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2006年04月15日

「教科書副教材著作権侵害」事件〜 著作権 損害賠償請求事件判決(知的財産裁判例集)〜

裁判所HP 知的財産裁判例集より

東京地裁平成18.3.31 平成15(ワ)29709 損害賠償PDF

東京地方裁判所民事第47部
裁判長裁判官 高部眞規子
裁判官    東海林保
裁判官    田邉実



■事案

教科書に準拠した副教材として製作された
小学生用国語テスト等の著作権侵害性が
争われた事案


■結論

請求一部認容(原告作家側勝訴)



■争点

条文 著作権法第36条1項、20条、19条、民法724条

1 「試験問題としての複製等」該当性(36条1項)
2 同一性保持権侵害性(20条)
3 氏名表示権侵害性(19条)

4 訴えの追加的変更の許否(略)
5 「損害を知りたる時」(民法724条)(略)
6 権利濫用の成否(略)
7 損害、利得の算定(略)


■判決内容

1 「試験問題としての複製等」該当性(36条1項)


「試験又は検定の問題」の意義について、

公表された著作物は,入学試験その他人の学識技能に関する試験又は検定の目的上必要と認められる限度において,当該試験又は検定の問題として複製することができ(著作権法36条1項,また,営利を目的として前記複)製を行う者は,通常の使用料の額に相当する額の補償金を著作権者に支払わなければならない(同条2項。これらの規定は,入学試験等の人の学識技)能に関する試験又は検定にあっては,それを公正に実施するために,問題の内容等の事前の漏洩を防ぐ必要性があるため,あらかじめ著作権者の許諾を受けることは困難であること,そして,著作物を上記のような試験又は検定の問題として利用したとしても,一般にその利用は著作物の通常の利用と競合しないと考えられることから,試験又は検定の目的上必要と認められる限度で,かつ,著作物を試験又は検定の問題として複製するについては,一律に著作権者の許諾を要しないものとするとともに,その複製がこれを行う者の営利の目的による場合には,著作権者に対する補償を要するものとして,利益の均衡を図る趣旨であると解される。
そうすると,試験又は検定の公正な実施のために,その問題としていかなる著作物を利用するかということ自体を秘密にする必要性があり,そのために当該著作物の複製についてあらかじめ著作権者から許諾を受けることが困難である試験又は検定の問題でない限り,著作権法36条1項所定の「試験又は検定の問題」としての複製に当たるものということはできないと解される。

(97頁)

と判示。

そのうえで、

前記2(1)及び(2)で認定した本件国語テストの性質及び本件国語テストにおける本件各著作物の取扱いの状況からすれば,本件各教科書に掲載されている本件各著作物が本件国語テストに利用されることは,当然のこととして予測されるものであるから,本件国語テストについて,いかなる著作物を利用するかということについての秘密性は存在せず,そうすると,そのような秘密性のために,著作物の複製について,あらかじめ著作権者の許諾を受けることが困難であるような事情が存在するということはできない。
(98頁)

として、36条1項該当性を否定しました。

平成12年の仮処分東京高裁決定と
同様の内容となっています。



2 同一性保持権侵害性(20条)


 1 意に反する改変か(20条1項)


判例は、

著作権法20条1項は,著作者が著作物の同一性を保持する権利を有しその意に反して改変を受けないことを規定するところ,著作物は,思想又は感情を創作的に表現したものであるから(著作権法2条1項1号参照),著作者の意に反して思想又は感情の創作的表現に同一性を損なわせる改変が加えられた場合に同一性保持権が侵害されたというべきである。
そして,同一性保持権は,著作者の精神的・人格的利益を保護する趣旨で規定された権利であり,侵害者が無断で著作物に手を入れたことに対する著作者の名誉感情を法的に守る権利であるから,著作物の表現の変更が著作者の精神的・人格的利益を害しない程度のものであるとき,すなわち,通常の著作者であれば,特に名誉感情を害されることがないと認められる程度のものであるときは,意に反する改変とはいえず,同一性保持権の侵害に当たらないものと解される。
(99、100頁)

