裁判所HP 知的財産裁判例集より


★控訴審
知財高裁平成18.9.13平成17(ネ)10076著作物利用差止等請求控訴事件PDF

知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官 塚原朋一
裁判官    高野輝久
裁判官    佐藤達文


★原審
東京地裁平成17.3.15平成15(ワ)3184著作権 民事訴訟PDF

東京地方裁判所民事第47部
裁判長裁判官  高部眞規子
裁判官     東海林保
裁判官     瀬戸さやか


■事案

矢沢永吉をメンバーとするロックバンド「キャロル」の
解散コンサートの撮影映像を巡ってその著作権の帰属などが
映像製作会社とレコード会社の間で争われた事案


■結論

一部取消・棄却(原告映像製作会社側実質敗訴)


■争点

条文 著作権法第15条、16条、29条

1 著作者の認定
2 著作権の帰属
3 著作権譲渡の成否


■判決内容

1 著作者の認定

本件作品の著作者は、監督を務めた原告Xが
「全体的形成に創作的に寄与した」(16条)唯一の者である
と認定されました(20頁)。

控訴審では音楽事務所が被告側に補助参加して
作品の共同著作物性などを主張しましたが
容れられませんでした。


2 著作権の帰属

裁判所は、著作権法2条1項10号、29条の「映画製作者」の意義について、

「映画製作者」とは,映画の著作物を製作する意思を有し,著作物の製作に関する法律上の権利義務が帰属する主体であって,そのことの反映として同著作物の製作に関する経済的な収入・支出の主体ともなる者のことであると解すべきである。
(22頁)

と判示。そのうえで、

撮影機材やスタッフの調達、支払い関係など
すべて原告会社が行っていたとして
原告製作会社が「映画製作者」に該当すると判断しました。
(23頁)

したがって、著作者Xが製作に参加してしている本件作品について
原告製作会社が本件作品の著作権者となります。


3 著作権譲渡の成否

音楽事務所側の意思解釈、またレコード会社主導による
地方TV局での放映、全国各地でのフィルムコンサートの実施、
ビデオ販売等においての原告製作会社の対応などから
作品の著作権は、音楽事務所の代表者に譲渡されたと裁判所は
判断しました。

そのうえで音楽事務所とレコード会社との間の原盤製作契約に従って
レコード会社に著作権は譲渡されているとしました(23頁以下)。


■コメント

1975年、日比谷野外音楽堂で行われた
「グッドバイ・キャロル」解散コンサートの
ドキュメント作品の著作権の帰属が争われました。

この作品は、テレビ番組として放送後、ビデオ販売され
さらにDVD化してレコード会社から販売されました。

普通に考えると、アーティストの実演や楽曲を取扱う映像ですから
映像製作会社としてもその点の利用許諾など権利関係を整理しない限り
作品の著作権を一方的に主張してもこの作品を収益利用することが
できません。

音楽事務所(マネージメント会社)とレコード会社の契約関係、
アーティストと専属実演家契約をしているレコード会社との
権利関係を前提とした場合、
こうした映像著作物の著作権はレコード会社に帰属させる方向で
関係者間で処理されることが考えられます。

その点で、作品の著作者は製作会社側監督(16条)、
著作権は映画製作者である製作会社に帰属(29条)するけれども、
最終的にレコード会社に著作権は譲渡されているとの
控訴審の判断は穏当な印象です。

とはいえ、外部の映像製作会社はアーティスト側の
内輪の契約関係とは直接は関係がないわけで
事前に作品の著作権譲渡について充分な納得がないと
こうした事態をすんなり理解するわけにもいかないでしょう。

テレビ番組放映後ドキュメンタリー作品として本作品は
高い評価を得ることとなり、また
永ちゃんの根強い人気からいまでもこのDVDが販売され
収益を上げている現状からすると、製作会社も欲が出てきて
(さらなる二次利用への関与の要求など)
著作権は渡せない、使用許諾関係でいいじゃないか!と
思うかもしれません。


いずれにしましても、原審(高部コート)では映像製作会社側が
勝訴していましたから、
著作権譲渡の成否について微妙な判断だったといえます。


*なお、プロモーションビデオ製作の際のレコード会社側の
本件作品の改変行為等については原審と同様、
原告の著作者人格権(氏名表示権・同一性保持権)への侵害を
肯定しています。


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■追記(07.01.19)
19年1月18日、最高裁第1小法廷(涌井紀夫裁判長)で監督側の上告を退ける決定。控訴審判決が確定へ。


■追記(08.02.10)

渡辺修、仙元隆一郎編「映像コンテンツの利用権の帰趨-キャロルDVD事件-」『知財管理』58巻1号75頁以下(2008)