最高裁判所HP 知財判決速報より

H18.1.23 大阪地裁 平成15(ワ)13847 不正競争 民事訴訟事件

大阪地方裁判所第26民事部
裁判長裁判官 山田知司
裁判官    高松宏之
裁判官    守山修生

(便宜的に本事案を、第3事件とします)


★第1事件
H16.9.13 大阪地裁 平成15(ワ)8501 不正競争 民事訴訟事件

大阪地方裁判所第26民事部
裁判長裁判官 山田知司
裁判官     中平 健
裁判官     守山修生



★第2事件
H17. 9. 8 大阪地裁 平成16(ワ)10351 不正競争 民事訴訟事件

大阪地方裁判所第21民事部
裁判長裁判官 田中俊次
裁判官    高松宏之
裁判官    西森みゆき


(3つの事件とも原告会社は同一、被告会社は全て別会社です)


■事案

ストラップレスのブラジャー「ヌーブラ」の類似商品の輸入・販売差止、損害賠償等を巡って争われた事案


■結論

一部認容(原告側一部勝訴)



■争点

条文 不正競争防止法2条1項3号、1号、2号


1 3号関係

  1 独占的販売権者の請求主体性

  2 「通常有する形態」性 

  3 商品形態「模倣」行為性


2 1号周知商品表示性

3 2号著名表示性

4 損害額の算定(略)


■判決内容

1-1 独占的販売権者の請求主体性

ヌーブラを商品化した米国法人と日本国内での独占的販売契約を締結した
原告の請求主体性が問題となりました。


まず、判例は本号の保護の対象について、

形態を模倣された商品を開発,商品化して市場に置くに当たり,自ら費用や労力やリスクを負担した者(すなわち開発者)

であるとし、そのうえで独占的販売権を付与された者についても請求主体性が
あるかどうか検討。

開発者が開発に係る商品を市場展開する形態は,自己の手において販売を行うものに限られず,様々な形態があり得,その中には,一定地域について,当該商品の独占的販売契約を締結し,同時に開発者自身は当該地域において当該開発商品の取引活動を行わないという義務を負うことにする場合がある。このような場合,独占的販売権を認められた者は,結果として,当該地域における当該開発商品の市場利益を独占できる地位を得ることになるが,独占的販売権者が有するこのような独占的地位ないし利益は,後行者が模倣行為を行うことによってその円満な享受を妨げられる性質を有するものである。そして,この独占的地位ないし利益は,前記のような3号が保護しようとした開発者の独占的地位に基礎を有し,いわばその一部が分与されたものということができるから,第三者との関係でも法的に保護されるべきものというべきである。
 また,独占的販売権者は,独占権を得るために,開発者に対し,当該開発商品を流通段階で取り扱う単なる販売者には課されない相応の負担(最低購入量の定めなど)を負っているのが常であり,開発者は商品化のための資金,労力及びリスクを,商品の独占の対価の形で回収し,独占的販売権者はそれらの一部を肩代わりしていることになるから,独占的販売権者を保護の主体として,これに独占を維持させることは,商品化するための資金,労力を投下した成果を保護するという点でも,3号の立法趣旨に適合するものである。
 さらに法文を見ても,不正競争防止法は,2条1項において「不正競争」を定義し,同項3号では,他人の商品の形態を模倣した商品を譲渡等する行為を不正競争とし,差止請求の主体について,3条1項において,「不正競争によって営業上の利益を侵害され,又は侵害されるおそれがある者」としており,損害賠償請求の主体については,4条において,不正競争により「営業上の利益を侵害」された者を損害賠償請求の主体として予定しているものと解され,例えば特許法100条1項が差止請求の主体を「特許権者又は専用実施権者」としているのとは異なった規定の仕方をしている。したがって,独占的販売権者も,3号所定の不正競争によって営業上の利益を侵害され,又は侵害されるおそれがある者に該当すると解したとしても,文言上の妨げはないというべきである。


