裁判所HP 知的財産裁判例集より

知的財産高等裁判所 平成18.4.12平成17(ネ)10051損害賠償等 著作権 民事訴訟PDF

知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官 塚原朋一
裁判官    睫邉欝
裁判官    田中昌利


★原審
東京地裁 平成16.4.23平成15(ワ)6670 著作権 民事訴訟

裁判長裁判官 三村量一            
裁判官    青木孝之      
裁判官    吉川泉



■事案

テレビゲーム機「プレイステーション」の
プログラムの著作権の帰属をめぐって
争われた事案


■結論

控訴棄却(原告プログラマー側敗訴)



■争点

条文 下請法4条1項5号、独占禁止法

1 著作権の帰属
2 優越的地位の濫用(下請法、独禁法との関係)


■判決内容

1 プログラム著作権の帰属

もっぱら事実認定の問題でした。

何通か締結されていた契約書の規定の解釈、
取引慣行や取引の経緯などから
開発委託契約ならびに著作権譲渡契約が
成立していたと認定されました。


2 優越的地位の濫用(下請法、独禁法との関係)


被告のプログラム開発委託会社は
資本金19億円、売上5千億円(H16年度単独)、
ソニー傘下のソフト製作会社。

対する原告である開発受託者は
個人のプログラマー。
下請法、独禁法の観点も
当然問題となってきます。


(1) 下請法との関係について、判例は、

総計すると3968万円となる(原判決の第4・2(6)参照。)。これらが本件各プログラムの開発委託の対価のみならず著作権譲渡の対価を合わせたものであるとしても,本件各プログラムの著作権の有する価値と比べて著しく低額であるとは証拠上認めることができず,本件各プログラムの著作権譲渡契約が下請法4条1項5号に違反するということはできない。
(13頁)

通常支払われる対価に較べて
著しく低い下請代金の額が
不当に定められているわけではないと
判断しました。

本事案では、
月額報酬が100万円から180万円というもので
著作権譲渡の対価を含んでいたと解釈しても
問題ないレベルとされました。


(2) さらに、公取委のガイドラインに
抵触するかどうかについて

また,控訴人がフリーのプログラマーとして豊富な経験を有し,被控訴人以外の委託者からの業務委託も数多く受けてきたこと(甲17)に照らせば,控訴人の被控訴人に対する取引依存度が高いとはいえず,控訴人にとって,被控訴人との取引がなくなることをおそれて著しく不利な条件であっても受け入れざるを得ないような状況にはなかったというべきであるから,被控訴人が控訴人との関係において公取委告示にいう「優越的地位」にあったということはできない。したがって,本件各プログラムに関する著作権譲渡契約は,独占禁止法に違反するとはいえない。
(同頁)

そもそも原告は被告との関係において
「優越的地位」にたたないと
判断されました。



[参考条文等]

 下請代金支払遅延等防止法

(親事業者の遵守事項)
第4条 親事業者は,下請事業者に対し製造委託等をした場合は,次の各号(役務提供委託をした場合にあつては,第1号及び第4号を除く。)に掲げる行為をしてはならない。

五 下請事業者の給付の内容と同種又は類似の内容の給付に対し通常支払われる対価に比し著しく低い下請代金の額を不当に定めること。


 独占禁止法

公正取引委員会ガイドライン
「役務の委託取引における優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の指針」(H16.3.31改訂)


役務の委託取引において委託者が受託者に対し取引上優越した地位にある場合とは、受託者にとって委託者との取引の継続が困難になることが事業経営上大きな支障を来すため、委託者が受託者にとって著しく不利益な要請等を行っても、受託者がこれを受け入れざるを得ないような場合であり、その判断に当たっては、受託者の委託者に対する取引依存度、委託者の市場における地位、受託者にとっての取引先変更の可能性、取引当事者間の事業規模の格差、取引の対象となる役務の需給関係等を総合的に考慮する。

独占禁止法関係法令集検索システム(公正取引委員会)



■コメント

外部のプログラマーとのあいだの
プログラム開発委託契約の成否、著作権の帰属、
報酬額などの事実認定をめぐる紛争です。


本事案のプログラムは、
ゲームソフトそのもののプログラムではなくて
プレステ本体やゲームソフトに組み込まれる
ライブラリ等のプログラム。


プログラマーはプレステの売上高を根拠として
当初11億円にものぼる著作権使用料を
要求しましたが(訴訟では59億円余)、
発注者側はあくまで
著作権「買取」契約であるとして
要求を容れませんでした。

プレステ開発会社は設立当初という
こともあって、
会社内部の事務処理がごたごたしていて
契約書の交付が遅くなった、
開発部と法務部との連携が
整っていなかったことなども
紛争の遠因のようです。

もっとも、取り交わされていた
いくつかの契約書の記載や取引の経緯をみると
プログラマー側の言い分には
苦しいところがあったと思います。


社外の個人プログラマーとの
開発委託契約の際に
法人著作の成立を主張するのは
疑義の発生する可能性が高いので
細かいことを云えば
契約書に「原始的帰属」と書くよりは
「譲渡」+「著作者人格権不行使」
としたほうが明確かもしれません。


本事案は、プログラム開発現場の
契約の状況を伝える素材として
参考になるのではないでしょうか。



■参考文献

並川啓志「技術者のためのライセンスと共同研究の留意点第三版」(2004)123頁以下
古谷栄男、松下正ほか著「知って得するソフトウェア特許・著作権改訂四版」(2005)108頁以下
新しいソフトウェア開発委託取引の契約と実務」(2002)241頁以下
小林覚、渡邊新矢ほか著「独占禁止法の法律相談」(2005)449頁以下
金井貴嗣、川浜昇、泉水文雄編著「独占禁止法」(2004)300頁以下
飯島澄雄「挿絵の著作権譲渡契約ー原色動物大図鑑事件」
    『著作権判例百選第二版』(1994)166頁以下