このように規範を示しました。

後段部分で人格的利益の侵害の
「程度」について触れた点は
判例としては新しいものではないかと
思われます。

学説上、「程度」について言及しているものとして
半田先生(後掲書122頁)、田村先生(後掲書436頁)の
見解があります。

これに対して、原則的に一字一句、句読点や改行などの
改変も認めない厳格な説として、安倉判事の見解
(後掲書279頁)があげられます。
(なお、作花・後掲書241頁、加戸・後掲書171頁参照)


そして、具体的な変更部分についての
判断ですが、

本件各著作物にある単語,文節ないし文章を削除し,本件各著作物にない単語,文節ないし文章を加筆し,本件各著作物の単語を全く別の単語に置き換え,又は本件各著作物にある単語を空欄にするなどしたものである。このような変更は,いずれも,文字による表現自体を変更するものであるから,本件各著作物における文字によって表された思想又は感情の創作的表現の同一性を損ない,原告らの人格的利益を害しない程度のものとはいえないから,著作権法20条1項所定の同一性保持権の侵害に当たるというべきである。
(101頁)

つまり、
 
   同一性を損なう
     + 
   意に反する(程度)


として、文字の加筆や削除部分については
同一性保持権侵害を肯定しました。


ただ、そのほかの具体的な変更部分についての
あてはめですが、


・文章と不可分一体で分離ができない場合ではない
 挿絵・写真の差し替え


   同一性を損なわない
      +
   「意に反する」ものではない

   侵害性否定(104頁)


・傍線や波線の付加
・字体を太字に変更
・段落の上部に番号を付加
・教師用の注意書を加筆


   同一性を損なわない
  (「そもそも改変にあたらない」

   侵害性否定(104頁)


などとしています。

このように、本判決では
「意に反する」「改変」要件について
同一性の有無と侵害性の程度の点から
詳細に検討しているように見えますが、
「改変」部分にかかわる
同一性判断の基準が規範部分には
示されていません。

この点については、あてはめの部分で
著作物の文字による表現自体の変更」か
どうかという観点から判断しているようですが
(101、104頁)
こうした視点が妥当かどうか
さらに検討の余地があると思われます。


なお、1項の「意に反する」、「改変」そして
2項4号の相互の関係性、条文構造について
野一色後掲論文677頁以下参照。


 2 やむを得ない改変か(20条2項4号)

同一性保持権侵害にあたるとされた
文字の加筆や削除部分について、
4号では1号乃至3号に定める場合と
同程度の改変の必要性の存在が求められるが、
本件ではそのような事情が認められないとして
やむを得ない改変とはされませんでした。
(102頁以下)


3 氏名表示権侵害性(19条)

氏名の表示がなく、また
同条3項所定の表示を
省略できる場合でもないとして
侵害性が肯定されています(107頁)。





■コメント


同一性保持権にかかわる最近の裁判例としては、
「講習会資料職務著作」事件
(東京地方裁判所 平成18年02月27日)がありました
(末尾過去ブログ記事参照)。

そこでは、具体的な変更部分について
表現を平易にした」ものに過ぎないものは
「改変」にあたらない、
との判断を示していて、
法政大学懸賞論文」事件に較べると
同一性保持権侵害となる「意に反する改変」について
かなり緩やかに判断しているとの印象を
与えるものでした。

