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2006年04月03日

「ホームページ著作権侵害」事件(スメルゲット事件)控訴審〜著作権 損害賠償請求事件判決(知的財産裁判例集)〜

裁判所HP 知的財産裁判例集より

知財高裁平成18.3.29判決 平成17年(ネ)第10094号請負代金請求控訴事件PDF

知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官 塚原朋一
裁判官    田中昌利
裁判官    清水知恵子


原審判例集未登載


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■事案

ホームページ上の広告商品の写真や
文章などを無断使用されたとして
写真や文章の著作物性を争った事案


■結論

一部認容(原告側一部勝訴)



■争点

条文
著作権法第10条1項8号、21条、114条の5、民法709条

1 販売商品の写真の著作物性
2 販売商品にかかわる文章の著作物性(略)
3 ホームページの編集著作物性(略)
4 損害額の認定(114条の5)(略)


■判決内容

1 ホームページに掲載された販売商品の写真の著作物性

まず、判例は、

ある写真が,どのような撮影技法を用いて得られたものであるのかを,その写真自体から知ることは困難であることが多く,写真から知り得るのは,結果として得られた表現の内容である。撮影に当たってどのような技法が用いられたのかにかかわらず,静物や風景を撮影した写真でも,その構図,光線,背景等には何らかの独自性が表れることが多く,結果として得られた写真の表現自体に独自性が表れ,創作性の存在を肯定し得る場合があるというべきである。』(6頁)

として、写真の特殊性から
あくまで結果として外部に現れた
写真の表現自体から創作性の判断をするとの
一般論について言及。

そのうえで、

もっとも,創作性の存在が肯定される場合でも,その写真における表現の独自性がどの程度のものであるかによって,創作性の程度に高度なものから微少なものまで大きな差異があることはいうまでもないから,著作物の保護の範囲,仕方等は,そうした差異に大きく依存するものというべきである。したがって,創作性が微少な場合には,当該写真をそのままコピーして利用したような場合にほぼ限定して複製権侵害を肯定するにとどめるべきものである。』(7頁)

創作性の程度と複製権侵害の判断は
相関関係のなかで行われるべきものとの
枠組みを示しました。


そして、本件写真について

被写体の組合せ・配置,構図・カメラアングル,光線・陰影,背景等にそれなりの独自性が表れているのであるから,創作性の存在を肯定することができ,著作物性はあるものというべきである。他方,上記判示から明らかなように,その創作性の程度は極めて低いものであって,著作物性を肯定し得る限界事例に近いものといわざるを得ない。』(8頁)

そこで,本件各写真の複製権の侵害の有無について考えるに,本件各写真の創作性は極めて低いものではあるが,被控訴人らによる侵害行為の態様は,本件各写真をそのままコピーして被控訴人ホームページに掲載したというものである(同事実は当事者間に争いがない。)から,本件各写真について複製権の侵害があったものということができる。』(8〜9頁)

として、
創作性を一応肯定しつつも
商品写真という商業写真の
性質上創作性は低いが、
デッドコピー(そのままコピー)であることから
複製権侵害は肯定されると判示しました。

■コメント

創作性の程度と侵害の成立範囲(保護範囲)の
議論を関連付ける見解(いわゆるデッドコピー論
山本隆司「複製権侵害の成否」牧野利秋・飯村敏明編
新・裁判実務大系 著作権関係訴訟法』(2004)頁以下)
は、裁判所が近時採るところです。

たとえば、

・サイボウズビジネスソフトウエア事件
東京地裁H13.6.13決定 H13(ヨ)22014号 著作権仮処分申立事件(判例時報1761号(2001)135頁)

・ホテルジャンキーズ事件
東京高等裁判所 平成14年10月29日平成14(ネ)2887著作権民事訴訟PDF


また、
先日このブログで取上げた
「法律書籍著作権侵害」事件控訴審裁判例でも
原審において
著作物性の判断と侵害の範囲について
両者の相関関係の中で判断が加えられています。

