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2006年03月29日

「法律書籍著作権侵害」事件控訴審〜著作権損害賠償等請求事件判決(知的財産裁判例集)〜

裁判所HP 知的財産裁判例集より

★控訴審
知財高裁平成18.3.15判決 平成17年(ネ)第10095号損害賠償等請求控訴事件PDF

知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官 塚原朋一
裁判官    田中昌利
裁判官    清水知恵子



★原審
H17.5.17 東京地裁 平成15(ワ)12551等 著作権 民事訴訟事件PDF

東京地方裁判所民事第47部
裁判長裁判官 高部眞規子
裁判官     東海林保
裁判官     熊代雅音

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・過去のブログ記事

法律書籍著作権侵害事件〜知財判決速報〜(2005年05月25日)

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■事案

債権回収や契約、手形小切手などの法律問題について
一般人向けに解説した書籍の表現の著作物性(創作性)が
争われた事案

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■結論

一部変更

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■争点

条文 著作権法第2条1項1号、民法709条

1 著作者の特定(略)
2 依拠性(略)
3 法律問題の表現の創作性
4 デッドコピーの際の一般不法行為の成否

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■判決内容

3 法律問題の表現の創作性


著作物性、複製権侵害などの総論部分については
原審の判断を引用しています。

原審では、

ある法律問題について,関連する法令の内容や法律用語の意味を説明し,一般的な法律解釈や実務の運用に触れる際には,確立した法律用語をあらかじめ定義された用法で使用し,法令又は判例・学説によって当然に導かれる一般的な法律解釈を説明しなければならないという表現上の制約がある。そのゆえに,これらの事項について,条文の順序にとらわれず,独自の観点から分類し普通に用いることのない表現を用いて整理要約したなど表現上の格別の工夫がある場合はともかく,法令の内容等を法令の規定の順序に従い,簡潔に要約し,法令の文言又は一般の法律書等に記載されているような,それを説明する上で普通に用いられる法律用語の定義を用いて説明する場合には,誰が作成しても同じような表現にならざるを得ず,このようなものは,結局,筆者の個性が表れているとはいえないから,著作権法によって保護される著作物としての創作性を認めることはできないというべきである。よって,上記のように表現上の創作性がない部分において同一性を有するにすぎない場合には,複製にも翻案にも当たらない。
  他方,表現上の制約がある中で,一定以上のまとまりを持って,記述の順序を含め具体的表現において同一である場合には,複製権侵害に当たる場合があると解すべきである。すなわち,創作性の幅が小さい場合であっても,他に異なる表現があり得るにもかかわらず,同一性を有する表現が一定以上の分量にわたる場合には,複製権侵害に当たるというべきである。
』(12頁)

と判示していました。


具体的な著作物性についての判断ですが、
以下の3箇所の記述について
原審では著作物性を肯定していましたが、
控訴審ではことごとく否定しました(12頁以下)。


(1) 債権の二重譲渡の際の通知、同時到達の取扱い

1頁に及ぶ記載であったが、
その表現自体がありふれたもの』であるとして
創作性を否定。

(2) 公証制度における確定日付の役割

2頁に及ぶ記載であったが、
用語等において同一性はあるものの,法令の内容や実務の運用から導かれる当然の事項を普通に用いられる言葉で表現したものにすぎず,創作的な表現であるとはいえない。

として、創作性を否定。

(3) 示談書作成の際の注意点

法令や判例・学説及び実務の運用から導かれる当然の事項を普通に用いられる言葉で表現したものにすぎず,創作的な表現であるとはいえない。

同じく創作性を否定。


4 デッドコピーの際の一般不法行為の成否

この点について、判例は、

控訴人各文献を構成する個々の表現が著作権法の保護を受けられないとしても,故意又は過失により控訴人各文献に極めて類似した文献を執筆・発行することにつき不法行為が一切成立しないとすることは妥当ではない。執筆者は自らの執筆にかかる文献の発行・頒布により経済的利益を受けるものであって,同利益は法的保護に値するものである。そして,他人の文献に依拠して別の文献を執筆・発行する行為が,営利の目的によるものであり,記述自体の類似性や構成・項目立てから受ける全体的印象に照らしても,他人の執筆の成果物を不正に利用して利益を得たと評価される場合には,当該行為は公正な競争として社会的に許容される限度を超えるものとして不法行為を構成するというべきである。』(16頁)

として、著作権法上の保護が与えられない場合であっても
民法上の一般不法行為論で保護される場合があるとの
一般論に言及。

そのうえで、本件事案では少なくとも過失のもと
控訴人の執筆の成果物を不正に利用して利益を
得ていたとして被告らの不法行為責任を肯定しました。


なお、近時の著作権侵害事案で
一般不法行為論に言及された判例として
読売オンライン事件」があります。
(H17.10. 6 知財高裁 平成17(ネ)10049 著作権 民事訴訟事件)