本事案での判断もまた、
かなり緩やかに「改変」自体を
捉えているのではないか思われます。


従来の学説・判例に対するものとして
今後の裁判所の判断傾向が
注目されます。


なお、下記掲載の日本ビジュアル著作権協会
サイトをみると
同協会が支援している訴訟が複数あったことが
わかります。



■参考判例


教科書副教材に関する訴訟

・頒布等差止仮処分事件
東京高裁平成12年09月11日平成12(ラ)134 著作権 民事仮処分

・エズラ・ジャック・キーツ財団事件
東京高裁平成16年06月29日平成15(ネ)2515等 出版差止請求控訴,同附帯控訴事件

・出版差止請求控訴・同附帯控訴事件
東京高裁平成16年06月29日平成15(ネ)2467 著作権 民事訴訟

  (原審) 
東京地裁平成15年03月28日平成11(ワ)13691

 そのほか

月刊雑誌「諸君」論評事件
平成10年7月17日 最高裁(二小)平成6年(オ)第1082号 反論文掲載等請求事件
日本ユニ著作権センター/判例全文・1998-07-17


法政大学懸賞論文事件
東京高裁平成3年12月19日平成2(ネ)4279著作権 民事訴訟

著作権法二〇条一項は著作者はその著作物及び題号について同一性を保持する権利を有するとして、いわゆる同一性保持権を規定しているものであるが、同項にいうところの、著作物及び題号についてのその意に反する「変更、切除その他の改変」とは、著作者の意に反して、著作物の外面的表現形式に増減変更を加えられないことを意味するものと解するのが相当であるところ、かかる見地からみると、被控訴人の前記各行為が本件論文の外面的表現形式に増減変更を加えたものであることは、明らかというべきである。
(3頁)


「講習会資料職務著作」事件
東京地方裁判所 平成18年02月27日平成17(ワ)1720 著作権 民事訴訟

  東京地方裁判所民事第29部
  裁判長裁判官 清水節
  裁判官    山田真紀
  裁判官    東崎賢治




■参考文献

野一色勲「同一性保持権と財産権」
    『紋谷暢男教授還暦記念 知的財産権法の現代的課題』(1998)641頁以下
田村善之「著作権法概説第二版」(2001)435頁以下
斉藤博 「新著作権法と人格権の保護」『著作権研究4』(1971)頁以下
元木伸 「論文の改変ー法政大学懸賞論文事件」
    『著作権判例百選第三版』(2001)108頁以下
上野達弘「著作者人格権をめぐる立法的課題
    『知的財産法の理論と現代的課題ー中山信弘先生還暦記念論文集
     (2005)349頁以下
 同  「著作者人格権の生成と発展」
    『小野昌延先生古稀記念論文集 知的財産法の系譜』(2002)567頁以下
半田正夫「著作権法概説第12版」(2005)121頁以下
斉藤博 「著作権法第二版」(2004)149頁以下
三山裕三「新版改訂 著作権法詳説ー判例で読む16章」(2005)149頁以下
上田洋幸「著作者人格権の侵害行為」牧野利秋・飯村敏明編
    『新・裁判実務大系 著作権関係訴訟法』(2004)482頁以下
加戸守行「著作権法逐条講義五訂新版」(2006)171頁以下
作花文雄「詳解著作権法第三版」(2004)240頁以下、388頁
中山信弘「ソフトウェアの法的保護新版」(1988)66頁
金井重彦、小倉秀夫編著「著作権法コンメンタール上巻」(2000)291頁以下
安倉孝弘「著作権関係事件の研究」秋吉稔弘編(1987)279頁
「シンポジウム 著作権法制と人格権」『著作権研究23号(1996)』(1997)1頁以下


■関連サイト

日本ビジュアル著作権協会

「JVCAの歴史2 文芸作品に対する
 著作権侵害も徹底追及〜文芸作家への支援」ページ参照



■関連ブログ

「企業法務戦士の雑感」
[企業法務][知財] 速報の速報〜国語テスト事件

「言いたい放題〜I say what I wanna say〜」
[著作権][裁判]国語副教材事件判決


■過去のブログ

駒沢公園行政書士事務所日記「講習会資料職務著作」事件〜著作権 損害賠償等請求事件判決(知財判決速報)〜 - livedoor Blog(ブログ)




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