そしてその原審判断部分を今回の事案の
知財高裁4部の同じ裁判官メンバーが控訴審判決で
引用してます(12頁参照)。


・「法律書籍著作権侵害」事件控訴審
「法律書籍著作権侵害」事件控訴審〜著作権損害賠償等請求事件判決(知的財産裁判例集)〜2006年03月29日

 原審
H17. 5.17 東京地裁 平成15(ワ)12551等 著作権 民事訴訟事件PDF

 東京地方裁判所民事第47部
 裁判長裁判官 高部眞規子
 裁判官     東海林保
 裁判官     熊代雅音


このように本件控訴審判決は、
ホテルジャンキーズ事件判決などと
基本的に同じ立場にあります。


本来、創作性の判断と侵害の成否の問題は
別の次元のもので
そもそも創作性の「程度」を
問題とするべきではないとの
見解(たとえば、斉藤博「著作権法第二版」(2004)76頁)
を前提とするならば
創作性の有無を侵害性との相関関係で判断するのは
理論的ではないと考えられます。
(「著作権関係事件の研究」(1987)30頁、
 また、デッドコピー論に対する批判として、
 山本前掲書論文参照。)


著作物性が認められない場合は
一般不法行為論での対応を検討すればよく
(この点については、末尾参考ブログ参照)、
逆に著作物性を肯定する場合、
複製権侵害の有無は
依拠性類似性の観点から判断すればよい
(絞りをかければよい)はずです。


なお、裁判所の判断と同様の立場として、
西田美昭、熊倉禎男、青柳沙卻
民事弁護と裁判実務8 知的財産権」(青柳沙辧法1998)558頁。


著作物性を広く(緩やかに)認めたうえで
侵害の範囲を絞って調整する
アメリカ流の思考方法か、
日本の従来の立場のように
ある程度著作物性判断で絞りをかけてしまうのか。

こうしたスタンスの違いが
どのように影響してくるのかという点も
今後検討が必要になると思われます。
(D・S・カージャラ、椙山敬士「日本ーアメリカ コンピュータ・著作権法
  (1989)255頁以下、298頁、
 「著作権の法律相談第二版」(水戸重之)(2005)27頁以下)


本事案の原審判決をネット上検索しても
関係する記載を見つけることが出来ず、
また、事案の内容が最近よくある種類の
紛争であったことから
たいへん関心を持ちました。

そこで、原告の方にはたいへん不躾ながら
連絡を直接取らせていただき
訴訟に至る経緯や今回の事件に対する思いなどを
お伺いしました。

原告の方にはお忙しいところ大変丁寧に
対応していただきました。


まず、はじめに疑問に思ったことは
事件名が「請負代金」請求事件でしたので
被告会社側と契約関係などがあったのかどうか
という点です。

この点は、本人訴訟ということから
原告の方が独自の観点から法律構成された結果で
被告側とはなんら契約関係はないということが
分かりました。
まったくの無断使用(盗用)でした。


次に、原審では請求棄却という判断でしたが
写真の著作物性についての判断も
下されていたかどうかという点。

この点について、原審では
著作物性が否定されていたそうです。

このあたりのことは、原告の方から伺った
ブログや掲示板の記載からも
うかがい知ることができます。


今回の訴訟提起では
原審、控訴審で訴訟費用としては
合計7万円ほどかかったそうです。

本人訴訟で代理人を立てずいろいろと
ご苦労があったと思われますが
著作権侵害に対して
決して泣き寝入りしないという
強い意思のもとで、今回控訴審では
一転して著作権侵害を認める判決を
得るに至りました。

損害賠償額については
とても現状の裁判での認定額では
原告側の満足のいかないレベルのものであるので
金額の大小だけでは訴訟の意義は判断できません。

原告としては、自己の名誉感情の回復、被告企業側に対する
社会的制裁という意義付けで
提訴に至ることが多いのではないかと思います。

そういう意味で、今回控訴審で
著作物性が認定され
さらに著作権侵害が認められたことは
原告にとって実質的な勝訴といって
良いかと思います。


ネット上での同種の著作権侵害の事案ではふつう、
訴訟費用や手間を考えて
泣き寝入りする被害者が多い状況からすると
今回の判例はひとつの先例となるのではないか。

また、ネットで安易に他人の著作物を無断使用して
しかも事後処理を誤ると
企業イメージ、信用をふくめて
加害企業は相応のダメージを受けかねないことを
強く印象付けることとなる事案でした。


