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2006年01月27日

「フィギアドール不正競争行為」事件〜不正競争防止法損害賠償等請求事件判決(知財判決速報)〜

最高裁判所HP知財判決速報より


★控訴審
H18.1.25 知財高裁 平成17(ネ)10060等 不正競争 民事訴訟事件


★原審
H16.11.24 東京地裁 平成14(ワ)22433等 不正競争 民事訴訟事件



■事案

球体(球状)関節人形(フィギア・ドール)やそのかつら、衣装などを
製造、販売する同業他社の双方が提携関係解消に伴い不正競争行為等を争った事案

原告が被告の虚偽事実告知流布行為に基づく損害賠償請求を訴求した
のに対して(甲事件)、
被告は債務不履行、誤認混同行為に基づく損害賠償請求等を内容とする
訴訟を提起しました(乙事件)。


■結論

一部変更(原告側 実質勝訴維持)



■争点

条文 不正競争防止法2条1項1号、14号、3条1項、4条、7条、民法415条

1 継続的業務委託契約における秘密保持義務及び競業避止義務の有無
2 商品の形態が「商品等表示」にあたるか
3 虚偽事実の告知流布行為の有無
4 損害額の算定


■判決内容

1 継続的業務委託契約における秘密保持義務及び競業避止義務の有無

被告会社は原告会社に女性ドール用頭部、洋服、小物等のドール素材部品の
製造業務やセット完成品のパッケージング業務を内容とする継続的業務委託契約を
締結していました。
ところが、契約中に原告が被告製品と競合するような類似のドールを
製造・販売したことから、まず第一点として契約上の秘密保持義務違反、
競業避止義務違反に基づく債務不履行責任(民法415条)を被告側は主張。

この点について、原審は被告の主張を認めず、控訴審でも原審の判断を支持しています。


被告の主張する競業避止義務及び営業秘密義務は,その性質上,原告の事業活動を大きく制約するものであるから,原告,被告間において,原告が負担することになる不作為義務の具体的内容,範囲,制約を受ける期間,地域等について詳細に協議,検討,意思確認がされ,確認された意思を反映した書面が作成されることが一般であるといえる。しかるに,本件においては,原,被告間で本件業務委託契約が締結され,委託業務が継続する過程で,このような申し出や協議がされた形跡は全くなく,また,その旨を明記した書面が作成されたこともないのであるから,原告が,被告主張に係る各義務を負担したと認定することはできない。また,本件全証拠によるも,被告主張に係る合意がされたことを推認させる合理的な事情を認めることもできない。
   したがって,被告の債務不履行に基づく請求は,その余の点について判断するまでもなく,理由がない。
』(原審)


原審の判断に加えて、控訴審では信義則上これらの義務を負うかどうかを
判断しています。

控訴人は,被控訴人は控訴人に対して秘密保持義務及び競業避止義務を負うと解するのが通常の契約意思に合致するだけでなく,信義則上も相当であると主張する。
 しかしながら,控訴人と被控訴人とが継続的な取引関係にあり,被控訴人が控訴人商品の頭部の接着や控訴人商品の箱詰等の作業を控訴人から受託し,控訴人商品に関する商品情報の提供を受けていたとしても,それによって,被控訴人が控訴人に対し,自らの営業活動が制限される競業避止義務や営業秘密保持義務を信義則上当然に負うと解することはできない。
 本件証拠を総合しても,本件業務委託契約に際し,控訴人と被控訴人が,書面又は口頭により競業避止義務や営業秘密保持義務について明示的に合意し,又は控訴人と被控訴人の間で黙示的な合意がなされたと認めるに足る証拠はない。
 したがって,控訴人の主張には理由がない。
』(控訴審)



2 商品の形態が「商品等表示」にあたるか(不正競争防止法2条1項1号)

被告商品であるドールと類似する商品を製造販売した行為が
不正競争防止法2条1項1号の誤認混同行為にあたるとの被告側の主張について、
原審・控訴審ともにこれを容れませんでした。


まず、商品の形態と「商品等表示」要件との関係について、従来の判例の立場を踏襲。

商品の形態は,必ずしも商品の出所を表示することを目的として選択されるものではないが,商品の形態が他の商品と識別し得る独特の特徴を有し,かつ,商品の形態が長期間継続的かつ独占的に使用され,又は,その使用が短期間であっても商品形態について強力な宣伝等が伴う場合には,商品の形態が,商品自体の機能や美観等の観点から選択されたという意味を超えて,自他識別機能又は出所表示機能を有するに至ることがあり得る。』(原審)


そのうえで、本事案について

被告が特徴的形態であると主張する被告商品形態1ないし3は,いずれも,女性の人体の形状又は動作を表現するという被告商品の目的に由来するものであって,需要者に強い印象を与える特徴的な形態ではなく,被告商品の広告や販売の状況等に照らしても,その形態が,自他識別機能又は出所表示機能を有する商品等表示であると認めることはできない。』(原審)

として、ドールの形態が「商品等表示」にはあたらないと判断しています。

商品の形態が自他識別機能又は出所表示機能を有し、「商品等表示」にあたると
いえるためには特別顕著性を持っていなければなりませんが、
本件では認められませんでした。


