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2006年03月31日

「リヒャルト・シュトラウス戦時加算特例法適用」事件〜著作権 不当利得返還請求事件判決(知的財産裁判例集)〜

裁判所HP 知的財産裁判例集より

平成18.3.22東京地裁 平成17年(ワ)第2782号不当利得返還請求事件PDF

東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官 清水節
裁判官    山田真紀
裁判官    片山信


■別件訴訟(「ナクソス島のアリアドネ」事件)

ブージー・アンド・ホークス(ブージー社)VS日独楽友協会

★控訴審
H15.6.19 東京高裁 平成15(ネ)1752 著作権 民事訴訟事件(裁判所旧サイト)

★原審
H15.2.28 東京地裁 平成14年(ワ)第15432号 損害賠償請求事件PDF

H15.12.19上告不受理決定
(ブージー社敗訴確定)


■事案

ドイツ国民であるリヒャルト・シュトラウスの
楽曲に関する著作権の保護期間について
戦時加算特例法が適用されるかどうかが
争われた事案


■結論

請求認容(ジャスラック勝訴)



■争点

条文 著作権法第51条2項、57条、
戦時加算特例法4条1項、民法704条、705条



 戦時加算特例法第4条1項の適否


■判決内容

 戦時加算特例法第4条1項の適否について

まず、戦時加算特例法の趣旨および
同法4条1項の適否の判断基準について言及。

戦時加算特例法が,日本国との平和条約15条(C)の規定に基づいて制定されたものであり(同法1条),その趣旨が,戦時中,連合国又は連合国民が有していた著作権については,日本においてこれを行使し得ず,実質的な保護が図られなかったことから,存続期間の例外を定めたという点にあることにかんがみると,同法4条1項の適用に当たっては,戦時中,当該著作権の行使が日本において完全に否定されていたか否かという観点から,「連合国及び連合国民が有していた著作権」と評価できるか否かを検討すべきものと解される。』(25頁、26頁)

そのうえで問題となった上演権、演奏権、録音権の
各支分権の日本での行使の可能性について検討。

結論としてリヒャルト・シュトラウスなど
連合国民ではない者が日本において
上記各権利を行使する可能性があったと判断。

よって、戦時加算特例法4条1項の適用は
ないとされました。


戦時加算(3794日)がされない結果、
リヒャルト・シュトラウスの楽曲の
上記著作権は1950年1月1日(1949年没)を
起算日として50年を経過した
1999年12月31日に保護期間満了を
迎えたこととなります(著作権法51条2項、57条)。


なお、原告のジャスラックは
保護期間満了後に徴収した著作権使用料のうち
被告に支払済みの分配金の
不当利得返還を訴求したわけですが、
全額認められました。


■コメント

交響詩「英雄の生涯」や「アルプス交響曲」
歌劇「ナクソス島のアリアドネ」などの楽曲で有名な
リヒャルト・シュトラウスの著作権の保護期間が
争われました。


ドイツ国民であったリヒャルト・シュトラウスに
著作権が帰属していれば、第二次世界大戦中ドイツは
日本と同盟国関係にある以上、
連合国民の権利保護を規定した
戦時加算特例法の適用は
ないことになります。

実際にはドイツ法人の著作権管理会社などを経て
イギリス法人である音楽出版社に
著作権の管理権限が委譲されていました。

著作権が信託的譲渡されていて
リヒャルト・シュトラウス側において
著作権の行使が出来ない場合であれば
同法の適用の可能性が出てきます。

これに対し、
たんに管理委託されていただけであれば
リヒャルト・シュトラウス側において
戦時中に日本国内で著作権を行使する
可能性が出てくるので
戦時特例法の適用はないことになります。


このように本事案また別件訴訟では
R・シュトラウス側に著作権行使の可能性が
あったのかどうか、
楽曲の著作権が信託的譲渡されていたのか
たんに管理委託されていたのかという
観点から、
契約関係の事実認定が最大の争点と
なりました。

ドイツ語の語彙や契約書規定、
1912年当時の著作権取扱慣行、また書簡など
さまざまな観点から検討が加えられて、
楽曲の著作権の取扱いについては
実質的には管理委託されていたにすぎない、
戦時加算特例法4条1項にいう
「連合国民が有していた著作権」には
当たらない
と判断されたわけです。


別件訴訟で事実関係が確定していて
新たな証拠があるわけでもなく
先の裁判所の判断を覆す
状況ではない以上、
被告側としては勝ち目の少ない
訴訟であったといえます。


■連合国及び連合国民の著作権の特例に関する法律(戦時加算特例法)

(著作権の存続期間に関する特例)
第四条 昭和十六年十二月七日に連合国及び連合国民が有していた著作権は、著作権法に規定する当該著作権に相当する権利の存続期間に、昭和十六年十二月八日から日本国と当該連合国との間に日本国との平和条約が効力を生ずる日の前日までの期間(当該期間において連合国及び連合国民以外の者が当該著作権を有していた期間があるときは、その期間を除く。)に相当する期間を加算した期間継続する。

著作権関連法令集(著作権情報センター)


■参考判例

アルフォンス・ミュシャ事件
H10.3.20 東京地裁 平成9(ワ)12076 著作権侵害排除等請求事件(日本ユニ著作権センター/判例全文・1998-03-20)



■参考文献

牧野利秋・飯村敏明編「新・裁判実務大系 著作権関係訴訟法」(2004)85頁以下
加戸守行「著作権法逐条講義五訂新版」(2006)360頁以下
作花文雄「詳解著作権法第三版」(2004)401頁以下
田村善之「著作権法概説第二版」(2001)292頁以下



written by ootsukahoumu at 01:30│TrackBack(0)知財判決速報2006 

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