・過去のブログ記事

新聞記事見出しの著作物性〜読売新聞VSデジタルアライアンス事件控訴審判決〜(2005年10月12日)

読売新聞記事見出し著作権訴訟について(補足)(2005年10月19日)

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■コメント

裁判所のサイトがリニューアルされてから(3月22日)
はじめての知財判決についてのブログ記事となります。

判決文がPDF化したことによって印刷打ち出しに紙数が
かなり必要となりましたが、その点を差引いてもいままで
以上に使い勝手の良いサイトとなって欲しいものです。

とりあえずPDFで頁割がされたことで参照がしやすくなりました。


さて、原審では一部著作権侵害が肯定されていました。

ところが、控訴審ではことごとく著作物性(創作性)が
否定されています。

なかでも著作物の1〜2頁にも及ぶ記述に著作物性がないと
判断されている点はせっかく一般向けに分かりやすく工夫
をして書いたのにそのことがかえってありふれた表現にな
ってしまって著作権が発生しない、だなんて執筆者として
も納得がいかないところではないでしょうか。

原審と控訴審とで判断が分かれた3箇所の表現部分につい
ては、原審では別紙で検討が加えられていましたが、
別紙が裁判例集には添付されていないため裁判所のサイト
からは詳細な内容はわかりません。
(判決中の重要な争点部分なので、この点の掲載が欠ける
のは残念です。)

ただ、控訴審の判示部分から争点となった表現がどういう
内容のものかは垣間見ることができます。

債権の二重譲渡の問題、公証制度と確定日付、示談書作成
上の問題等でしたが、これらの記述の著作物性を否定して
も今回の事案は、一般不法行為論(民法709条)として保護
できる事案(ほぼ、デッドコピー)であったことから
バランス感覚、具体的妥当性という点では原審とさほど変わ
らないといえるかもしれません。

もっとも、原審では著作権侵害を認めることによって出版差
止請求(著作権法112条1項)も認容していましたから、その
点の法的効果の差異は大きいものといえます。

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■参考判例

大阪高裁S38.3.29「簿記仕訳盤事件(2)」(「最新著作権関係判例集2-1」74頁以下)
東京地裁S 6.7.24「訟廷日誌事件(A)」ほか(「最新著作権関係判例集2-1」90頁以下)
大阪地裁S54.9.25「発光ダイオード学位論文事件」(「最新著作権関係判例集3」4頁以下)
東京高裁H 7.5.16「出る順宅建事件」(東京高裁平成7年05月16日平成6(ネ)3132 PDF)

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■参考文献

田村善之「著作権法概説第二版」(2001)11頁以下
三山裕三「新版改訂 著作権法詳説ー判例で読む16章」(2005)31頁以下
牧野利秋・飯村敏明編「新・裁判実務大系 著作権関係訴訟法」(2004)134頁以下
作花文雄「詳解著作権法第三版」(2004)92頁以下
村林楼貔萓幻典記念 判例著作権法」(2001)17頁以下、30頁以下

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■参考文献(追記08/10/31)

山根崇邦「著作権侵害が認められない場合における一般不法行為の成否-通勤大学法律コース事件-」
『知的財産法政策学研究』18号(2007)221頁以下

山本隆司、井奈波朋子「創作性のない表現をデッドコピーした場合における不法行為の可否」
『小松陽一郎先生還暦記念論文集 最新判例知財法』(2008)658頁以下

三浦正広「著作権侵害と不法行為法理の機能-著作権の保護と競争秩序の維持」
『現代社会と著作権法 斉藤博先生御退職記念論集』(2008)361頁以下

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■追記09/08/28

「ひとりで出来る 過払い金回収完全ガイド」法律書籍事件

弁護士で構成される名古屋消費者信用問題研究会が平成21年8月25日、過払いに関する書籍中の記載の類否を巡り弁護士法人及び同代表者弁護士に対する損害賠償等請求訴訟を名古屋地方裁判所に提起した事件。

アディーレ訴訟に関するニュース 名古屋消費者信用問題研究会





written by ootsukahoumu at 23:43│TrackBack(1)知財判決速報2006 

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1. [著作権][裁判]法律書の発行差し止め(3)  [ 言いたい放題 ]   2006年04月07日 00:11
とりあえずメモ。 法律書の発行差し止め(1)〜やっとアップされました。〜  http://d.hatena.ne.jp/okeydokey/20050524/1116939072 法律書の発行差し止め(2)  http://d.hatena.ne.jp/okeydokey/20050526/1117047990 控訴審判決がでてます。 控訴審 知財高判平成18年3月1...