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2005年12月31日

「『本当にあったHな話』商標権侵害」事件〜商標権使用差止等請求判決(知財判決速報)〜

知財判決速報より

H17.12.21 東京地裁 平成16(ワ)8092 商標権 民事訴訟事件

企業法務戦士の雑感[企業法務][知財] 『本当にあったHな話』


■事案

原告登録商標である「本当にあったHな話
(登録番号4703152 指定区分第16類 雑誌等)について、
同業他社が漫画雑誌に類似標章を使用していたとして
販売差止、損害賠償請求を求めた事案。



■結論

請求一部認容



■争点

条文 商標法第2条3項、36条、38条2項、民法709条

1 商標の類似性
   1 外観
   2 称呼
   3 観念
   4 取引の実情

2 商標的使用の有無(キャッチフレーズ的使用)
3 差止請求の可否
4 損害賠償額の認定(特に寄与率認定)


■判決内容

1 商標の類似性


裁判所は被告標章1について、

1 外観

本件商標と,被告標章1(1)ないし(3)及び(5)の外観を比較すると,全体を上下2段に分けて,上段に「本当にあった」部分を,下段にその余の部分を表示した点,上段の「本当にあった」部分については,左端から大きく横書きで「本当」と表示し,その右側に「本当」の約2分の1の大きさの文字で「にあった」を上下2段に分けて上段に「に」を,下段に「あった」を配置することにより表示した点,下段の部分については,「H」を全体で最も大きな文字で表示し,その右側に「な」及び「話」を配置し,「な」を「H」及び「話」より小さな文字で表示した点において共通している。また,本件商標と,被告標章1(4)の外観を比較すると,全体を上下2段に分けて,上段に「本当にあった」部分を,下段にその余の部分を表示した点,下段の部分については,「H」を全体で最も大きな文字で表示し,その右側に「な」及び「話」を配置し,「な」を「H」及び「話」より小さな文字で表示した点において共通している。
本件商標と被告標章1とは,用いられている文字の字体(角の丸み等)や色,縁取りの有無,「てんこ盛り!」という語の有無などの点で,異なる点はあるが,言語及び文字の配置により,「本当にあったHな話」部分が看者の目を引くように表示され,また,当該部分の文字の配置が同一又はほぼ同一であって,「本当」,「H」,「話」の文字が大きく表示され,とりわけ,「H」の部分が最も強調されている点などで共通していることから,取引者・需要者に与える印象を同じくするものである。
したがって,本件商標と被告標章1の外観は,類似するというべきである。


2 称呼

本件商標からは「ほんとうにあったえっちなはなし」の称呼が,被告標章1からは「ほんとうにあったえっちなはなしがてんこもり」の称呼が生じる。
本件商標と被告標章1の称呼を比較すると,本件商標から生じる称呼の全部は,被告標章1から生じる称呼に含まれており,両者は,被告標章1の末尾に「がてんこもり」が付加されている点において相違するにすぎないから,本件商標と被告標章1とは,称呼が類似するというべきである。


3 観念

Hな」とは,「性に関する言動が露骨な」,「性的にいやらしい」という意味を有する語であり,「てんこ盛り」とは,「食器に食物(特に飯)をうず高く盛ること」,「山盛り」という意味を有する語であることが明らかである。
したがって,本件商標からは,「本当にあった性的にいやらしい話」といった観念を生じ,被告標章1からは,「本当にあった性的にいやらしい話が非常に多くある」といった観念を生じる。
本件商標と被告標章1の観念を比較すると,被告標章1から生じる観念は,本件商標から生じる観念を含み,それに量の観念が付加されているにすぎないから,本件商標と被告標章1とは,観念が類似するというべきである。


4 取引の実情

証拠(甲3の1・2,甲4の1の1・2,甲4の2の1・2,甲4の3の1・2,甲4の4の1・2,甲4の5の1・2)及び弁論の全趣旨によれば,原告雑誌及び本件雑誌1は,いずれも成人男性向け漫画雑誌であり,成人男性を需要者とするという実情があるものと認められるが,成人男性であれば,「がてんこ盛り」というわずかな付加的記載の有無によって,本件商標と被告標章1とを識別し,両者を混同することがないものと認めるべき合理的理由はないから,被告の上記主張を採用することはできない。
また,被告は,原告雑誌や本件雑誌1と同趣旨で発行されている本案系雑誌は,いずれも表紙の視覚的構成が近似しており,需要者は混同することなく題号を識別して商品の選択をしているという実情があると主張する。
しかし,表紙の視覚的構成が近似する雑誌がある中で,需要者が混同することなく題号を識別して商品の選択をしていると認めるに足りる証拠はなく,これは客観的根拠を欠く被告の憶測にすぎない上,原告雑誌や本件雑誌1の需要者が通常人よりも高い注意力を有して当該雑誌を選択しているとも認められないから,被告の主張を採用する余地はない。



以上の諸点の検討から被告標章1については類似性を肯定。
同様の検討から、被告が使用していた三種類の標章のうち
被告標章3についても類似性を肯定しました。


・「本当にあったHな話」(原告登録商標)


1「本当にあったHな話がてんこ盛り!」(被告標章1)→類似性肯定

2「実際にあったエロ話がてんこ盛り!」(被告標章2)→   否定

  「観念」のみ類似するにとどまりました。  

3「本当に出会ったH(エッチ)な話」 (被告標章3)→    肯定

  「外観」は類似しないもののトータルで類似性が肯定されました。





2 商標的使用の有無(キャッチフレーズ的使用)