なお、控訴審でも、原審の認定を維持しています。

控訴人は,控訴人商品の胴体部,脚部,肘・膝関節のいずれの部位も,女性らしく美しいポーズを表現したものであり,機能的な面のみを強調すべきではないと主張する。
 しかしながら,そもそも商品の形態は本来的に商品の出所を表示することを目的とするものではないところ,控訴人商品は女性ドール用素体であるから,その性質上,商品の形状は女性の人体に限定されるとともに,機能面においては女性の人体にできるだけ近い自然な姿勢や動作を取り得る構造が求められ,商品として選択し得る形態には自ずと制約がある。
 控訴人が控訴人商品の特徴点であると主張する胴体部,脚部,肘・膝関節の構成は,原判決も認定判断するように,いずれも女性の人体が取り得る動作を実現するための機能的な理由に基づくものであるか,女性の体型の特徴をできるだけ忠実に表現しようとするものであり,その形態について女性らしく美しく見えるように工夫が凝らされているとしても,控訴人商品が需要者に強い印象を与えるような独自の特徴を備え,その形態自体が商品識別力を有するものとは認められない。
 したがって,被控訴人商品の形態が不正競争防止法2条1項1号にいう商品等表示に該当するということはできない。
』(控訴審)



3 虚偽事実の告知流布行為の有無(不正競争防止法2条1項14項)

被告が取引先の卸問屋に原告の類似ドール製造販売行為の法的対応として
訴訟をする意思がある旨告知している点について、
虚偽事実の告知に該当すると判断。
過失(不正競争防止法4条)も認定して、結論的に同法2条1項14項に基づく
損害賠償請求を認めました(原審、控訴審ともに)。


同条項号の「虚偽の事実」とは、客観的に事実に反することをいい、
結果的に告知内容が虚偽であれば本号を充足します
(金井重彦・山口美恵子・小倉秀夫編著「不正競争防止法コンメンタール」(2004)151頁)。


本事案では、原告の類似ドール販売行為が契約上も不正競争防止法上も
なんら被告に対して責任を負うものではないと認定されたことから、
法的根拠に基づかない訴訟提起の告知行為は「虚偽の事実」にあたると
判断されました。



4 損害額の算定

虚偽事実告知流布行為に基づく損害賠償が認められ、
原審では有形無形の損害として300万円、弁護士費用として100万円、
合計400万円が認められていました。
これに対して控訴審では、有形無形損害として200万円、
弁護士費用として30万円、合計230万円と減額の判断となりました。



■コメント

被告会社は年商50億。かたや下請けとして業務委託契約を締結していた原告会社は年商6億。
会社の規模としてかなりの差があるようですから、
事案としては「下請けいじめ」ととられかねない内容のものです。


ところで、「球体(球状)関節人形」というと思い浮かぶのが
独特の世界観を見せるハンス・ベルメール
また先年発表された押井守監督作品「イノセンス」でも
球体関節人形は物語の中で重要な地位を占めていました。
その人形(ドールもしくはフィギュアというほうが正しいのでしょうか)の
形態を巡って争われたのが本件です。

ただ、こうしたドールは以前からあったわけですし、
ドールの形態に特別顕著性を認めるには困難な事案だったと思われます。


なお、フィギアの著作権を巡って争われた事案としては、
昨年チョコエッグ海洋堂事件判決がありました。

H17. 7.28 大阪高裁 平成16(ネ)3893 著作権 民事訴訟事件


この事案を通してフィギアというジャンルに人気があることを知りましたが、
今回のドールにもかなりの取引量があることに驚かされました。




■参考判例

★商品の形態と商品等表示について、
明確に理論的に成立の余地を認めた判例としてファーストプリンター(事務用オフセット印刷機)事件(大阪地判S35.5.30)「最新著作権関係判例集1」830頁以下。

また、商品の形態の商品等表示該当性を初めて肯定した事案として
眼鏡枠(ナイロール)事件(東京地判S48.3.9)「最新著作権関係判例集1」854頁以下。

なお、最近の判例として、
ソーテック対アップル(iMAC)事件参照(「最新不正競争関係判例と実務第二版」(2003)310頁以下)。

H11. 9.20 東京地裁 平成11(ヨ)22125 不正競争 民事仮処分事件




■参考文献

田倉整ほか編「実務相談不正競争防止法」(1989)46頁以下
小野昌延「不正競争防止法概説」(1994)88頁以下
山本庸幸「要説不正競争防止法第三版」(2002)53頁以下
田村善之「不正競争法概説」(2003)119頁以下

なお、「競争上似ざるをえない形態の商品等表示該当性」について
田村前掲書126頁以下、
牧野利秋監修・飯村敏明編「座談会 不正競争防止法をめぐる実務的課題と理論」(2005)5頁以下参照。



■訴訟当事者のサイト

原告会社

オビツ製作所

被告会社

ボークス




written by ootsukahoumu at 15:30│Comments(0)TrackBack(0)知財判決速報2006 

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