以上の点を考慮すると,独占的販売権者の有する独占的地位ないし利益は,3号によって保護されるべき利益であると解するのが相当であり,独占的販売権者も3号により保護される主体たり得るものと解するのが相当である。

として、一定範囲の独占的販売権者の請求主体性を肯定しました。

その上で原告と米国法人との間の独占販売権契約の内容を詳細に検討。

原告が年間購買量を義務付けられている、米国法人は並行輸入を防止する
努力義務を負う等の規定から、原告が日本国内で単純な独占的販売権を
付与されるだけではなくて、米国法人も販売活動を日本国内で行わない、
また販売不振の際のリスクを原告が負う契約内容である。

こうした契約内容からすれば、原告は3号の保護を受け得るもので
あるとしました。


ところで、3号の請求主体性については学説、判例上見解が
分かれています。


[否定的見解]

判例上、先例となるキャディバッグ事件
H11. 1.28 東京地裁 平成10(ワ)13395 不正競争 民事訴訟事件
において、請求主体性が否定されていました(控訴審 東高判H11.1.28)。

この点田村先生も、立法趣旨から「商品化した者」と狭く捉えて
独占的販売権者の請求主体性を否定されています。
田村善之「不正競争法概説」(2003)319頁以下。

また、キャディバッグ事件の判旨、結論を肯定する見解として、
山本庸幸「要説不正競争防止法第三版」(2002)131頁参照。

なお、第1事件判決に疑問を呈する見解として、
小谷悦司後掲論文17頁参照。


[肯定的見解]

学説上肯定する見解として、

高部真規子「新裁判実務大系 4知的財産関係訴訟法」(2004)434頁、
渋谷達紀「知的財産法講義3」(2005)97頁以下


なお、独占的販売権付与の契約と差止請求権付与の法律構成(代位権構成)、
訴訟信託の問題などにも言及したものとして、牧野利秋監修飯村敏明編集
座談会 不正競争防止法をめぐる実務的課題と理論」(2005)
129頁以下、141頁以下参照。


★第1事件と第2事件について

ところで、第1事件では、独占的販売業者の請求主体性を肯定しています。
第1事件の判決が、請求主体性の問題での肯定例の先例として
取上げられています。
(小松一雄編著「不正競業訴訟の実務」(2005)283頁以下、
青山紘一「不正競争防止法第二版」(2005)67頁)

もっとも、今回の第3事件での判示のほうが独占販売権契約の内容を詳細に
検討しており、第1事件より論拠が厚くなっています。

この点、第2事件では、請求主体性の判断に至っていません。



1−2 「通常有する形態」性

この点についての被告の主張を認めず、
「同種の商品が通常有する形態であるとはいえ」ないとしました。


1−3 商品形態模倣行為性


検甲2号証によれば,被告商品の形態は,上記原告商品の形態と,その基本的形態のみならず具体的形態まで含めて同一といえるほど酷似していると認められる。
 そして,このような両者の形態の同一性に加え,原告商品が米国及び台湾で販売された後に日本で販売され(弁論の全趣旨),さらに日本で販売されてから数か月後に被告商品が輸入・販売されたこと,それら以前に被告商品が販売されたことを窺わせる証拠が何らないことを併せ考えると,被告商品の形態は,原告商品の形態に依拠して作られたものと推認するのが相当である。
 したがって,被告商品の形態は,原告商品の形態を模倣したものと認められる。



3号の「模倣」の判断要素としては、

1 他人の商品に依拠すること(依拠性
2 実質的に同一の形態であること(実質的同一性

が判例上認められていましたが、
この二つの要件は平成17年改正で第2条5項に定義規定として
明記されました。
(「逐条解説不正競争防止法平成16.17年改正版」(2005)33頁以下)

