「企業法務戦士の雑感」さん経由、小倉先生の記事より。


平成18年3月29日平成14年(ワ)第3783号
損害賠償等請求事件

福岡地方裁判所第5民事部
裁判長裁判官 木村元昭
裁判官    板野俊哉
       山口幸恵


★東京平河法律事務所ウェブ・サイト
判決


「企業法務戦士の雑感」
[企業法務][知財] プログラムの創作性全否定。

BENLI
さきがけ事件地裁判決


■事案

新聞販売店向け顧客管理ソフトの開発委託契約を巡って
プログラムの著作物性や著作権の帰属などが争われた事案。


■結論

一部認容(原告実質敗訴)


■争点

条文 著作権法第2条1項1号、不正競争防止法第2条1項3号、民法709条

1 プログラムの創作性
2 「商品等表示性」(不正競争防止法2条1項3号)(略)
3 契約に基づく仕様書等の引渡請求の肯否(略)


■判決内容

1 プログラムの創作性

前記認定事実によれば,さきがけは,市販の開発ツールであるデルファイを利用して作成されたこと,デルファイは,イベント駆動型の開発ツールであり,あるイベントに対するプログラムの多くを予め用意するものであること,さきがけは,新聞販売店の有する情報を蓄積し,それを活用するデータベース管理型のプログラムであること,平成9年当時,新聞販売店向けのプログラムは相当数販売されていたことが認められる。このような開発経緯等からすれば,さきがけのプログラムの大部分が,デルファイで用意されているパーツなど,一般的なプログラムの組み合わせからなるものといえ,鑑定嘱託の結果においても,さきがけのプログラムに,一般的なプログラマーにおいて作成することが困難なプログラムは存在しないと判断されているところである。

したがって,さきがけのプログラムには,創作性を有する部分は存在しないと推認される。

ソフトウエア「さきがけ」は、プログラムの著作物としては
保護されないと判断されました。


なお、「デルファイ」とは、Borland Software社によって
提供されているソフトウエア開発環境のことです。

被告側は、

そもそも,さきがけのプログラムは,デルファイという開発ツールを使用して作成されているが,同ツールを使用してプログラムを作成した場合,そのほとんどが同一又は類似のプログラムとなるから,さきがけのプログラムに独自の創作性が認められる部分は存在しない。

と、反論していましたが、
この点が容れられたことになります。


■コメント

判決内容について詳しくは、「企業法務戦士の雑感」さんの
記事をお読みいただけたらと思います。


平成9年に当事者間で締結されたプログラム開発委託契約書の
表題が「売買基本契約書」ですからすごいものです。

MS-DOSからWindows向けのソフト制作へと移行していた時期で
ソフトウエア開発契約書についての実務として
厳密な契約内容、表現の検討はいまほどは
一般的ではなかったのかもしれません。

原告は、このソフトとPCやプリンタ、保守管理などをセットにして
100万円ほどで販売していました。
こうしたビジネスモデルから、ソフトウエア単体での販売へと
パソコンをめぐる商売のやり方が急激に変化したことが
紛争のきっかけのひとつとなったといえそうです。

開発等におけるリスクのとりかたを含め全体を眺めてみれば、
たんにソフトの企画立案、販売にかかわった原告が、
ソフトの権利まで主張するのはどうかとの印象を受けます。


結論的にはプログラムの創作性が否定されて
著作権による保護を被告も受けられなくなることに
なってしまいました。
被告側も創作性を否定していますので
そう割り切っていい「ありふれた」ソフトであったと
いうことなのでしょう。


■参考判例

・製図プログラムの類似事件(JR-CAD事件)

東京地裁平成15年1月31日平成13年(ワ)第17306号
著作権侵害差止等請求事件
東京地裁平成13(ワ)17306


■参考文献

前田郁勝「プログラム著作権侵害訴訟における審理
     牧野利秋・飯村敏明編『新・裁判実務大系 著作権関係訴訟法』(2004)88頁以下

田中雅敏「コンピュータプログラムの著作権に関する理論と判例研究
     苗村憲司ほか現代社会と著作権法』(2005)106頁以下

中山信弘「ソフトウェアの法的保護(新版)」(1988)104頁以下

D.S.カージャラ、椙山敬士「日本ーアメリカ コンピュータ・著作権法
(1989)274頁以下


■追記(06.10.17)

小倉先生のブログ記事より

benli
「プログラマーの常識」と「著作権法の建前」の乖離

スラッシュドット ジャパン
スラッシュドット ジャパン Delphiによる市販ソフトウェアに創作性が認められない判決