裁判所HP 知的財産裁判例集より

平成18.8.31知財高裁平成17(ネ)10070著作権侵害差止等請求控訴事件PDF

知的財産高等裁判所第1部
裁判長裁判官 篠原勝美
裁判官    宍戸充
裁判官    柴田義明



★原審
平成17.3.23東京地裁平成16(ワ)16747著作権民事訴訟PDF



■事案

工業製品を輸送する際の振動を制御するための機器の
ソフトウエアプログラム開発業務委託契約を巡って
プログラムの著作権の帰属や翻案権の移転の有無が
争われた事案

先行する訴訟の結論(和解)を受けて、被告は新たに
システムを開発・販売しましたが、原告はこの行為が
原告の著作権(翻案権)を侵害するものとして
販売差止などを求めました。

原告(控訴人・開発受託者側)はソフト開発会社
被告(被控訴人・開発委託者側)は器械製造メーカー


■結論

控訴棄却(原審原告(控訴人)側敗訴)

原審に引き続き、原告敗訴。


■争点

条文 著作権法第61条2項、民法709条

1 プログラムの著作物性の有無
2 翻案権の帰属
3 翻案権の留保の有無
4 継続的契約と解除の遡及効


■判決内容

1 プログラムの著作物性の有無

裁判所は、ごく簡単に創作性を肯定しています(32頁)。
争点らしい争点とはなっていません。


2 翻案権の帰属

契約内容の解釈、交渉過程などからあくまで被控訴人(委託者側)に
翻案権を含む著作権が帰属していると判断しています(32頁以下)。


3 翻案権の留保の有無

基本契約書や個別契約書が数本あって、
著作権の帰属に関する規定はあったのですが、
全部譲渡についての特掲事項が盛り込まれていなかった
ことから(61条2項)、翻案権(27条)留保の推定を覆す作業が
委託者側で必要となってしまいました。

しかしこの点についても、交渉経緯、契約条項などから
プログラムの翻案権が委託者側に帰属するものである
という合意が当事者間で存在し、翻案権を含めて著作権が
委託者側に譲渡されたと結論付けています(38頁)。


4 継続的契約と解除の遡及効

プログラム開発企業側は、契約解除に基づく遡及効の発生によって
著作権の帰属が開発企業側に復帰すると主張しました。

しかし、裁判所は継続的契約関係であることや契約条項の
内容から解除の効果としては将来効のみ認めるにとどまりました
(43頁)。

この点についての原告側の主張も容れられませんでした。


■コメント

原審同様、ソフト開発受託企業側が敗訴となりました。

原告はソフト開発会社で資本金2.5億余(売上18億)、
被告は器械製造会社で資本金4.6億余(売上50億)。
当事者間では昭和61年からかれこれ10年以上の取引関係があり
従業員を出向させるなど協力関係も緊密な時期がありました。

開発費用の負担や開発計画についての考え方の相違から
双方の思惑に齟齬が生じてきてしまったようです。

先行した訴訟の処理が悪かったのでしょう(7頁以下)、
結局、今回の訴訟を誘発する結果となってしまっています。


原審判決に添付された契約書や判決に現れた契約交渉経緯を
読んでいくとメールでの担当者間のやり取りや開発費を
固定部分(請負費用)と歩合部分(成功報酬)に分けて考えるなど
交渉現場の雰囲気やソフトウエア開発の際の契約内容が
わかってとても興味深いものとなっています。


少し話は逸れますが、
以前ソフト開発ベンチャー企業のかたからお話を
伺ったことがあります。

ソフトウエア開発でのバグなどの修正作業が
当初見込みよりも過大なものとなって、
その点の費用負担、工程管理、納期について
ベンチャー側としてはその体力を考えると
発注先の要求に応じられない場合
(大企業が発注先の場合は特にめんどくさい)、
心情的にはソフトの権利すら投げ出して、
「あとはそちらでご自由に!」とも
思いたくなるところのようです。

ただそうはいっても、ベンチャー社の独自技術が
一部盛り込まれていたり、
今後の自社商品開発展開を考えると、
そうそう簡単に開発したソフトの著作権等を
発注社側にすべて帰属させることに
同意するわけにはいきません。

その辺の按配をみながら、契約の基本的な性質を
ライセンス契約とするのか、著作権譲渡契約とするのか、
将来の修正作業などのリスクのとり方を考えながら
契約交渉にあたるのもベンチャー側としては
思案のしどころのようです。