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2006年01月22日

「天理教名称使用差止」事件〜不正競争防止法 名称使用差止等請求事件判決(最高裁HPより)〜

最高裁判所HP「最近の主な最高裁判決」「知財判決速報」より


★上告審
平成18.1.20 第二小法廷判決 平成17年(受)第575号 名称使用差止等請求事件


★控訴審
H16.12.16 東京高裁 平成16(ネ)2393 不正競争 民事訴訟事件


★原審
H16.3.30 東京地裁 平成15(ワ)23164 不正競争 民事訴訟事件



■事案

天理教の教会本部傘下にかつてあった地方の一般教会が離脱後も「天理教○○教会」という名称を使用して活動している点について、教会本部がその名称使用の差止、名称登記抹消手続を求めた事案



■結論

上告棄却(原告である教会本部側の敗訴 一審原告側勝訴 二審原告敗訴)



■争点

条文 不正競争防止法1条、3条、2条1項1号、同条項2号

1 宗教法人が行う事業活動が、不正競争防止法上の「事業」や「営業」にあたるか
2 宗教上の人格権に基づく名称権の侵害となるか



■判決内容

1 宗教法人が行う事業活動が、不正競争防止法上の「営業」にあたるか

最高裁は、同法の目的を明らかにしたうえで、自由競争秩序維持が求められる分野では
広く適用が認められる必要があるとする一方、そもそも取引社会における事業活動と
評価されないものは同法の規律が及ばないと言及。そして、

これを宗教法人の活動についてみるに,宗教儀礼の執行や教義の普及伝道活動等の本来的な宗教活動に関しては,営業の自由の保障の下で自由競争が行われる取引社会を前提とするものではなく,不正競争防止法の対象とする競争秩序の維持を観念することはできないものであるから,取引社会における事業活動と評価することはできず,同法の適用の対象外であると解するのが相当である。また,それ自体を取り上げれば収益事業と認められるものであっても,教義の普及伝道のために行われる出版,講演等本来的な宗教活動と密接不可分の関係にあると認められる事業についても,本来的な宗教活動と切り離してこれと別異に取り扱うことは適切でないから,同法の適用の対象外であると解するのが相当である。

と判示しました。

もっとも、

これに対し,例えば,宗教法人が行う収益事業(宗教法人法6条2項参照)としての駐車場業のように,取引社会における競争関係という観点からみた場合に他の主体が行う事業と変わりがないものについては,不正競争防止法の適用の対象となり得るというべきである。

とも言及しました。


結局、

上記「営業」は,宗教法人の本来的な宗教活動及びこれと密接不可分の関係にある事業を含まないと解するのが相当である。

としたうえで、一般教会側は問題となった名称を使用している実際の活動が
朝夕の勤行などの本来的な宗教活動にとどまっているとして
不正競争行為には該当しないと結論付けました。



2 宗教上の人格権に基づく名称権の侵害となるか

宗教法人も人格的利益を有しており,その名称がその宗教法人を象徴するものとして保護されるべきことは,個人の氏名と同様であるから,宗教法人は,その名称を他の宗教法人等に冒用されない権利を有し,これを違法に侵害されたときは,加害者に対し,侵害行為の差止めを求めることができると解すべきである。

として、宗教法人の名称も冒用行為から保護を受けうるとしました。

もっとも、本件では一般教会側が50年以上(沿革的には80年以上)その名称を
使用しているという事情なども勘案して結論的には名称権が違法に侵害されては
おらず、差止請求は認められないと判断しました。





■コメント

宗教法人の名称使用が不正競争防止法上の規整を受けるかどうかという点が争われた事案です。

下記参考判例のように、公益法人や技芸を目的として活動している団体の
営業活動的側面への同法の適否については判例の集積がありましたが、
宗教法人に関しては今回の事案が初の判断であると思われます。

一審(高部真規子裁判長)では、こうした判例の流れの中で宗教法人の行う事業も
広く経済上の収支計算の上に立って行われるものである、として
不正競争防止法の適用が一般的にあると判断しました。

これに対して二審(青柳馨裁判長)では、同法の「営業」の意義については
一審と同様に捉えつつも、市場経済とかかわりのない宗教活動については
「営業」にあたらないと判示しました。

