知財判決速報より

H17.10.31 大阪地裁 平成16(ワ)9743 不正競争 民事訴訟事件



事案は、特許権侵害をめぐるパチスロ機販売差止仮処分申立に関してその経緯などを一方当事者がネットで公表したことについて、不法行為不正競争行為不正競争防止法第2条1項14号)にあたるかどうかが争点となったものです。

原告甲会社敗訴
結論的には不法行為の違法性を欠くものであること、また不正競争防止法違反の点については請求原因の追加自体を訴訟遅延となるとして民訴法143条4項により不許としました。


先行する特許権侵害事件の裁判については乙会社敗訴(侵害なし)となっています。

H17.7.7 東京地裁 平成16(ワ)3905 特許権 民事訴訟事件

この判断を受けて、原告甲は審理の終盤に不正競争防止法違反を請求原因として追加しましたが、許されませんでした。


原告甲は、被告乙らがしっかり調べもせずに特許権侵害との憶測をサイトに掲載し、また特許権侵害裁判でも侵害の無いことが明らかとなったことから、被告乙のサイトでの公表行為は加害目的販売妨害目的とする不法行為であり、また営業上の信用を害する虚偽の事実を流布するものである(不正競争防止法第2条1項14号)と主張したわけです。

ここでは一般不法行為の成否についてだけ触れたいと思います。

☆違法性の判断について

一般に、ある者が仮処分を申し立てた場合に、その事実と申立ての理由となった見解を公表すること自体は、仮処分を申し立てることが市民の正当な権利である以上、直ちにこれをもって違法な行為ということはできない。
 もっとも、その仮処分申立て自体が、仮処分によって裁判手続による救済を受けようとする目的ではなく、仮処分申立ては口実にすぎず、真実は専ら加害目的で相手方の信用を害する事実を公表する目的であったなどの特段の事情がある場合には、仮処分を申し立てた事実等の公表行為も、違法性を帯び得るものと解される。
   ウ もし、原告らが主張するように、被告アルゼにおいて、本件パチスロ機の製造販売が本件特許権の侵害にあたることの調査を十分にせず、その根拠が薄弱なまま、別件仮処分申立てに及んだのであれば、そのような仮処分申立ては、仮処分によって裁判手続による救済を受けようとする目的ではなかったものと疑う余地があるので、検討する。
』(判決より)

検討の結果、加害目的等特段の事情を認めるに足りる証拠は無いとして結論的には公表行為の違法性を否定しました。


いずれにしましても、企業法務としては紛争事実を公表する際には表現内容の吟味が求めらるというわけです。