第3事件ではいずれの要素も認めて「模倣」性を肯定しました。


2 1号周知商品表示性

類似品や並行輸入品が大量に出回っていたことなどから、裁判所は
原告商品の商品形態が原告の出所を表示する周知な商品表示であるとは
認めませんでした。


3 2号著名表示性

1号での判断と同様、著名表示性も否定しました。


 結論

結論として、第3事件では3号の模倣行為に関する原告の主張を肯定、
損害賠償請求を認めました。
(なお、3号に基づく差止請求はしていません。)



■コメント

不正競争防止法第2条1項3号は、平成5年改正によって新設された規定で
(平成17年にも改正されました)、デッドコピーから商品化のために
コスト・リスクを負担した者を保護しようとした規定です。

平成17年改正で「形態」と「模倣」について定義規定が新設されたりと
(第2条4項、5項)、判例等の集積を踏まえた法律の改正が続けられています。


ところで、第1事件と第3事件では判断した裁判官が重なるので、
判決内容のトーンとしては同じようなものになったものと思われます。

ただ、第1事件にはサイトに添付ファイルがあって被告商品の形態が
視覚的にある程度分かりますが、第3事件にはそれがないので、
両事件での被告商品の間にどの程度の形態上の差異があるか不分明です。

もっとも、「模倣」性の判断について、第1事件でも基本的形態と
具体的形態の点での酷似性を認めていますので、第3事件のものと
ほぼ同じ形態の商品と考えていいかもしれません。


なお、第2事件(大阪地方裁判所第21民事部裁判官 田中俊次、
高松宏之、西森みゆき)では、3号も含めて不正競争行為を否定して
います。

第2事件では基本的形態の共通性は肯定されましたが、具体的形態
(カップの質感や艶)の点で相違がある等から実質的同一性を否定、
「模倣」性を認めませんでした。

被告商品の形態が第1事件と第2事件とで異なれば、結論が異なるのも
「当然のこと」です(小谷悦司「ヌーブラ不正競争防止法第2事件に
おいて、ヌーブラ第1事件(大阪地判平16.9.13)と「模倣性」につき
異なる判断が示された事案について
21世紀知的財産研究会PDF15頁参照)。

また、第2事件に関する論説として、牛木理一先生のサイト
牛木内外特許事務所 裁判例研究「ブラジャー事件」)参照。

なお、第1事件では判決では3号関係のみ検討していて
1号と2号の争点については検討していません。
(この点、各号の選択的併合の例としてあげるものとして、
小松編前掲書27頁。)



■参考判例(「模倣」に関する判例のいくつか)

・ドラゴンソード・キーホルダー事件
H10. 2.26 東京高裁 平成08(ネ)6162 不正競争 民事訴訟事件

・タオルセット事件
H10. 9.10 大阪地裁 平成07(ワ)10247 不正競争 民事訴訟事件

・携帯電話アンテナ事件
H13. 9.20 東京地裁 平成10(ワ)15228 不正競争 民事訴訟事件


■参考文献

最新不正競争関係判例と実務第二版」(2003)265頁、229頁、234頁、247頁、408頁等
小野昌延「不正競争防止法概説」(1994)166頁以下
松村信夫「不正競業訴訟の法理と実務第三版」(2001)231頁以下
竹田稔「知的財産権侵害要論 不正競業編改訂版」(2003)103頁以下
牛木理一「商品形態の保護と不正競争防止法」(2004)34頁以下
金井重彦ほか編「不正競争防止法コンメンタール」(2004)55頁以下


■追記(06.4.26)

第2事件の控訴審判決がありました。


対ピーチ・ジョン事件(第2事件)
大阪高裁平成18年04月19日 平成17年(ネ)第2866号 不正競争行為差止等請求控訴事件PDF

裁判長裁判官 若林諒
裁判官    小野洋一
裁判官    長井浩一

結論:控訴棄却


■追記(09.10.02)

「知」的ユウレイ屋敷
[不正競争]ヌーブラ事件の評価