請求事件 著作権 民事訴訟


過去のブログ記事
駒沢公園行政書士事務所日記「江戸庶民風俗図絵模写」事件〜著作権侵害差止等請求事件判決(知的財産裁判例集)〜


■事案

江戸時代に制作された風俗図絵の模写の著作物性を巡って
争われた事案の控訴審判決。


原告(控訴人・附帯被控訴人):江戸風俗図絵作家側
被告(被控訴人・附帯控訴人):出版社



■結論

控訴棄却
(附帯控訴の損害賠償額部分変更:減額)


■争点

条文 著作権法第2条1項1号、114条3項

1 模写作品の著作物性
2 損害賠償額の算定



■判決内容

1 模写作品の著作物性

原審同様、4点のうち2点について著作物を肯定。


2 損害賠償額の算定

原審では、著作権侵害による直接損害部分について
1回の使用許諾料(2万2222円)と無断使用の際の
ペナルティ料(6万6666円)の中間を取って4万4444円と
算定していました(原審38頁)。

控訴審ではこうした判断は行わず、あくまで損害は
使用料相当額(2万2222円、114条3項)であるとしました。
(20頁)
ペナルティ料として通常使用料の3倍額を請求していたことが
別件で過去にあったという事情は斟酌されませんでした。


著作物性の判断のほか、販売差止、部分廃棄等についても
原審の判断が維持されています。


■コメント

損害額の算定部分以外、控訴審は原審の判断を維持しています。


原告作家側は「模写」あるいは「創作性」についての
考えを述べています。(4頁以下)

模写行為のエッセンスが「原作者の制作過程の追体験」であるとか
(7頁)、
絵画のモチーフと表現方法・手段との表裏一体性(12頁以下)など
原告側の言わんとするところは納得できます。

ですが、創作性の判断の際に「制作の結果」だけでなく
制作過程も検討しなくてはならない(11頁)という
原告側の主張には無理があります。


話は少し逸れますが、
つい先日、出光美術館で俵屋宗達と尾形光琳の風神雷神図屏風を
前にしたときのことです。

光琳の屏風図制作過程について、
光琳がどのような思いをもって宗達の作品に
薄紙をあててトレースをして寸分たがわぬ模写図屏風を
完成させたのか、
想い巡らさずにはいられませんでした。

たしかに制作過程は「精神的創作」の源泉です。
ただ、そうはいっても、
光琳の作品がたんなる宗達作品のコピーなのか、
それ以上のなにかが光琳の作品に
付与されているのかどうかは、
表現された光琳の作品そのものから
感じ取らなければならないはずです。


アイデアやコンセプト自体が保護されないのと同様、
著作権法上の「創作性」の有無は制作の結果として
現れたモノ(「表現したもの」2条1項1号)から
判断しなければなりません。

作家さんの制作過程を思い描きながら模写絵の
二次的著作物性を判断するという枠組みは現行法では
採用することはできないでしょう。