そして最高裁でも二審と同様の観点から、「営業」とは、宗教法人の
本来的な宗教活動及びこれと密接不可分の関係にある事業を含まないとしつつ、
宗教法人の駐車場経営(宗教法人法6条2項)などは同法の適用がありうると
しました。
したがって、宗教法人の収益活動に関しては同法の適否はケースバイケースの
判断となります。



宗教法人内部で紛争が起こって名称の継続使用が問題となるという同様の事態は
今後も起こりうるものと思われます。
本事案では、たまたま一般教会側は収益事業を一切行っていませんでしたが、
宗教法人経営上収益活動を行うことが一般的であるわけですから
その場合の名称使用差止のリスクが十分あることに気をつけなければなりません。



■参考判例

★「営業」の意義について、田村善之「不正競争防止法概説第二版」(2003)68頁に
掲載されている判例より。


京橋病院対京橋中央病院事件(東京地裁S37.11.28判決 最新著作権関係判例集2−2 608頁以下)

同法の規整対象は、「広く経済上その収益計算の上に立つて行わるべき事業をも含むと解するを相当とする」として病院経営も対象となると判断した事案


五輪マーク仮処分事件(東京地裁S39.9.25決定 最新著作権関係判例集1 11頁以下)

JOCは営業活動を行うものではないので、不正競争防止法の適用はないと判断した事案
(もっとも、現時点でも判断内容が維持されるか疑問)


財団法人都山流尺八楽会対都山流尺八協会事件(大阪高裁S54.8.29判決 最新著作権関係判例集3 717頁以下)

尺八楽の振興を目的とする公益法人の事業も「営業」にあたるとされた事案


少林寺事件(大阪地裁S55.3.18判決 最新著作権関係判例集3 726頁以下)

少林寺拳法の研究普及活動上の収益事業について、先の京橋病院事件を引用して
「営業」にあたると判断した事案


「花柳」姓使用差止事件(大阪地裁S56.3.30決定 最新著作権関係判例集3 703頁以下)

日本舞踊の伝承・発展活動での家元の営業活動的側面について、
「経済上の収支計算の上に立つて経済秩序の一環として行われる事業活動である」として
不正競争防止法上の「営業」にあたると判断した事案

なお、同様な家元制度での適用を肯定した最近のものとして「清派音羽流名称使用差止事件」があります。

H 7. 9.28 大阪地裁 平成05(ワ)1278 不正競争 民事訴訟事件



呉青山学院中学校事件(東京地裁H13. 7.19判決)

H13. 7.19 東京地裁 平成13(ワ)967 不正競争 民事訴訟事件

私立学校経営に関して、同法の適用を肯定した事案です。

不正競争防止法2条1項1号にいう「営業」とは,広く経済的対価を得ることを目的とする事業を指し,病院等の医療事業,予備校の経営や慈善事業等をも含むものであって,私立学校の経営もこれに含まれるものというべきである。

この点について,被告は,私立学校については公費の補助なくして事業を行い得ないことから,その経営は経済上の収支決算の上に立って行われる事業ではなく「営業」に当たらないと主張する。しかし,私立学校を経営する主体である学校法人が営利事業を目的とする商人でないことは,社会通念上明らかなところであるが,不正競争防止法にいう営業とは,単に営利を目的とする場合のみならず,広く経済上その収支計算の上に立って行われる事業をも含むものであって,それが国や地方公共団体からの補助金の収入をも含んだ収支計算であっても,営業に該当する旨の判断を妨げるものではない。被告の主張は,失当である。



■追記(06.1.23)

本判決の分かりやすい評釈として、「企業法務戦士の雑感」さんのブログがあります。

企業法務戦士の雑感


■追記(06.1.26)

参考文献

不正競争防止法上の「営業」の意義について

田倉整・元木伸編「実務相談 不正競争防止法」(1989)127頁以下
小野昌延「不正競争防止法概説」(1994)106頁以下
山本庸幸「要説不正競争防止法第三版」(2002)66頁以下
小野昌延編著「不正競争の法律相談改訂版」(2002)61頁以下、64頁以下
竹田稔「知的財産権侵害要論 不正競業編改訂版」(2003)53頁
寒河江孝允編著「不正競争の法律相談」(2005)174頁以下
青山紘一「不正競争防止法第二版」(2005)39頁
経産省知財政策室編著「逐条解説 不正競争防止法 平成16.17年改正版」(2005)45頁以下


written by ootsukahoumu at 12:19│Comments(0)TrackBack(0)知財判決速報2006 

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