■参考判例


・みずみずしい西瓜事件
東京高裁 平成13年06月21日平成12(ネ)750 著作権 民事訴訟

・石垣写真事件
仙台高裁 平成9年01月30日平成7(ネ)207 著作権 民事訴訟


■参考文献


・創作性について

中山信弘「創作性についての基本的考え方」
    『著作権研究28号(2001)』(2003)2頁以下
斉藤 博 前掲書93頁以下


・写真の著作物性について

椙山敬士「ソフトウェアの著作権・特許権」(1999)77頁以下
山本桂一「著作権法」(1969)246頁以下
田村善之「著作権法概説第二版」(2001)95頁以下
作花文雄「著作権法 基礎と応用第二版」(2005)42頁以下
半田正夫編著「著作権のノウハウ第六版」(千野直邦)(2002)129頁以下
半田正夫「著作権法概説第12版」(2005)頁以下
牧野利秋、飯村敏明編「新・裁判実務大系 著作権関係訴訟法」(2004)140頁以下
加戸守行「著作権法逐条講義五訂新版」(2006)123頁以下
金井重彦、小倉秀夫編著「著作権法コンメンタール上巻」(2000)226頁以下
相澤英孝「美術の撮影ー版画の写真事件」
    『著作権判例百選第三版』(2001)42頁以下
本橋光一郎「動物の撮影ーイルカの生態写真」同前書44頁以下
播磨良承「帆船写真の複製ー「海王丸」事件」
    『著作権判例百選』(1987)128頁以下
茶園成樹「写真の著作権・編集著作権の侵害の成否ー商品カタログ事件ー」
    『著作権研究25号(1998)』(1999)209頁以下
山上和則「写真の著作物性」
    『村林楼貔萓幻典記念 判例著作権法』(2001)276頁以下




■参考ブログ

「企業法務戦士の雑感」さんがブログ記事で
知財高裁第4部の判断などに言及されています。

「企業法務戦士の雑感」
[企業法務][知財] 著作権への逆風?


■追記(06.4.6)

プログラム著作物を著作権法で保護することを
きっかけとして機能的、事実的著作物の創作性と
古典的著作物(小説や絵画)の創作性の判断基準の
ありかたについて検討が行われています。

ドイツ著作権法上みられるような、
創作性の水準の高いものを保護するという
法制のありかた、また創作性を
客観的側面から判断する場合の
人格権概念とのかかわりの点もふくめて
創作性判断の構造論について
さらに考えてみたいところです。


この点については、
著作権研究28号(2001)』(2003)2頁以下に
中山信弘先生の「創作性についての基本的考え方」を
はじめとして、
島並良「二次創作と創作性」(28頁以下)、
また、
「シンポジウム『創作性』討論」(37頁以下)が
参考になります。

さらに、
横山久芳「編集著作物概念の現代的意義
ー「創作性」の判断構造の検討を中心としてー」
著作権研究30号(2003)』(2004)156頁以下
ではドイツ法の分析を通して
選択の「蓋然性」について言及されています。

そのほか

潮海久雄「職務著作制度の基礎理論」(2005)82頁以下


■追記(06.9.9)

本判決の評釈として、
三浦正広「ホームページ上の広告販売用商品写真の著作物性」
『コピライト』46号(2006.9)43頁以下参照。

written by ootsukahoumu at 14:09│TrackBack(1)知財判決速報2006 

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1. 再び著作権裁判へ突入か……?  [ プロ作家 松本肇 のブログ \(^◇^)/ ★×10、☆×2、△×3 ]   2010年06月12日 14:18
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