本件雑誌1(1)ないし(4)においては,本件雑誌1の題号である「まんが快援隊」は,本件雑誌1の表紙の右上部に記載されているが,いずれも他の文字,写真又は絵の陰に隠れて判読が困難である。これに対し,被告標章1(1)ないし(4)は,本件雑誌1の表紙の左上部に表示され,被告標章1の占める部分の大きさは,題号の占める部分の大きさとほぼ同程度であり,さらに,題号より前面に押し出されて需要者に強い印象を与える構成となっている。また,本件雑誌1(5)においては,被告標章1と本件雑誌1の題号である「まんが快援隊」とが共通の横長の長方形の枠の中に表示され,被告標章1が占める部分の大きさと本件雑誌1の題号が占める大きさとはほぼ同程度となっているから,題号と同等の表示であるとの印象を受ける構成となっている。
したがって,被告標章1は,出所を表示する機能を果たす態様で用いられているものであり,商標として使用されているものと認められる。
被告は,題号は必ず裏表紙(背表紙)にも表示されているから,裏表紙(背表紙)の表示を見れば,被告標章1がキャッチコピーであることは容易に判別できる,と主張する。
しかし,本件雑誌1の需要者が,裏表紙(背表紙)を確認し,題号を判別してから購入するのが通常であるとする合理的根拠は認められず,かえって,被告標章1が毎号ほぼ同じ位置(表紙の左上部)に付されていること,本件雑誌1の裏表紙(背表紙)に表示された題号部分の大きさが被告標章1の大きさに比して非常に小さいことを考慮すれば,本件雑誌1の需要者が,被告標章1も題号と同等のものと認識しているものと推認され,被告の上記主張は採用することができない。



商標の使用については、商標法第2条3項に定義規定があります。
商標の「使用」にあたるかどうかは、形式的には本条項の、
実質的には自他商品識別機能(出所表示機能など)の観点から
検討されることになります。

したがって、商品に商標を付して利用する行為が
形式的には第2条3項の各規定に該当するように考えられる場合
であっても、ただちに商標の「使用」とはいえない場合も
あるわけです。

本事案のようなキャッチフレーズ(キャッチコピー)的な利用の場合も
その適否は個別具体的な判断となります。

(・榎戸道也「商標としての使用」『新裁判実務大系 知的財産関係訴訟法
                  (2004)397頁以下
 ・寒河江孝允監著「商標の法律相談」(2004)104頁以下参照 )


3 差止請求の可否

事実経緯から差止の必要を認めています。


4 損害賠償額の認定(寄与率について)

被告標章が販売利益に対して寄与した程度(寄与率)について
裁判所は、

商標権は,特許権・実用新案権等の他の工業所有権と異なり,何らかの創作的価値を製品自体に付与するものではなく,商標に化体された営業上の信用を意味するものである。一般に,商標権侵害においては,侵害者の利益が当該登録商標の顧客吸引力のみによって達成されていることはむしろ稀であり,侵害者の商品自体の内容や侵害者の営業努力等の事情が相まって利益を上げているというのが,通常である。そして,雑誌の売上げは,一般に,雑誌自体の内容に大きく影響されるものであり,雑誌の内容は,まず,表紙や目次,あるいは個別の記事に掲載された記事の見出し等により判断されるものである。このことは,原告雑誌や本件雑誌1及び3においても変わるところはないのであって,原告雑誌や本件雑誌1及び3が,雑誌自体の内容によらずに購入されるといった取引の実情が存在することを認めるに足りる証拠はない。
また,証拠(甲3の2)によれば,原告雑誌は月1回発行される雑誌であって,平成16年4月号の原告雑誌が通巻第7号であることが認められるから,原告雑誌の創刊号は平成15年10月号であると推認することができ,原告雑誌が特に販売部数の多い雑誌であることを認めるに足りる証拠はないから,本件商標が,原告雑誌の販売を通じ市場において確固たる信用ないし顧客吸引力を備えたものということはできない。
そうすると,本件において,被告が本件雑誌1及び3の販売により得た利益についての被告標章1及び3の寄与率は,10%と認めるのが相当である。


として、10%の寄与率を認定しています。
なお、原告は100%、被告は6%の寄与率を主張していました。

裁判所は結論としては、被告が得た販売利益の10%を
原告の損害額と認定しました(商標法第38条2項)。


■コメント

2005年今年最後に取上げる知財判決速報は、
企業法務戦士の雑感さんのブログ記事から
面白い事案のものを取上げてみました。


成人向け漫画雑誌でのキャッチコピー(顧客吸引用惹句)の使用と
商標としての使用の関係を巡って争われた事案です。


特許電子図書館で「本当にあったHな話」という
登録商標(登録番号4703152)を調べてみると
どのような図柄のものかがわかります。
こうした標章を登録するほどに成人向け雑誌の競争は
激しいということでしょうか。

特許電子図書館


本判決の意義、重要性については
上記「企業法務戦士の雑感」さんブログ記事を
参照していただければと思います。



■参考判例

・コカコーラ缶事件(Always事件)
H10. 7.22 東京地裁 平成09(ワ)10409 商標権 民事訴訟事件





written by ootsukahoumu at 07:09│Comments(0)TrackBack(0)知財判決速報2005 

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